コラボヘルスとは?注目される背景や取り組み事例を解説

コラボヘルス

従業員の健康管理やメンタルヘルス対策は、企業にとって重要な課題です。現代社会では、長時間労働や職場での人間関係などによるメンタルヘルス不調を抱える従業員の増加が社会的な問題となっています。こうした社会の問題や対応に向けた動きの中で、注目されているのが「コラボヘルス」という取り組みです。

事業主と健康保険組合や協会けんぽなどの保険者が連携して、加入者(従業員)の健康増進に向けた取り組みを行うという、この「コラボヘルス」を実践することで、事業主、保険者、従業員、三者それぞれに大きなメリットが期待できることから、積極的に取り組む企業が増えてきました。
国が力を入れている政策でもあることから、今後もより普及していく取り組みであることが予想されています。

この記事では、「コラボヘルス」とは何なのか、取り組むことによるメリットなどについて解説します。

1.コラボヘルスとは?

コラボヘルスとは
コラボヘルス研究会のホームページによると、以下のように解説されています。

「コラボヘルスとは、健康保険組合等の保険者と事業主が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、加入者(従業員・家族)の予防・健康づくりを効果的・効率的に実行することです。

健康保険組合等の保険者と事業主が連携し、保険者は保険事業を実施し事業主は職場環境を整備するというように役割分担することで保険事業の基盤を強化することができます。

そうすることで、保険者による「保険者機能の発揮」を事業主による「健康経営の推進」が同時に実現します。」

従業員が健康で生き生きと働くことは、企業の業績に影響するだけでなく、健康保険組合の医療費などの保険給付費の削減、国の増大し続けている医療費の削減につながることから推進されています。

参照:厚生労働省保険局「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
参照:コラボヘルス研究会「コラボヘルスとは」

2.コラボヘルスで健康保険組合と事業主が果たす役割

コラボヘルスを実践するためには、健康保険組合と事業主がそれぞれ役割を分担し、連携していく必要があります。本章では、それぞれが果たす役割について紹介します。

2₋1.健康保険組合(保険者)

健康保険組合は、大企業が独自で持っている健康保険組合と、同業種の企業が集まって加入、運営している健康保険組合、中小企業が加入する協会けんぽ、公務員などが加入する共済組合など、いくつかの種類があります。
種類は違っても、基本的に健康保険組合としての機能は全て同じです。
その中で、健康保険組合がコラボヘルスを取り組む上で重要となるのがデータヘルスです。

健康保険組合には、加入者(加入企業の従業員)の健康に関するデータが多く集積しています。
例えば、加入者が病院で診察、治療を受けたときのレセプトデータなどが該当します。これらを積極的に活用・分析してそれぞれの加入者に合った予防対策や保健指導を、実践していこうという考え方です。
厚生労働省も健康保険組合に対し、データヘルスを取り入れるよう推奨しています。

2₋2.事業主(企業)

事業主にとっても、従業員が健康で生き生きと働ける環境が整っているかどうかは、経営上非常に重要な指標となります。
例えば、今でこそたばこの分煙が当たり前になりましたが、以前は職場内での喫煙に関するルールもなく、非喫煙者に対する配慮はなされていませんでした。

現在は、従業員の健康増進に積極的に投資することが企業の生産性向上につながるという考えが主流になり、「健康経営Ⓡ」として経営手法に取り入れられるようになりました。
健康経営では、医療費の削減に注目がいきがちですが、従業員がより健康で長く働けるように様々な施策を取ることが求められています。
企業にとっても、従業員が健康であることによって業績のみならず、生産性向上にもつながるといえるでしょう。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です

3.コラボヘルスが注目される背景

本章では、コラボヘルスが注目される背景について解説します。

3₋1.特定健康診査・保健指導制度の導入

2006年(平成18年)に、医療制度構造改革によって特定健康診査・特定保健指導制度が導入されました。
特定健康・特定保健指導は、メタボリックシンドロームに着目した「特定健診」を実施することで生活習慣病のリスクを持つ対象者を早期発見し、「特定保健指導」で要因となる運動習慣や食生活、喫煙などを見直し、生活習慣病の予防・改善につなげることを目的としています。
これは、働き盛りの現役時代の健康状態が高齢者となった時の健康状態に影響するという考えに基づき、現役世代の生活習慣病対策として打ち出されたものです。

生活習慣病対策と高齢者の医療費との関係に関する概念図

具体的に、生活習慣病の影響が出始めるとされる40歳から74歳の全ての公的医療保険加入者と、扶養されている保険加入者を対象に特定健診(必要に応じて特定保健指導)を行うことが保険者である健康保険組合に義務付けられました。
従来からの労働安全衛生法上による健康診断だけでなく、現役世代に対する健診に保険者、母体企業、組織の両者が関与する体制が構築されたのです。

32.データヘルス推進のために事業主との連携強化

データヘルスとは、健康保険組合などの保険者が加入者(加入企業の従業員)の健康医療情報を分析し、課題を把握することで、加入者の健康状態に合わせた保健事業を展開することを指しています。
効率的・効果的に保健事業を展開するために、PDCAサイクルを活用し具体的な計画を行う「データヘルス計画」の策定を厚生労働省が推奨しています。

保険者が有効なデータヘルス計画を企画立案し、実行に移すためには人材や財源の確保が欠かせません。これらを確保するためには、事業者の理解が必須です。

事業者がデータヘルスに対して十分な理解を持っていれば、従業員に対する働きかけや施策推進に対しても積極的となり、より高い推進効果が見込まれます。

33.保険者機能を発揮するための基本的インフラの整備

保険者(健康保険組合)によるコラボヘルスなどの施策推進は、保険者機能の一環でもあります。
保険者機能については、平成25年3月に公表された「保険者機能のあり方と評価に関する調査研究報告書」で整理されました。コラボヘルスは保健事業等を通じた加入者の健康管理に相当するものと考えられています。

これらを現実化するのに大きな契機となったのがレセプト(診療報酬明細書)の電子化です。の電子化されたレセプトの情報と、電子化された健診情報を活用し、分析や施策立案が可能となることが「データヘルス」にもつながると考えました。

参照:厚生労働省保険局「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」

4.コラボヘルス推進による効果

本章では、コラボヘルスを推進することで具体的にどのような効果があるのか、紹介します。

4₋1.従業員の健康意識の向上

健康経営の取り組みとデータヘルスで得られる個々の健康データの組み合わせにより、従業員の健康意識をより効果的に高めることができます。
運動や食事の大切さだけでなく、病気の早期発見による医療費の削減効果などを視覚化して伝え、がん検診などの受診率向上などにつながることが期待できるでしょう。

4₋2.企業の競争力強化

データヘルスと健康経営の相乗効果により、従業員の健康状態をより効果的に改善し、企業の競争力を強化することができます。
健康な社員が多いということは、休職などで長期欠勤する社員を減らせるだけでなく、企業にとっても人材不足の解消や生産性向上につながります。
特に、現在は採用することが困難な時代となっており、既存の社員をどう生かすかという課題は非常に重要です。
社員の健康は、企業の事業そのものの成否にも関わっていると言えるでしょう。

4₋3.社会的評価の向上

データヘルスを実施することは、企業の健康経営に取り組むことへつながります。健康経営に取り組む企業に対する顕彰制度の中でも権威なものが2つありますが、これらに認定されると社会的評価を向上させることができます。

1つ目は健康経営優良法人認定制度になります。健康経営優良法人に認定された場合、「従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に行っている会社」として企業のイメージが上がり、さらに各自治体や公的機関が設けたインセンティブを受けることもできます。
2つ目は健康経営銘柄に選定されることです。東京証券取引所に上場している企業を対象に選ばれ、魅力ある企業としてメディアで掲載されることも多く、PR効果を得ることができます。

このようにコラボヘルスを推進することで、多くの効果を得ることができます。

参照:JMCD STORIES「コラボヘルスとは?データヘルス、健康経営の相乗効果を発揮するポイントと注意点」
参照:経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
参照:経済産業省「健康経営銘柄」

5.コラボヘルス推進するための手順と成功のポイント

コラボヘルスを推進するためには、健康保険組合(保険者)、事業主(企業)、従業員それぞれの立場から課題を認識したうえで、それぞれの課題に合った積極的な情報提供と、最適な手段の提示が必要となります。本章では、一般的な手順を紹介します。

5₋1.事業主・健康保険組合・従業員それぞれの課題を把握する

コラボヘルスを推進するためには、まずそれぞれの事業主や健康保険組合、従業員が抱えている課題を洗い出し、認識するところから始まります。課題は、それぞれの立場から考える必要があります。
例えば、事業主の立場か考えると自社の所属業界や展開する事業内容、業務における課題、働いている従業員の構成年齢や性別などの属性によって変わります。
また、健康保険組合の立場から考えれば、保険組合に加入している事業者の業種や構成人員、規模によって大きく変わります。
従業員の立場から考えると、就労環境や残業量、人間関係などの身近な問題が大きくかかわってくると考えられます。

よくある課題例として、次のようなものが挙げられます。

・人材不足による企業競争力低下
昨今、採用難に陥っている企業も増えており、事業者の構成人員のバランスが変化しています。そのため、企業は人員不足となり競争力が低下するという課題が挙げられます。採用面では、新卒、中途共に必要人員を採用できず、既存の従業員に大きな負担がかかっています。また、定年後の高齢社員の再雇用によるモチベーション低下や、出産や育児休暇による現役世代社員への負担増も、見逃せない問題です。
これらの問題は、人件費など企業の経営そのものに関わるため、すぐに解決するのは困難です。対処するためには、従業員の健康を注視しながら、IT化などで仕事のやり方を改革するなど、生産性を上げる必要があります。

・健康保険組合の財政難
健康保険組合の財政は、年々高齢者の医療費増大などによる負担増で厳しくなる一方で、財政難による健康保険組合の解散も増えています。保険者機能を充実させたいという気持ちがあっても、資金力に乏しく思い通りの施策を実行できないため、財政改善が必要です。

・従業員の健康診断や健康管理に対する意識の低さ
健康診断は、企業が従業員に年一回受診させる義務があります。しかし、従業員の中には業務多忙や面倒くささを理由に受診を渋り、精密検査を受けに行かない者もいます。これらの従業員に対し、健康診断をおろそかにすることでこうむる弊害を周知し、健康への意識を高めてもらう必要があります。

5₋2.企業内で推進体制を構築

コラボヘルスの推進体制の例

課題を把握できれば、事業主は抽出した内容をもとに自社内でコラボヘルスの推進体制を構築します。
管理部門を中心に、時には産業医や健康保険組合とも連携して、課題解決のための施策を実行していきます。
健康診断や人間ドッグによる病気の早期発見と進行してからの発見によってかかる医療費の差や、休職によって受ける経済的損失などを分かりやすく視覚化することなども有効です。

さらに、コラボヘルスには「健康経営」も含まれることから、社長や役員など経営者直轄の体制を構築することも重要です。くわえて、産業医など外部の専門業者からも助言をもらえるよう、関係構築を進めていきましょう。

5₋3.データを活用した従業員の健康状態把握

コラボヘルスでは、データヘルスの利用が欠かせません。事業主と企業と健康保険組合が保有する従業員の健康に関するデータを分析、活用して従業員の健康状態の全体像を分析します。具体的な健康に関するデータとは、健診の受診率や特定保健指導の実施率、喫煙率や運動習慣者の比率、メンタルヘルス不調などによる長期欠勤者数などになります。データヘルスによって得られた健康状態の全体像から、課題を把握して施策立案などへ活用していきます。

5₋4.わかりやすい形で視覚化して従業員に周知

データを収集、分析できたら、従業員にもわかりやすい形で視覚化し、周知することが大切です。従業員は、自分の健康診断結果などは把握していても、結果を活用する方法や、改善策についての知識がない事も珍しくありません。
従業員が自分自身で改善できるよう、生活習慣を自己管理できるツールを提供、個別にカスタマイズした健康情報を提示するのも効果的です。

また、業界や事業主の構成人員によって会社として見えてくる課題もあるでしょう。事業主が抱える課題を把握するためにも従業員全体の健診結果を可視化し、経営層が把握する「健康白書」の作成も同時に進めることが推奨されます。例えば、利用できるデータの範囲の対象(40歳以上の従業員など)で業態平均と比較したり、社内で性別、年代、事業所、エリア、職種による特徴について分析したり、それぞれの健康課題を明白にしていきます。その後、明らかになった健康課題に対してコラボヘルスで対策を行います。

業界や事業内容によっては、全社的に特有の問題を抱えていることも考えられ、「健康白書」を作成し、経営層と従業員、双方に分かりやすく可視化してより健康に対する意識を高めてもらうことも重要でしょう。

5₋5.コラボヘルス推進サイクルを確立する

データを分析、活用した健康事業を計画、推進を繰り返して一般的な仕事で用いられる“PDCAサイクル”をまわして課題解決に近づけていきます。

・Plan(計画)
課題を抽出したら、従業員個々が抱える健康に対する改善案も必要ですが、事業主が組織として従業員の健康が促進されるような計画を策定します。
例えば、残業が慢性的に多いのであれば削減し、公私のメリハリと従業員の休息、生産性の向上を上げるための計画を立てる必要があるでしょう。それぞれの課題に対して、全社的に取り組むための計画を立てることが求められます。

・Do(実行)
実際に策定した計画に基づき、期限を決めて実行していきます。実行するために、課題と改善計画をしっかりと説明、周知して全社一丸となって取り組むことが求められます。

・Check(測定・評価)
一定期間、計画を実践した上でどのように変化したのか評価していくことも大切です。
すぐに結果が出ることではないため、3か月、半年、1年と長期スパンで定期的に効果を確認し、蓄積していくことが求められます。

・Action(対策・改善)
最初に策定した計画や目標に対し、実践していく中でうまくいかないこと、思うように効果が出なかったこともあるでしょう。更なる対策や改善点を洗い出し、より実践しやすいものにして継続していくことが求められます。

参照:厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」

6.コラボヘルスの実践事例

具体的に、花王健康保険組合とYKK健康保険組合の事例を紹介します。

6₋1.花王健康保険組合の事例

花王グループでは平成20年に「健康宣言」で”従業員は財産、家族も含めて健康はかけがえのない財産、社会にとっても大切なものとの考え”をベースに健康保険組合と事業主(健康推進部)がそれぞれの立場から従業員一人一人の健康意識を高めるための施策を行っています。
毎年「健康白書」を発行し、従業員にしっかり周知すると同時に課題を抽出、検討、実践と評価、改善とPDCAサイクルをまわし、翌年にはより良いコラボヘルスができるようにつなげる体制が確立されています。

花王 コラボヘルスの推進

特に施策の部分では、従業員代表、事業主代表双方から承認を得るというプロセスを経るのが特徴です。従業員代表にも参加してもらうことで、意識を高めることに一躍買っていると言えるでしょう。
PDCAサイクルにおけるC(施策決定および実行後の評価)は協働で行い、主に社員への働きかけは事業主が、健康増進活動(健康マイレージQUPiO等)は健保と事業主が一体となり推進した結果、従業員本人の健康診断受診率は99%を超え、二次検査受診率も88%と非常に高い数値を出しました。

また、健診後面談実施率や特定保健指導実施率も6割以上と一定の効果を出し、社員本人の健康に対する意識づけに効果があったと考えられます。
そして、健康づくりの取り組みを独自の「QUPiOポイント」として「見える化」を測り、QUPiOポイントを楽しく貯めながら健康づくりができる仕組みを構築しました。

参照:花王における 事業主と健保とのコラボヘルスの推進について

6₋2.YKK健康保険組合の事例

YKKグループでは、「従業員の健康は会社にとって重要な財産である」と考え、年齢に関係なく健康で働き続けられることを念頭に置いたコラボヘルスを推進しています。
平成20年度に特定健診・特定保健指導の開始を機に事業主と健康保険組合が協働で「メタボ対策の推進」を掲げて事業主では珍しい就業時間内の特定保健指導の実施を開始しました。
その後も、継続的な特定保健指導を続け、平成26年からは健康保険組合のデータを活用したデータヘルスの検討なども実施されています。

YKK健康保険組合

YKKグループの特徴は、事業主、保険者(健康保険組合)がそれぞれの施策を実行すると同時に、協働で健康づくりキャンペーンを行っています。個人の健康づくり活動の推進するため、産業医が内容を企画した後に安全衛生担当者が事業所で参加の呼びかけを実施しすることで健康づくりの後押しをしています。

また、「在職中も退職後も、健康で幸せな生活が遅れること(健康寿命の延伸)」を掲げています。何より、在職中の健康管理が生産性を上げるという点にとどまらず、退職してからの老後生活までを見据えた長期的視点がしっかりと盛り込まれていることが特徴と言えるでしょう。

参照:厚生労働省「コラボヘルス ガイドライン」

7.まとめ

以上、コラボヘルスが注目される背景や実践事例について解説しました。今後、ますますコラボヘルスの重要性は高まることが予想され、事業主にとっても人材を獲得することが難しい今、従業員を獲得するための手段としても必須となっていくのではないでしょうか。
この記事が、コラボヘルスに対する理解の一助となれば幸いです。