皮膚科医の年収や働き方とは?やりがいと専門性で魅力のあふれる理由

アレルギーや感染症、悪性腫瘍、自己免疫性疾患など、幅広い疾患を扱う皮膚科医。広範囲な診療領域を通して新生児から高齢者まで、あらゆる世代の患者に貢献できるやりがいのある仕事です。

国内外で高い専門性と学問的魅力を誇る皮膚科は、医師のキャリアとしても人気が高く、日当直や時間外労働が比較的すくないためワークライフバランスを保ちやすい環境も整っています。

この記事では、皮膚科医としての魅力ややりがい、キャリアパス、年収にも触れながら、これからの皮膚科医を目指す方に役立つ情報を紹介していますので、最後までご一読ください。

1. 皮膚科とは?

皮膚科では、顔や身体、毛髪、爪、口の中など肉眼で見える部位の全てが診療範囲になります。しかし、皮膚病変のみを評価し、治療するわけではありません。

皮膚は体全体を包む臓器として、バリア機能を担うだけではなく、代謝機能、免疫機能、内分泌機能など様々な生理機能をもっており、アレルギーや膠原病など、皮膚病変の原因となる疾患も多岐にわたります。そのため、皮膚病変のみではなく、発生する原因となった疾患にも着目し、全体を診ていく力が必要とされます。

また、皮膚科では新生児から高齢者まで幅広い年齢層の患者を担当しています。最近では、美容皮膚科や抗加齢皮膚科学などに期待が集まっており、患者のQOL向上に貢献しています。

このように、皮膚科は幅広い知識と技術が必要とされる診療科なのです。

参照:『(完成版)皮膚科学会パンフレット』|日本皮膚科学会

2.皮膚科医の魅力とやりがい

皮膚科医の魅力とやりがいについての3つのポイントを紹介します。

2.1 診療領域が広い

皮膚科は、皮疹を伴う全ての疾患を対象としています。皮膚科固有の疾患だけではなく、皮疹を伴う内科的あるいは外科的な疾患の治療まで携わるため、診療領域が幅広くなっています。

主に、皮膚科で扱う疾患は下記のようになります。

・内科的な皮膚疾患皮膚アレルギー・炎症性疾患・自己免疫異常疾患・皮膚病変を伴う膠原病に対しての治療

・外科的な皮膚疾患有棘細胞癌、悪性黒色腫 に代表される皮膚悪性腫瘍に対しての治療

皮膚科医が病理診断を行うこともあるため、診断から治療まで幅広い領域の知識が必要となります。これらは皮膚科の大きな魅力の一つと言えるでしょう。

参照:『皮膚科専門医の役割が求められています!』|日本皮膚科学会

2.2 研究と臨床を両立しやすい

皮膚科は、臨床と研究が密接に結びついている診療科でもあります。皮膚は比較的観察しやすく組織の採取も容易であることから、臨床研究に適しているためです。そのため、内科や外科の病理診断にバランス良く取り組むことができます。近年では、遺伝子研究や免疫学的研究などの皮膚科領域の研究も盛んに進められています。

臨床医として患者と向き合いながら研究者として新たな発見を目指すことができる点も皮膚科の魅力と言えるでしょう。

参照:『皮膚科専門医の役割が求められています!』|日本皮膚科学会

2.3 ワーク・ライフ・バランスがとりやすい

皮膚科は、他の科に比べて時間外労働や当直が少ないため、ワークライフバランスがとりやすい科として知られています。勤務医全体の平均年収と比較すると低めというデータもありますが、理由として、患者の命に関わる緊急性の高い治療が少ないこと、夜間や休日の対応が少ない点などが挙げられます。

結果として、日本皮膚科学会の「皮膚科医の勤務状況に関する実態調査報告」によると、0歳児がいる女性医師の約半数が非常勤・パートタイムまたは休職中ですが、1歳以上になると多くの人が復帰しています。また、子供が大きくなるにつれて、非常勤・パートタイムの割合も減少。現在休職中の約4割の女性医師は「常勤で復職したい」と考えています。

このように、多くの女性医師が出産・育児後に復帰し、充実したキャリアを築いているのも皮膚科の大きな魅力の一つです。

参照:皮膚科医の勤務状況に 関する実態調査報告|日本皮膚科学会キャリア支援

3.皮膚科医の年収とキャリア

皮膚科医の年収とキャリアについて紹介します。

3.1 勤務医の年収

皮膚科医年収

少し古いデータとなりますが2012年の調査によると、皮膚科医の平均年収は眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科との合算で、1,0787,000円と他の診療科と比べると一番低い水準となりました。最新の求人を参考に皮膚科医の平均年収を調査したところ、約1,100万円~1,600万円と近年は上昇傾向にありますが、他の診療科と比べて特別高い数字ではありません。(※)

皮膚科医の年収が低めである最大の理由は、時間外労働や当直が少ない点にあります。皮膚科では入院病棟のオンコールなどが少なく夜間や休日対応も少ないため、他の科に比べて手当がつく勤務形態が少ないためです。

しかし、勤務時間を短縮しやすく、ワークライフバランスを重視した働き方ができるというメリットもあります。実際、多くの女性医師が出産・育児後に復帰し、充実したキャリアを築いています。

※調査方法:3つの大手医師転職サイトに掲載された求人より算出(2024年3月時点)

3.2 開業医の年収

皮膚科の診療科の平均年収は約2,900万円と言われており、全診療科の中でもトップクラスの高水準です。

皮膚科は、美容医療や自費診療など高単価な治療も人気があるため、開業医として成功すれば高い収入を得ることができます。

また、皮膚科は比較的開業しやすい科としても知られています。これは、開業に必要な設備投資が比較的少なくて済むこと、患者の数が安定していることなどが理由です。実際に、厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、皮膚科医全体(10,031人)の約40%が開業しています。また、診療所に従事している皮膚科医6,124人に対し、皮膚科専門医は3,944人と約66%が専門医を取得しています。専門医資格を持つ病院は信頼度も高く、患者が病院を選択する一つの要素になるため取得しておくと良いでしょう。

参照:「中央社会保険医療協議会『第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告』」|厚生労働省
参照:令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況|厚生労働省

3.3 皮膚科医から美容皮膚科への転科

皮膚科では、皮膚病変の治療や診断のみではなく、美容皮膚科や抗加齢皮膚科学など、患者のQOLを高める医療に対しても注目が集まっています。また、美容皮膚科での施術は、自由診療なため保険適応外なため、患者一人に対しての単価が高く、利益率も高くなっています。

最近では、美容医療に対して関心を持つ年齢も広がっており、10~30代を中心に40代以降でも施術を行っている方はいます。美容医療は特別なものではなく、自分磨きの一環として捉えている人が増えており、美容皮膚科医のニーズは高まっています。

皮膚科医は、もともと皮膚に関する専門知識を有しており、美容医療に必要な基礎知識を身につけるのも比較的容易です。皮膚科診療で培った患者とのコミュニケーション能力も、美容医療において活かすことができます。

3.4 臨床以外のキャリア

皮膚科医は、臨床医としてのキャリアだけでなく、美容系や化粧品メーカーへの転職もキャリアパスとして有効です。

皮膚科医は、皮膚の構造や機能、疾患に関する専門知識を有しているため、美容製品の開発や、化粧品に関するコンサルティングなどに活用できます。

例えば、化粧品メーカーの研究開発職や美容系企業の企画営業やマーケティング分野への転職が考えられます。

4.皮膚科専門医になるには

皮膚科専門医の役割や、皮膚科専門医になるためのステップを紹介します。

4.1 皮膚科専門医の役割

皮膚科専門医は、皮膚科診療における高度な知識と技能を備えた医師であり、その専門性から一般の皮膚科医では対応できない治療も可能です。

例えば、乾癬治療において、最新の治療薬である生物学的製剤を使用できる点は皮膚科専門医の強みと言えます。生物学的製剤による治療は、日本皮膚科学会認定の専門医研修施設や皮膚科専門医が常勤医として勤務している限られた医療機関でしか受けることができません。

他にも、アトピー性皮膚炎や重傷円形脱毛症に対するJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤など、新しい治療薬を積極的に使用できるのも皮膚科専門医の強みの一つです。

皮膚科専門医は、このような専門性の高い治療を提供することで患者のQOL向上に大きく貢献する役割を担っています。

参照:『皮膚科専門医の役割が求められています!』|日本皮膚科学会
参照:乾癬 Q15 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
参照:【JAK阻害薬の使用に関して】|委員会からのお知らせ|公益社団法人日本皮膚科学会

4.2 皮膚科専門医になるには

皮膚科専門医になるためには、皮膚科の診療領域における知識やスキル、診療・手術・研究実績、論文・学会発表など所定の条件をクリアしなければなりません。また、皮膚科領域で臨床研修を5年以上行う必要があり、炎症性・腫瘍性疾患などに対しての病理診断や内科的治療、外科的治療などの知識や技能、態度を取得する必要があります。

皮膚科医専門医

また、皮膚科専門医研修は研修基幹施設と連携施設をローテートしながら研修プログラムを行っていきます。日本皮膚科学会によって定められた研修プログラムに沿って皮膚科診療に必要な知識と技能を体系的に身につけることが必須です。

参照:専門医制度|公益社団法人日本皮膚科学会
参照:(完成版)皮膚科学会パンフレット』|日本皮膚科学会

5. 皮膚科医の将来性

下記で紹介する通り、皮膚科医の将来性は明るいと考えられます。

5.1 超高齢化社会におけるニーズの高まり

通院が困難になるような皮膚疾患は稀ですが、皮膚疾患を持つ高齢者は多くなっています。実際に、高齢者施設で生活をする3,538名を対象に調査した結果、2,438名(70.1%)が皮膚疾患であると報告されました。また、在宅医療を要する患者の皮膚疾患は多くみられ、日本臨床皮膚科医会の在宅医療委員会では、患者家族からの相談に応じ、皮膚科医を紹介し、往診を行うなどの取り組みを行っています。

また、高齢者特有の皮膚科疾患には、老人性乾皮症や白癬、疥癬、褥瘡(床ずれ)、掻痒症(そうようしょう)など、長期的な経過観察や治療が必要なものが多くあります。
日本では、2007年に65歳以上の人口が全人口の21%を超える超高齢化社会に突入し、2022年時点で高齢者率は29.1%と上昇し続けており、患者はさらに増えていくことが予想されます。

このように、超高齢化社会における皮膚科医にニーズは年々高まっているのです。

参照:在宅療養者における皮膚疾患実態調査日本臨床皮膚科医会・日本看護協会との共同事業 (在宅療養者の皮膚疾患罹患状況と対応の現状)|日本臨床皮膚科医会在宅医療委員会
参照:高齢化社会を迎えて問題となる皮膚疾患の対処と予防|日本香粧品学会誌

5.2 慢性皮膚疾患の患者への対応

慢性皮膚炎症性疾患(乾癬、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹など)は、皮膚科でよく診療される慢性疾患です。外観上の問題をはじめ痒み、鱗屑、不眠などにより、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させることがあります。

生物学的製剤をはじめとする新しい治療薬が登場し、従来の治療では効果が不十分だった重症例に対しても有効な治療が可能になりました。重症アトピー性皮膚炎に対するインターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-13(IL-13)の働きを抑える抗体製剤「デュピルマブ」などが代表例です。

皮膚科医は、患者の状態や生活背景などを総合的に判断し個々に合った治療法を選択することで、慢性皮膚疾患の症状改善だけでなくQOLの向上にも貢献することができます。

参照:慢性皮膚炎症性疾患に対する治療の進歩 | 国立長寿医療研究センター

    5.3 医療技術の進歩と期待される役割

    近年、医療技術は目覚ましい進歩を遂げており、皮膚科領域も例外ではありません。

    遺伝子治療
    遺伝子治療は、遺伝子の先天的な異常や悪性腫瘍を含む後天的な皮膚疾患に対して、正常な遺伝子を導入することで治療を行うものです。例えば、角化症や白皮症、表皮水疱症などの遺伝性皮膚疾患に対して遺伝子治療の臨床研究が進められています。

    免疫療法
    免疫療法は、がん細胞を攻撃する免疫システムを利用した治療法です。皮膚がんの一種であるメラノーマ(ほくろのがん)に対して、免疫チェックポイント阻害薬などによる免疫療法が効果を上げています。

    再生医療
    皮膚科における再生医療は、培養した表皮細胞などを利用することで、重症熱傷などで著しくダメージを受けた皮膚を修復・回復させる治療法が普及しています。日本では、免疫拒絶反応の心配が極めて少なく、皮膚移植ドナーを待つ必要がない「自家培養表皮」を使った皮膚の再生医療が開発され、広く治療が行われています。

    生物学的製剤(バイオ医薬品(製剤))
    生物学的製剤は、生体の細胞や組織から作られる医薬品です。一例として、乾癬やアトピー性皮膚炎などの慢性皮膚炎症性疾患に対して、サイトカインの抑制に高い効果を示す生物学的製剤が開発され、治療の選択肢が広がっています。

    AI(人工知能)
    AI技術は、皮膚疾患の診断支援や治療効果の予測などに活用されています。例えば、スマートフォンで撮影した皮膚画像をAIが解析し、アトピー性皮膚炎の経過観察を行うシステムなどが開発されています。

    上記に挙げた最先端の医療技術の進歩により、皮膚科医には、新しい治療法の開発への関与や最新医療機器の操作スキル習得が求められています。また、遺伝子情報や生活習慣など、患者一人ひとりの特性に合わせた個別化医療の実践も重要視されています。

    そして、日進月歩で進化する医療業界の情報収集・分析能力や、新たな治療法や診断技術の確立を目指す研究活動への参画も、皮膚科医に期待される役割と言えるでしょう。

    皮膚科医そして皮膚科専門医を目指すためには、日々の自己研鑽で先端技術を学び、最新の情報を常にアップデートしていく姿勢が重要です。

    参照:どう未来を切り開くか|日本皮膚科学会キャリア支援

    6. まとめ

    皮膚科医は、患者の皮膚疾患の診断・治療を通し、広範囲な診療領域をカバーする多彩な役割を担っています。患者のQOL向上に貢献できる、やりがいのある仕事と言えるでしょう。

    特に、高齢化社会の進展や美容医療への関心増加に伴い、より高度な専門知識と技術を身につけた皮膚科専門医のニーズも高まっています。

    臨床と共に研究分野も充実しており、常に新しい治療法や技術が開発されています。

    そして、皮膚科医はやりがいだけでなく、ワークライフバランスを実現しやすい働き方も魅力です。

    自分のライフスタイルに合わせて、勤務医、開業医、美容系や化粧品メーカーへの転職など、様々な働き方を選択できます。

    皮膚科医として、患者のニーズに応じたやりがいあふれる働き方にチャレンジしてみませんか?