在宅医療とは?仕組み・注目されている背景から今後の予測まで解説

home medeical care

在宅医療の普及が進みつつあるものの、具体的な仕組みや現状については理解していない方が多いのではないでしょうか。在宅医療とは、患者が自宅や居住施設などで医療サービスを受けることです。

少子高齢化や医療と介護の複合ニーズの増加など、さまざまな理由で在宅医療が国を挙げて推進されています。今回は、在宅医療の仕組みや内容、注目されている背景、必要な準備などについて詳しく解説します。

1.在宅医療とは

在宅医療とは、病院やクリニックなどではなく、自宅や居住施設などで医療サービスを受けることです。地域特有の事情や課題などを踏まえて都道府県が医療計画を策定し、関連機関との協力体制を構築しています。

厚生労働省は「在宅医療の体制構築に係る指針」において、在宅医療の提供に際し都道府県が確保すべき機能等を示しています。

在宅医療の提供に求められる医療機能と関係機関の役割については以下のとおりです。

在宅医療

出典:厚生労働省「政策からみた在宅医療の現状について」加工して作成

・退院支援
・日常の療養支援
・急変時の対応
・看取り

上記4つの機能を確保するために、24時間対応の在宅医療を提供しており、他の医療機関および医療・介護・障害福祉の現場でさまざまな医療従事者との連携を支援する医療機関が必要です。

また、連携を担う拠点としての市町村や保健所、医師会などが、地域関係者による協議の場を設ける、包括的かつ継続的な支援に必要な関係機関の調整、連携体制の構築などを行います。

1-1.対象者

在宅医療の対象者は、主に次のような方です。

・足腰が不自由で1人で通院することが難しい
・退院したが自宅療養が必要になった
・認知症が進行したことで自宅での手厚い看護、介護が必要になった
・自宅での看取りを希望している
・在宅酸素療法や経管栄養などが必要
・心臓や肺の病気によって少し動くだけで息切れする
・障がいの影響で医療的ケアが必要

上記の人たちは、外来へ通院できている患者と比べて虚弱かつ病状が重いことが多く、いつでも病状が変化する可能性があるため、24時間体制で在宅医療を受けることが望ましいとされています。

また、末期がん患者や寝たきりの高齢者、神経難病や外傷による後遺症などがある方は救急外来で治療することは困難であり、病院に搬送することにも大きな労力が必要です。在宅医療で、自宅にいながら24時間いつでも医療サービスを提供することで、双方の負担を軽減できます。

1-2.在宅医療に関係する専門職

在宅医療では、以下の専門職が連携します。

職種

役割

医師

・定期的もしくは急変時に訪問する

・他の医療従事者に指示を出す

訪問看護師

・医療的ケアや処置を実施する

・全身状態を観察する

歯科医師

・口腔内を清潔に保つためのケアを行う

・入れ歯の調整も行う

薬剤師

・薬を適切に服用しているか確認する

・薬の飲み合わせや副作用に問題はないか確認する

・医師の指示のもとで、薬剤管理指導を行う

管理栄養士

・患者それぞれに適した栄養指導を行う

・食事に関する相談に対応する

理学療法士

・座る、立つ、歩くといった基本的な動作能力の回復、維持などを目的にリハビリを提供する

・自立した日常生活を送るための支援をする

作業療法士

・座る、立つ、歩くといった基本的な動作能力の回復を促すことを目的にリハビリを提供する

・日常生活の活動を高めて家庭や社会への参加を促す

言語聴覚士

・言語障害のリハビリを提供する

・コミュニケーションの取り方に関する提案や指導を行う

介護支援専門員
(ケアマネジャー)

・介護保険サービスを利用する際のケアプランを作成する

・介護サービス事業者との連絡、調整を行う

訪問介護員
(介護福祉士・ホームヘルパー)

・入浴や排せつなどの介助を行う

・食事や洗濯など家事援助サービスを行う

医療ソーシャルワーカー

・本人や家族が抱える経済的、心理的、社会的な課題を解決するために相談を受ける

・その人らしい生活を送れるように支援する

参考:公益財団法人 在宅医療助成 勇実記念財団「在宅医療について

上記の専門職との連携の中心を担うのが医師です。関係者と連絡を取り合い、患者への対応や提供する医療サービスなどについて話し合う場を設けます。

2.オンライン診療や遠隔医療との違い

在宅医療と似た概念にオンライン診療や遠隔医療があります。

遠隔医療は、情報通信機器を用いた医療行為または健康増進のための行為のことです。医師や看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど、医療と介護の専門職と患者との間で必要な情報伝達・提供・共有を情報通信機器を用いて行います。

一方オンライン診療は、医師と患者の間で情報通信機器を用いて、診察・診断を行い、診断結果を伝えたり処方したりする行為をリアルタイムで行うことです。

これらに対して在宅医療は、自宅や居住施設などで医療サービスを受けることを指します。在宅医療を行ううえで遠隔医療やオンライン診療を実施する場合もあります。例えば、ZoomのようなWeb会議ツールを使用すれば、自宅にいながら医師の診察や処方を受けることが可能です。

ただし、在宅医療の中でもリハビリや触診といった行為は実際に患者に触れる必要があるため、遠隔医療・オンライン診療で行うことができません。

3.在宅医療の現状と今後の予測

日本訪問診療機構によると、在宅医療には「訪問診療」と「往診」があります。訪問診療は定期的に自宅を訪問して診療を行うものであり、病状や身体機能などをもとに計画を立て、必要に応じて薬剤師や栄養士などと連携します。一方、往診は医療を必要としているにもかかわらず身体機能の低下や重度の障害などにより医療機関への通院が叶わない患者の元へ行き、その都度診療することです。

このように、在宅医療の中に訪問診療があるため、訪問診療の増加は在宅医療の増加につながります。

ここでは、「在宅医療全体の件数」と「各都道府県における訪問診療の需給の予測」について解説します。

3-1.在宅医療の件数は増加傾向にある

在宅医療の年次推移

厚生労働省の資料によると、在宅診療の件数は近年増加傾向にあります。平成29年(2017)には往診が約44,000人、訪問診療が約11.6万人とピークに達しています。これは、平成20年(2008)の約2倍の人数です。また、厚生労働省の資料「政策からみた在宅医療の現状について」によると、全国の在宅患者数は2030年にピークを迎えると推計されています。

出典:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」

3-2.各都道府県における訪問診療の需給の予測

訪問診療

厚生労働省の資料「政策からみた在宅医療の現状について」には、都道府県別に2019年度における訪問診療件数と2020年・2025年・2030年・2035年・2040年における将来需要を推計し、それぞれを比較した結果も掲載されています。

東京都の2019年における訪問診療件数が約12万4,000件であるのに対し、訪問診療が最も増えることが推測される年の需要は約20万4,000件と大幅に増加しています。

前述したとおり、訪問診療は在宅医療の1つのため、訪問診療の増加が在宅医療の今後の需要増加につながると考えられます。全ての都道府県で将来における訪問診療の需要が増加することが見込まれているため、今から在宅医療の体制をより強固なものとすべく取り組むことが求められます。

4.在宅医療の普及が必要な理由

在宅医療の需要が大きく増加することが見込まれています。しかし、在宅医療に携わる医療従事者の確保や優れた専門性を持つ人材の育成、急変時に対応するための後方支援体制の整備など、解決すべき課題が複数あることから、なかなか在宅医療の普及が進んでいないのが現状です。

このような課題を解決し、在宅医療の普及を目指すことが大切です。

在宅医療の普及が必要な理由について詳しく見ていきましょう。

4-1.2025年以降に医療業界の人材確保が難しくなる

厚生労働省の資料「政策からみた在宅医療の現状について」によると、2018年における総就業者数が6,665万人で、医療・福祉分野の就業者数の需要は826万人です。これが2025年には総就業者数が6,082万~6,490万人に減少する一方で、医療・福祉分野の就業者数の需要は940万人に増加する見込みです。

そして、2040年には総就業者数が6,024万人に減少し、医療・福祉分野の就業者数の需要は974万人に増加することが推計されています。

このように、医療・福祉分野の需要が増加することでより多くの人材が必要となることが見込まれています。

在宅医療は、看取りを行う場合は24時間体制になるうえに、医師が自分の時間を持てるようになる働き方ではありません。人手不足が予測されている中で在宅医療を導入することはリスクが高いため、まずは医師の負担を少しでも減らすための経営改善を検討することが大切です。

4-2.外来患者数が減少傾向にある

同資料によると、全国の外来患者は2025年にピークを迎え、その後は減少することが見込まれています。また、同時に65歳以上が占める割合が継続的に上昇し、2040年には約6割に達することから、高齢化に伴い通院困難となることで外来患者数が減少するものと考えられます。

通院が困難になった場合の選択肢は、「通院を諦める」「在宅医療を受ける」「家族や外部サービスによる通院の支援を受ける」です。家族や外部サービスによる通院の支援は、必ず受けられるとは限りません。だからこそ、在宅医療のニーズが大きく増加すると考えることができます。

4-3.医療と介護の複合ニーズがより一層高まる

要介護者への医療サービスの提供においては、医療と介護を複合した対応が求められます。また、通院が難しいため、在宅医療の対象となります。

同資料によると、要介護認定率は年齢が上がるにつれ上昇し、75歳以上の認定率は31.5%、85歳以上で57.8%です。

85歳人口は2000年で224万人、2015年で494万人、2020年には620万人に達し、その後は2040年に向けて引き続き増加することが見込まれているため、医療と介護の複合ニーズがより一層高まっていくでしょう。

5.在宅医療に必要な準備

在宅医療を行うためには、在宅医療に必要なスキルを習得したうえで必要な設備を導入し、市区町村や関係各所と連携する必要があります。在宅医療に必要な準備について詳しく見ていきましょう。

5-1.スキルを習得する

在宅医療の現場では、病気の診療だけではなく患者らしい生活を送ることができるように全身管理を行います。そのため、特定分野の知識を持つだけでは、充実した在宅医療の提供は難しいかもしれません。

また、医療機器が充実していない環境での対応が求められるため、患者の小さな変化を見逃さないための洞察力や、本人や家族とのコミュニケーションも求められます。

そのほか、患者の生活環境を踏まえて、より良い療養生活ができるように考えることも医師の役割です。看護師や介護スタッフなどと密に連携を取る必要がある点においても、コミュニケーション能力が求められます。

5-2.市区町村や関係各所と連携する

厚生労働省の資料「在宅医療・介護連携推進事業の手引きVer.3」では、在宅医療の体制構築にあたり以下の取り組みが必要としています。

「医療・介護の関係団体が連携し、多職種協働により在宅医療と介護を一体的に提供できる体制を構築するため、都道府県(保健所等)の支援のもと、市町村が中心となって、地域の郡市区等医師会や看護・介護等の職能団体(事業者団体)等と緊密に連携しながら、地域の関係団体の連携体制を構築する。」

引用:厚生労働省「在宅医療・介護連携推進事業の手引きVer.3

このように、市町村が在宅医療の体制確立に向けて対応しているため、在宅医療を提供できる医療機関として連携を求めることが重要です。

医療・介護の関係団体が連携を促す市区町村の取り組み事例を紹介します。

岩手県釜石市は在宅医療の体制確立を進めるべく、市役所内の地域医療連携推進室に「チームかまいし」を設置しました。「地域連携における課題と解決策は、現場の医療・介護関係者が発信・共有しなければ連携は進まない」と考え、「悩み」を相談できる存在としての立ち位置を目指しました。また、医療・介護関係者の関係作りやケアの相談場所として「ケアカフェかまいし」も開催しています。

引用:厚生労働省「市区町村職員のための医療・介護連携ことはじめ ~事例を通した取組のヒント~

5-3.オンライン診療の導入

在宅医療は、その内容によってはオンライン診療の利用が可能です。例えば、患者の病状が安定しており、PCやスマートフォンの画面越しの診察で事足りる場合が考えられます。オンライン診療を導入することで医師の負担が減るとともに、患者としても対面によるストレスの軽減が期待できます。

さらに、スケジュール調整が容易になるため、在宅患者への診療の頻度を高めることも可能です。

6.まとめ

在宅医療の導入を検討する際は、現状や今後の予測などを考慮しなければなりません。今回お伝えしたとおり、高齢者の増加や医師の働き方改革による1人あたりの負担増加など、さまざまな理由で在宅医療の普及が進められています。

在宅医療の導入を検討している開業医は市区町村との連携や人材確保など必要な準備を行いましょう。在宅医療を行う医療機関で活躍したい場合は、コミュニケーション能力や洞察力、全身管理に必要なスキルなどの習得・向上を目指すことをおすすめします。