
犬や猫の寿命はこの数十年で大きく伸び、ペットも人間と同じように高齢化社会を迎えるようになりました。
高齢者にとってペットとの暮らしは、孤独感を和らげたり生活に張り合いを与えたりするなど大きな意義がありますが、同時に「飼い主自身の高齢化」と「ペットの高齢化」が重なる老老介護の問題に直面することも少なくありません。
本記事では、ペットの長寿化の現状や背景、高齢者に与える影響、介護にまつわる課題や対処法などについて解説します。
目次
1.犬や猫の平均寿命が延びている!ペットの高齢化が進む背景
近年、犬や猫の平均寿命は着実に伸び続けており、ペットも人間と同様に“高齢化社会”を迎えつつあります。一般社団法人ペットフード協会が公表した調査によれば、2024年時点の平均寿命は、犬が14.90歳、猫が15.92歳となっており、2010年と比べてそれぞれ犬が1.03歳、猫は1.56歳の延びが確認されています。
以下の図は、2010年から2024年までの犬・猫の平均寿命の推移を示したものです。犬種や猫の生活環境(室内飼い・外出あり)によっても差があることが分かります。

このように、犬・猫ともに平均寿命が年々延びており、特に室内飼いの猫や超小型犬では長寿傾向が顕著です。このような変化は、ペットとの暮らし方や、老後のケアのあり方にも大きな影響を与えています。
出典:ペットフード協会「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査」
2.ペットの寿命が延びた7つの理由|医療・住環境・食事の進化
ペットの寿命が大幅に延びた背景には、医療技術や栄養学の進歩だけでなく、飼い主の意識の変化や飼育環境の改善といった社会的要因も深く関係しています。ペットの寿命が延びている主な要因は以下の通りです。
3.高齢者の健康寿命を支えるペットの癒し効果とは?
高齢化が進む中で、身体的・精神的な自立を保ちながら健康に過ごす「健康寿命」の延伸が社会的課題となっています。こうした中、犬や猫などのペットと暮らすことが、シニア世代の生活に良い影響を与えることが、さまざまな研究で明らかになってきました。
注目されているのが、加齢によって心身が衰えた「フレイル」と呼ばれる状態との関係です。日本人高齢者約7,900人を対象にした2年間の追跡調査では、ペットを飼ったことのない人と比べて、過去にペットを飼っていた人はフレイル発生リスクが0.84倍、現在飼育中の人では0.87倍に低下することがわかりました。
さらに、犬を飼っている人に限ると、リスクは0.81倍となり、およそ2割の発症リスク軽減が示されています。

ペットが高齢者の健康を保つのに役立つ理由
• 毎日の散歩が自然な運動習慣に
犬の散歩は軽度の運動となり、筋力の維持や生活習慣病の予防につながります。
• ペットとのふれあいが心を癒す
ペットとのふれあいは、精神的な癒しをもたらし、うつ予防にも効果があると考えられています。
• 介護の負担を軽くする可能性も
ペットを飼っている人は、介護費が低い傾向にあることも報告されており、
医療・介護の社会的負担軽減にもつながる可能性があります。
このように、ペットとの共生は、個人の生活の質(QOL)を高めるだけでなく、社会全体の健康維持にも貢献する存在となっています。
参照:谷口優,清野智,西真理子,東峰由衣,田中泉,横山ゆり,池内友子,北村明彦&新海正治,「犬・猫の飼育と地域在住高齢者の虚弱発症との関連」,Scientific Reports, 9(1):18604. 2019
参照:東京都健康長寿医療センター研究所「ペットとの共生が人と社会にもたらす効果」
4.高齢者がペットと暮らすうえで直面する6つの悩みと課題
ペットの寿命が延びることは喜ばしい一方で、飼い主が高齢者である場合には、介護や日常の世話に関する新たな課題が生じています。特に独居高齢者にとっては、ペットとの暮らしが心身の支えになる一方で、老老介護のリスクも高まっています。
高齢による世話の困難化
加齢に伴う体力・認知機能の低下により、食事や水の交換、清掃、散歩などの日常的な世話が困難になり、放置や虐待につながる可能性があります。特に独居の場合、周囲の住民への迷惑や自身の健康への悪影響も懸念されます。
入院・施設入所による飼育不能
急な入院や施設入所の際、ペットの預け先が確保できないと、ペットの心身に悪影響を及ぼすだけでなく、放置や殺処分のリスクも高まります。
飼い主の死後の対応
飼い主である自分自身が亡くなった後、新たな飼い主が見つからない場合、ペットが放置される可能性があり、最悪の場合は殺処分に至るケースもあります。
経済的負担
ペットフードや医療費、トリミングなどの費用がかさみ、収入が限られた高齢者にとっては生活費を圧迫する要因となります。
災害時の避難困難
避難所ではペットの受け入れが難しい場合が多く、高齢者がペットと共に避難すること自体が困難になるケースもあります。
ペットとの別離による精神的ダメージ
ペットとの別れは、高齢者にとって大きな精神的ショックとなり、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。
また、one nurseとクーミルによるアンケート調査では、「自身が高齢になった際、ペットの介護に関して心配なこと」として、以下のような声が多く挙がっています。
・散歩やトイレの世話など、体力的な負担が大きい
・入院時や災害時など、不測の事態に対応できない不安
・ペットの介護にかかる時間・費用・精神的負担

これらの課題は、65歳以上の一人暮らしが年々増加している社会的背景とも密接に関係しています。今後、ペットとの暮らしを支える制度やサービスの整備がますます重要になるでしょう。
出典:PR TIMES「ペットや飼い主が高齢になった時の心配事とは?半数以上が選ぶ第1位は「〇〇」だった!」
5.高齢ペットの介護と高齢飼い主の共通課題とは?
ペットも年齢を重ねると、人間と同じように介護が必要になる場面が増えてきます。
シニアペットのケアや介護による飼い主の悩み
食欲の低下や足腰の衰えにより散歩が困難になるほか、排泄の失敗、夜鳴き、認知症のような行動の変化が見られることもあります。寝たきりの状態では床ずれができやすく、通院や衛生管理といったケアも必要となり、飼い主には大きな心身の負担がかかります。
こうした悩みに対する相談窓口やサポートサービスを設ける企業も出てきています。
たとえば、専属獣医師によるオンライン相談では、「食事をとらない」「夜鳴きがひどい」「介護用品の選び方が分からない」といった声が寄せられており、高齢ペットのケアに関する情報ニーズの高まりがうかがえます。
シニアペットの介護負担による飼育放棄
一方で、飼い主自身も高齢者である場合には、十分な介護を続けられず、やむを得ず飼育を断念するケースが報告されています。2013年に公表された調査では、犬の飼育放棄の背景には「体力的な理由」「入院や施設入所」などがあり、放棄した飼い主の約半数が60代以上のシニア層であることが示されています。

ペットの介護は、単なる世話ではなく、飼い主の生活全体に影響を及ぼす重要な課題です。今後は、介護支援サービスの充実や、飼い主の高齢化を見据えた飼育計画の必要性がますます高まるでしょう。
出典:愛知県立芸術大学「高齢社会における人とペットの暮らしに関する研究」
6.高齢者と高齢ペットを支える安心サービス8選
高齢の飼い主がシニアペットと暮らし続けるには、体力や健康状態の変化に応じた支援が不可欠です。
近年では、こうした課題に対応するために、ペットシッターや老犬・老猫ホームに加え、飼育保証制度、訪問型ケア、信託、地域連携型の譲渡支援など、多様なサービスが登場しています。
これらの支援は、老老介護や終生飼養の実現に向けた選択肢として注目されており、ペットとの暮らしを安心して続けるための社会的インフラとして、今後ますます重要性を増すと考えられます。
こうした取り組みの一例として、環境省が公開している環境省の「ペットと暮らすシニア世代の皆様へ」のパンフレットも参考になります。
①高齢者のためのペットシッターサービス
ペットシッターは、飼い主の自宅を訪問し、ペットが慣れた環境で世話を受けられるサービスです。旅行や出張、急な入院など一時的に世話が難しい場面はもちろん、日常的な散歩や食事の介助など、高齢ペットへのきめ細やかなケアにも対応しています。
特に環境の変化がストレスとなりやすい犬や猫にとって、自宅で過ごせることは大きな安心材料です。
利用料金は1回あたり数千円程度と比較的利用しやすく、必要なときだけ依頼できる柔軟さも魅力です。
②老犬・老猫ホームによる長期介護支援
老犬・老猫ホームは、飼い主が入院や施設入所を余儀なくされた場合や、体力的に世話が困難になった場合に、高齢ペットを中長期的に預かり介護を代行する施設です。
環境省の調査によると、老犬・老猫ホームの届け出件数は2024年時点で268件に達し、11年前の13倍に増加しており、医療技術やフードの進歩によるペットの長寿化が背景にあります。
定期的な面会や写真・動画での様子の共有など、飼い主との絆を保つ工夫もされています。
ただし、終生預かりを希望する場合は、飼育費用や医療費などの長期的な資金計画が必要です。
③飼育保証とペット後見制度で万が一に備える
高齢者が安心してペットと暮らせるよう、飼育保証制度やペット後見制度を提供する団体も増えています。
これらの制度では、飼い主に万が一のことがあった場合にペットを引き取り、再譲渡や終生飼育を行う仕組みが整えられています。法的・経済的な備えとして、ペット信託や遺言による支援も含まれており、獣医師や法律専門家が連携してサポートするケースもあります。
参考:人と動物の共生センター ペット後見.jp 「ペット後見連携事業一覧」
④シニアペットの一時預かり・終生飼育サービス
一部の相談窓口や地域団体では、ペットの一時預かりや終生飼育、通院・散歩代行などのサービスを提供しています。中には、保護犬・猫の「貸し出し」制度を設け、万が一の際には団体が引き取る仕組みを整えているところもあります。
こうしたサービスは、飼い主の急な入院や施設入所時にも対応可能で、ペットの安心な生活を支える役割を果たしています。
⑤ペット信託とエンディングノートで将来に備える
ペットの将来を見据えた計画を立てるために、「ペットと私のエンディングノート」などを活用する取り組みも広がっています。ペットの性格や健康状態、希望する飼育方針などを記録し、信託や遺言によって備えることで、飼い主の不安を軽減し、ペットの命を守る仕組みづくりが進んでいます。
⑥高齢ペットの訪問型ケア・在宅医療サービス
通院が難しい高齢ペットのために、獣医師や看護師が自宅に訪問して診察・点滴・投薬・リハビリなどを行うサービスも登場しています。
飼い主の高齢化にも対応し、ペットと一緒に自宅で最期まで過ごすことを支援する取り組みとして、今後の在宅ケアの重要な柱となるでしょう。
⑦ペット介護・リハビリ支援サービス
歩行補助、食事介助、排泄ケア、床ずれ予防など、介護が必要なペットに対するサポートも充実しています。水中トレッドミルやマッサージ、ストレッチなどのリハビリプログラムを提供する動物病院も増えており、ペットのQOL向上に貢献しています。
⑧地域譲渡・預かり支援で高齢者の飼育をサポート
譲渡会や地域NPOとの連携により、高齢者でも保護犬・猫を迎えられるよう、年齢制限を緩和する団体も増えています。
「永年預かり」や「ずーっと預かり制度」など、柔軟な選択肢が用意されており、地域ぐるみでペットとの共生を支える仕組みが広がっています。
7. 高齢者とペットが安心して暮らせる住まいの選択肢
ペットと共に暮らす高齢者にとって、住環境の整備は非常に重要な課題です。
特に、体力や健康状態に不安を抱えるシニア層にとっては、介護支援やペットとの共生が可能な住まいが、安心して暮らし続けるための鍵となります。
近年注目されているのが、高齢者向けのシェアハウス(コ・ハウジング)です。
これは、複数の高齢者がゆるやかに共同生活を送りながら、プライバシーと交流の両立、生活支援サービスの提供、ペットとの共生環境の整備などを実現する新しい住まいの形です。
こうした住まいでは、ペット共生住宅もあり、そこでは以下のようなメリットが期待できます。
・ペットと一緒に暮らせる専用スペースの確保
・ペットシッターや訪問介護サービスとの連携
・入院時や災害時の一時預かり体制の整備
・同じ価値観を持つ住人同士の交流による精神的安定
ペットとの共生を望む高齢者にとって、こうした住まいの選択肢は、安心して暮らし続けるための大きな支えとなります。
さらに、ペットとの暮らしをより豊かにするための情報を探している方は、シニア世代とペットの関係に焦点を当てた「いきがいPet」も参考になるでしょう。ペットとの日々をより充実させるヒントが見つかるかもしれません。
参考:シミックホールディングス「小淵沢IKIGAIペットセンター」
8.まとめ
犬や猫の平均寿命はここ数十年で大きく延び、ペットも人間と同じように高齢化の時代を迎えています。長寿化は飼い主にとって喜ばしい一方で、介護や医療、生活支援といった新たな課題を生み出しているのも事実です。
大切なのは、飼い主がその負担を一人で抱え込まないことです。ペットシッターや老犬・老猫ホームといった専門サービスを上手に取り入れれば、無理なく世話を続けられ、ペットにとっても安心できる環境を整えることができます。
長寿時代の今だからこそ、日々の暮らしの中で支援の選択肢を知り、備えることが求められています。







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