近年、パソコンやスマートフォンの普及に伴い、ドライアイやアレルギー性結膜炎などの目の疾患が増加しています。加えて、高齢化による需要拡大が見込まれており、再生医療の分野でも眼科領域が注目されています。
また、眼科医はクリニック勤務が主体であり、日当直やオンコールがないケースが多いため、ワークライフバランスを確保しながら勤務しやすい職種です。これらの特徴から、医師の転科先としても人気を集めています。
そこで今回は、眼科医の働き方や魅力、進路、キャリアアップの方法などについて詳しく解説します。
1.眼科医とは
眼科医は、診察から検査、外科的治療や内科的治療、社会生活サポートまで、眼科領域の包括的なケアを行います。眼科領域は幅広く、白内障や網膜剥離などの手術から、眼球注射やレーザー治療まで、さまざまな疾患と治療法があります。
眼科領域の疾患は、生活習慣病や内分泌疾患、染色体異常、周産期異常など原因が多岐にわたるため、幅広い分野の知識が必要です。
1-1.眼科医の将来性・ニーズ
日本は、少子高齢化が進む中で加齢に伴う眼科疾患や生活習慣病に伴う疾患が増加しています。視覚障害を持つ人の数は2007年で約164万人だったのに対し、2030年には200万人に増加することが予測されています。また、PCやスマートフォンの普及により、目への負担も増加していることもあり、眼科医の需要は今後ますます高まると考えられます。
2.眼科医の働き方・活躍の場所
眼科医の働き方は、勤務先によって異なります。診療所や病院、開業医などに分けて、働き方について詳しく見ていきましょう。
2-1.診療所やクリニックでの勤務
外来診療を中心とした診療所やクリニックでは、地域住民の眼科疾患の診察から検査、診断、治療まで行います。薬物療法だけではなく手術療法を行えるクリニックも多く、地域住民の目の健康を支えています。
対象の疾患は、白内障や緑内障、近視や遠視などです。眼科の手術は日程を事前に決めて行うことが多いため、長時間の残業が発生することは通常はありません。
2-2.病院勤務
眼科は一般的な診療科であることから、病院にも設けられていることがほとんどです。そのため、眼科医として働くのであれば病院勤務も視野に入れるとよいでしょう。病院では、一般的な眼科疾患だけでなく、悪性腫瘍の手術や合併症を伴う疾患など、より複雑な症例にも対応します。そのため、より幅広い臨床経験を積むことが可能です。
緊急手術を行う場合もあるため、夜間や週末の救急対応など、不規則な勤務体制をイメージする方もいるかもしれませんが、他の診療科と比べると少ない傾向があります。そのため、診療所やクリニックと同様に、ワークライフバランスがとりやすい環境で勤務が可能です。
2-3.開業医として独立
眼科医の中には、独立してクリニックを開業する医師も少なくありません。開業医としての道を選ぶことで、患者との距離がより身近になり、地域の住民との関係性を築きながら医療を提供できます。
開業医として成功するには、医師としての専門性だけでなく、経営者としてのスキルも必要です。例えば、財務管理や経営戦略の立案、人材管理など、幅広い業務に対応できる能力が求められます。また、開業医は患者のニーズに応えるだけでなく、地域社会との連携や地域医療の発展にも貢献することが期待されています。
3.眼科医の年収
勤務医の就労実態と意識に関する調査 (2012年)によると、眼科医の平均年収は1,078.7万円でした。この調査に回答した全診療科の医師の平均年収は1,267.7万円であり、眼科医の年収は低めになっています。また同調査では、給与や賃金に対する満足度に関する質問も行われました。その結果、「眼科医・耳鼻咽喉科医・泌尿器科医・皮膚科医」の中で、「満足」「まあ満足」と回答した割合は34.8%で、全診療科の中で3番目に低いことが明らかになりました。
一方、「不満」「やや不満」という回答が41.2%と、他の診療科と大きな差はありません。これは、年収に対して満足していないものの、何らかの要因によって満足度が引き上げられているものと考えられます。その要因の1つはワークライフバランスを確保しやすいことだと推測できます。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査 (2012年)」
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4.眼科医の魅力
眼科医には、ワークライフバランスを確保しやすいことだけではなく、専門領域が幅広く、重要な感覚器官である目に関われるなど、さまざまな魅力があります。眼科医の魅力について、詳しく見ていきましょう。
4-1.感覚器として重要な目に関わることができる
眼科医の魅力の1つは、外部情報の80%を取得する目という重要な感覚器官に関われることです。
網膜剥離や緑内障のような目の疾患は視覚に直接影響を与えるため、早期発見と適切な治療が必要です。目の構造や機能に関する知識に基づき治療を行うことで、患者の生活の質を向上させることができます。
このように、患者の人生に大きく関与する目を治療することにやりがいを感じる眼科医は多いでしょう。
4-2.幅広い専門領域により豊富な知識を習得できる
眼科医は、専門領域が幅広く、豊富な知識を必要とすることも魅力と言えるでしょう。目は小さな臓器であるものの、多岐にわたる領域に分かれています。例えば、神経眼科は神経内科の側面を持ち、眼形成は形成外科・美容外科の側面を持ちます。さらに、小児眼科は小児科の知識も必要です。
また、目は複雑な臓器であり、脳と密接な関係があることも、広範囲にわたる専門知識が必要な理由の1つです。このように、眼科医としてのキャリアの道はいくつも用意されており、興味や適性に応じて選べるのは大きな魅力といえるでしょう。
4-3.最先端医療に触れることができる
最先端医療に触れることができる点も眼科医の魅力の1つです。日本はiPS細胞を使った再生医療の先駆けとして世界的に知られていますが、その中でも眼科はその最前線を走っています。網膜や視神経などの中枢神経系に属する目の組織の再生医療が特に注目されています。以前は神経細胞が死滅すると再生が不可能とされていましたが、最近ではiPS細胞から作られた視細胞の移植に成功し、失明に至る網膜色素変性などの病気に対する新しい治療法が開発されました。
さらに、角膜疾患に対する再生医療の進展も顕著です。従来の角膜移植手術ではドナー角膜の使用が一般的でしたが、ドナー不足や移植後のトラブルなどに課題がありました。角膜内皮細胞の再生医療が研究され、角膜内皮細胞の培養やiPS細胞からの分化による移植法が開発されています。患者への負担が少ないうえに、角膜移植の課題を解決できる可能性があります。
また、眼科医療では人工知能(AI)の活用も進んでいます。AIを用いた画像診断は特に注目されており、網膜の写真から疾患を同定したり、緑内障を診断したりできます。日本眼科学会ではAI・ビッグデータ研究に力を入れており、遠隔医療やデジタル入力機器の活用も進められています。
4-4.ワークライフバランスが整っている
眼科医の手術は短時間で済むことが多く、定時に帰宅できることから、ワークライフバランスを取りやすい環境が整っています。また、通院が主体の眼科では、診療時間が平日の日中に集中するため、他の診療科と比べてオンオフを切り替えて働くことができるでしょう。
ただし、大学病院は当直や時間外の手術が発生する場合があるため、転職の際は病院事情を確認しておくことが大切です。
5.眼科医のキャリア4選
眼科医のキャリアの候補として、以下の4つがあります。
5-1.研究・教育・臨床すべてに携わる
大学病院や研究機関で就業する場合は臨床診療だけではなく、眼科の研究や教育にも積極的に関わる働き方ができます。臨床医として診療を行いながら、研究室で基礎研究や臨床研究に取り組んだり、後進の指導や教育にも携わることができるので、臨床以外のキャリアを積みたい方は検討してみると良いでしょう。
5-2.病院勤務で臨床に集中する
眼科医は、総合病院や専門病院などの大きな病院からクリニックなどの様々な所で勤務することができるため、臨床診療に専念する働き方を選択することも可能です。また、眼科医は外科や内科などの他の診療科に比べ、急患対応や緊急手術などが少なく、ワークライフバランスを取りやすい点がメリットです。総合病院や専門病院では、高度な医療を提供する機会も多く、患者とのコミュニケーションの取り方や眼科医としての知識やスキルを学びつつ、経験を積むことができます。
5-3.開業する
眼科クリニックを開業し、院長として経営や診療に携わる方法もあります。地域の眼の専門家として患者との信頼関係を築きながら、診療を行います。開業医は勤務医とは異なり、自身の裁量で診察を行うこともでき、得意分野を活かした病院を作ることができます。また、開業医の平均年収は勤務医より高く、勤務時間をコントロールしやすいメリットもあるため、自身の理想とする医療を提供したい、ワークライフバランスを重視したいなどの考えをお持ちの医師は検討してみてはいかがでしょうか。
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5-4.大学の研究室や国の研究所などで研究職として働く
眼科医としての臨床経験を活かして、大学の研究室や国の研究所などで研究職に就くことも選択肢の1つです。眼科領域の研究や新たな治療法の開発に貢献し、学術的なキャリアを築くことができます。研究の成果は学術論文や学会発表として発表されることで、眼科医学の発展に貢献できます。また、研究資金の獲得や研究グループのリーダーなども担当し、次世代の眼科医や研究者の育成に関わることも可能です。
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6.眼科専門医としてさらなるキャリアアップ
眼科専門医とは、眼科の知識やスキル、経験が日本眼科学会の定める基準を満たしており、同学会から認定を受けた医師のことです。一般の眼科医との違いや眼科専門医になる方法について、詳しく見ていきましょう。
6-1.一般の眼科医との違い
眼科専門医になるには、日本眼科学会が実施する筆記試験と実技試験をクリアし、眼科医として一定以上の総合力を持つことを証明する必要があります。
眼科専門医は優れた技術と豊富な知識を持つため、目の病気が増加している現代において必要性が高い医師です。また、目の健康に関する豊富な知識と優れた技術を証明できるため、キャリアアップの際に有利になる可能性があります。
6-2.眼科専門医になる方法
日本眼科学会専門医の資格を取得できるのは、以下すべての条件を満たした医師です。
- 日本眼科学会及び日本眼科医会の会員
- 所定の施設で5年以上にわたり眼科臨床を研修した者、または厚生労働省の定める卒後臨床研修(2年間)終了後、所定の施設で4年以上にわたり眼科臨床を研修した者
- 委員会が行う専門医認定試験に合格した者
専門医認定試験を受けるには、専門研修プログラムを修める必要があります。
専門研修プログラムは専門医として活躍するために必要な知識やスキルの習得を目標としており、100以上の症例経験や学術論文の執筆、2回以上の学術発表を行います。厳しい条件のため、臨床医として働きながら専門医資格の取得を目指すことは厳しい道のりになるでしょう。先輩の眼科医のサポートも受けつつ資格取得に向けて行動することが大切です。
7.まとめ
眼科医としてのキャリアには、診療所やクリニックでの勤務、病院勤務、開業医としての独立などさまざまな選択肢があります。
本記事では、眼科医の働き方や年収、キャリアアップなどについて解説しました。
眼科医の魅力は、感覚器として重要な目に関わることができること、幅広い専門領域により豊富な知識を習得できること、最先端医療に触れる機会があること、そしてワークライフバランスが整っていることです。
眼科勤務医は他の診療科と比べて年収が低い傾向にあるものの、それを上回る魅力があるといえるでしょう。