全国医療情報プラットフォームの推進による医療機関のメリットと課題

全国医療情報プラットフォーム

医療業界におけるデジタル変革(医療DX)推進の重要な一歩として全国医療情報プラットフォームの構築が厚生労働所を中心に推進しています。全国医療情報プラットフォームが普及すると全国的に医療機関や薬局、自治体、介護事業者などが様々な医療情報をリアルタイム共有できるようになるため、医療の質の向上と業務効率化が期待されています。

そこでこの記事では、全国医療情報プラットフォームの概要、導入背景、メリット、市場動向、今後の展望について紹介します。

1.全国医療情報プラットフォームとは

全国医療情報プラットフォームとは、医療機関や薬局、自治体、介護事業者等にオンライン資格確認システムを導入し、ネットワークを拡充することで、医療及び介護の情報である特定健診や電子カルテ等、様々な情報を全国的に共有できるプラットフォームの事です。

全国医療情報プラットフォーム_イメージ図

また現在、厚生労働省では下記の図のような全国医療情報プラットフォームの構築を目指し、検討が行われています。

全国医療情報プラットフォーム(将来像)

全国医療情報プラットフォームを構築することで、医療機関の課題やニーズに合わせた医療データを得ることができます。また、導入しているシステムやサービスに依存した情報だけではなく、全国から必要なときに必要な情報を抽出・共有することができるため、電子化による業務効率化や医療の質の向上が期待されています。

参照:第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について|厚生労働省

2.導入される背景

全国医療情報プラットフォームは、2020年5月に自由民主党政務調査会で発表された「医療DX令和ビジョン2030」によって提言されました。今後医療をDX化し、情報を有効活用する取り組みの一つとして挙げられ導入が進められています。
この章では、全国医療プラットフォームが導入される背景を解説していきます。

2-1.全国医療情報プラットフォームの導入に至った背景

全国医療情報プラットフォームの導入背景には、医療機関の負担軽減と感染症などの脅威に対応できる体制の構築があります。しかし現在の体制では医療現場でのデータ共有の課題やデジタル化の遅れがあります。

現状の診察や治療の流れは、患者に初診対応を行い、健康情報を新しく医療機関で把握します。そのため、今までの病歴や治療・服薬状況などは、患者から口頭で聴取することが多く、正確な情報を把握することは困難です。また、情報共有を行う医療プラットフォームが構築されていないと健康情報を随時共有したり、蓄積したりすることができません。一部の医療機関では紹介状と呼ばれる診療情報提供書を介した患者情報のやりとりが、現在もFAXやCDーROMで行われているケースも少なくありません。

また、新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックを引き起こす感染症が再度発生した際、必要な情報を迅速に取得できる仕組みを作ることで、適切な対策を早期に講じることにもつながります。

このような問題を解決するために全国医療情報プラットフォームの導入が推進されています。

2-2.医療情報プラットフォームが目指しているもの

医療現場でのデジタル化を推進するため、政府は全国医療情報プラットフォームを医療DX政策の中心に据え、医療機関や自治体、介護事業者などから集めたデータを統合し、患者の電子カルテ情報を含む患者情報を全国的にリアルタイム共有できる状態を目指しています。実現すると患者が自身の健康情報にアクセスしやすくなるのはもちろん、医師も他の医療機関での患者情報を簡単に参照し診療に活用できるようになります。

こうした医療DX改革の取り組みを通じて、重複する診察・検査の削減によるコスト削減、医療ミスの防止など医療の質の向上や業務効率化、リスク管理がより加速すると期待されています。

参照:医療DX:全国医療情報プラットフォームの概要|ヘルスケア|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

3.全国医療情報プラットフォームのメリット

全国医療情報プラットフォームの導入によって、医療機関と患者サービスに大きなメリットが生まれます。システムの普及で医療情報の共有が容易になり、診療の質と業務効率化が向上するためです。

3-1.医療機関のメリット

全国医療情報プラットフォームの導入により、医療機関は他施設での患者情報や診療情報をリアルタイムで参照可能となるため、医療の安全性が向上します。ここでは、医療機関におけるメリットを具体的に紹介します。

メリット1 救急・医療・介護の現場で切れ目ない情報共有ができる

全国医療情報プラットフォーム_メリット医療情報が共有できることにより救急時や医療機関、介護事業など様々な現場でより効率的なケアを提供することができます。
救急搬送の対象が意識のない患者の場合でも、今まで持病の有無や治療情報、検査状況などを把握できるため、的確で迅速な判断や治療が可能になります。また、入退院時などの際、医療機関と介護事業所での状況を共有できるので、その人に合ったケアを提案することができます。

メリット2 業務効率化や業務負担の軽減につながる

全国医療情報プラットフォームが進むことで、医師やその他の医療従事者の業務負担が軽減されます。患者情報や医療情報を来院前に確認できるため、病状の把握や必要情報の入力を完了することもできます。また、電子カルテへの連携を行えば、情報の転記作業も不要になり、カルテの管理・保管も簡略化することが可能です。

全国医療情報プラットフォーム_メリット

他にも、診療情報提供書の電子交換を通じ紙のやり取りが不要になり、資源の削減や業務の効率化が可能です。情報の再登録の手間やご登録によるリスクも軽減されます。
このように、今まで事務や記録の作業にかかっていた時間を削減でき、業務効率化も期待できるため、大きな負担軽減につながります。

メリット3 医療情報の見える化が期待できる

紙やDVDでの情報交換が電子化されることで、今までカルテなど大量の資料から探してきていた医療情報の取り扱いが容易になります。他の医療機関での受診記録や治療状況を確認することで、患者や症状データを比較・参照・検討しやすくなります。また、医療情報の見える化が行われると、重複診療や多剤処方を未然に防ぐことで患者の安全性が向上し、診療の効率も高まります。

3-2.患者サービスでの医師のメリット

患者が全国医療情報プラットフォームを通じて自身の医療情報にアクセスできるようになるため、患者の自己管理能力が向上します。健康管理や病状把握に活用することで、治療に対しての認識も高まり、医師と患者間の信頼関係構築にもプラスに働くためです。

例えば、マイナポータルを通じて自分の過去のバイタルデータや予防接種の履歴をスマートフォンで手軽に確認できるようになることで、患者は自分の生活習慣を見直し、より必要性の高い受診行動や日常生活での健康管理がより適切に行えるようになります。

参照:全国医療情報プラットフォームの全体像(イメージ) ※資料2-2 全国医療情報プラットフォームの概要|厚生労働省

4.全国医療情報プラットフォームの市場動向

全国医療情報プラットフォームの種類や国内市場の状況を紹介します。

4-1.プラットフォームの種類

全国医療情報プラットフォーム市場には多様なプラットフォームの種類が登場し、医療現場のデジタル化に役立っています。

具体例として、

  • 広域医療連携システム
  • 院内基幹システム
  • 地域包括ケアシステム
  • 電子お薬手帳・調剤薬局システム
  • オンライン医療
  • 病院向け電子カルテ・クラウド型電子カルテ
  • オンライン資格確認システム

などが挙げられます。

こうしたプラットフォームの活用を通じて、情報共有の電子化による医療連携の強化やデータ管理の向上を目指し、医療DXを推進しています。

4-2.国内市場の状況

2020年には新型コロナウイルス流行の影響で一部の市場に縮小が見られましたが、医療デジタル化のニーズの高まりによって、地域包括ケアシステムやオンライン医療などは市場拡大を続けています。

2021年の全国医療情報プラットフォームの国内市場は前年比で7.1%増の5,006億円に達すると見込まれており、2035年には更なる成長が予測されています。特に、電子カルテのクラウド化やオンライン医療の普及に伴い、市場がより成長すると見られています。中でも、病院向け電子カルテやクラウド型電子カルテ、オンライン資格確認システムなどが注目を集めるプラットフォームです。いずれも医療の効率化やデータ管理の向上を目指し、とりわけクラウド型電子カルテは初期導入費が安価なため、中小規模病院や診療所での導入が進んでいます。また、政府がマイナンバーカードの健康保険証利用の導入を促進したことで、オンライン資格確認システムも市場が拡大しました。

今後の医療DXを推進する上で重要な役割を担うプラットフォームと言えます。

参照:医療連携システム、医療プラットフォーム関連の国内市場を調査 | プレスリリース | 富士経済グループ

5.今後の市場展望と医療機関に求められること

全国医療情報プラットフォームの今後の市場展望や医療機関に求められることを紹介します。

5-1.注目されている市場

新型コロナウイルスの流行をきっかけに、医療・ヘルスケアDXの国内市場は一部で成長が続いています。特に、全国医療情報プラットフォームの中心となる電子カルテや電子薬歴システムは大規模病院での導入に続いて、中小規模病院や診療所、調剤薬局向けシステムの新規導入が進展中です。また、電子処方箋の運用開始により、オンライン診療システム関連の需要増加が予想されます。

この他、AI画像診断システムや治療用アプリなど次世代医療を担う領域での活性化が期待されています。

国の医療DX推進政策の追い風を受け、今後より一段と市場の成長が見込まれます。

5-2.今後医療機関に求められること

全国医療情報プラットフォーム

全国医療情報プラネットフォーム推進するにあたり医療機関に求められている具体的な取り組みは下記になります。

【取り組み1】電子処方箋の導入

電子処方箋のオンライン資格確認などのシステムを拡張することで、紙で行われている商法線の運用を電子で行うための取り組みです。2023年1月より運用開始されており、2025年3月までに全ての医療機関や薬局に導入予定とされています。
導入されることで患者が処方や調剤された薬の閲覧が可能になり、重複投薬の確認なども可能になります。

参照:電子処方箋について|厚生労働省

【取り組み2】電子カルテの情報共有サービスの導入

医療機関や薬局で文書情報(健診結果報告書・診療情報提供書・退院サマリ)を電子上で送受信でき、電子カルテの6情報(傷病名・アレルギー・感染症・薬剤禁忌・検査・処方)を閲覧できるようになるサービスです。
2024年度中に医療機関から順次運用を開始し、2030年までに概ね全ての医療機関と薬局に導入を目指しています。

参照:電子カルテ情報共有サービス(仮称)について|厚生労働省

【取り組み3】電子カルテ情報の標準化及び標準型電子カルテを実施する

電子カルテの標準化とは、HL7FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resource)という医療情報交換のための新しい標準仕様(規格)をベースとし、厚生労働省が情報の共有にルールを定め、医療機関間の情報活用がスムーズに行われる仕組みを作成しています。
2023年度に仕様を確定させ、2024年度中にシステム開発に着手し、一部の医療機関で標準型電子カルテの試行を目指しています。

参照:電子カルテ等の標準化について|厚生労働省

6.まとめ

全国医療情報プラットフォームの推進によって、医療機関のデジタル化が促進され、患者と医療機関の情報共有が飛躍的にスムーズになります。結果として、医療の質の向上や体制の構築、効率化、コスト削減が期待されています。

ただ、医療機関の積極的な参加や院内システムの改修、コード標準化などコストを伴う対応が必要です。今後の市場展望として、デジタル化の進展と共に電子カルテのクラウド化やオンライン医療の普及などにより、さまざまな領域での成長が予想されています。

医師や医療機関が全国医療情報プラットフォームを含む医療DXに対応するためには、まず医療現場のデジタル化の重要性への理解が欠かせません。併せて、政府や業界団体が発信する医療DXに関する情報や支援を活用し、急速に変化する医療環境に柔軟に適応することが重要です。