第59話 —私の贅沢な旅行 ~英国・ロンドンースペイン・マジョルカ島ーマドリッドーポルトガル・リスボンーロカ岬—【part3】 マジョルカ島・1.島内観光、2.ドラック鍾乳洞のマルテル地底湖、3.郷土料理

マジョルカ島・1.島内観光、2.ドラック鍾乳洞のマルテル地底湖、3.郷土料理。

到着した翌日はMさんの案内で島内の観光をした
1.パルマ大聖堂:Palma de Mallora Cathdral
午前9時ころ、世界遺産パルマ大聖堂を訪れた。朝を選んだのは、ステンドグラスを通して堂内に差し込んで来る朝の光が幻想的で、この光景は午前中しか見られないためである。1236枚の世界有数のステンドグラスがある。直径11メートルの巨大なパラ窓があり、朝の光を受けて幻想的な色彩が楽しめる。
20世紀にガウディが改修を手掛けたことで有名である。一番大きな祭壇に下がる天蓋飾りがガウディの作品で、サクラダ・ファミリア教会の主祭壇の装飾デザインの原型だと言われている。

ベルベル城:Castell de Bellver
パルマの西の丘の上に建つベルベル城は14世紀に建てられ、中央の庭を囲むように円形の2階建ての回廊が美しい柱に支えられて建っている。その外側に丸い背の高い城の塔が建っている。この城は高台にあるため、パルマの街と海を眺めるのに最高のロケーションであった。

2.ドラック鍾乳洞のマルテル地底湖
昼食後、ドラック鍾乳洞を訪れた。
洞に着くと、すでに見学客は延々長蛇の列をつくっていた。私たちも最後尾に並んだ。Mさんは「中のことは、見てからのお楽しみ!!私が説明しない方が楽しみが大きいのです。終ったころ、また迎えに来ます」と言って去って行った。
ここからは、家内の手記を引用しよう。
『洞窟の中は、鍾乳洞の大規模のものを想像して頂くとよい。なにしろ堂々と胸を張って、3人くらい連れ立って歩けるほど通路も広く、空間も広々としている。薄暗い神秘的な鍾乳洞を見ながら橋を渡る。橋の下の流れは蒼い不思議な色調を帯びている。暗黒の中を連結されている小さな裸電球を頼りに降りて行くと、洞内に砂の大広間が現れた。そこに観客用の背もたれのない3人掛けの椅子がずらっと並んでいる。案内嬢が懐中電灯で一人一人席に案内してくれる。この大ホールも3メートルくらいの高さの薄暗い裸電球で照らされている狭い部分は分かるが、洞の奥までの全体を見渡すことは出来ない。「はて、何が始まるのだろう?」と思っているうちに満席となった。周辺をわずかに照らしていた裸電球がいきなり消えて暗黒の世界に被われた。シーンとした静寂に包まれる。一瞬、かなり遠くから、かすかな高いトーンの音色が聞こえて来る。地底に一点の光が灯る。次第に一筋の光に変わり、尾を引いて来る。汽車が走って来るのか?

(( 註:私、達太は大広間の半分以上が湖であることに全く気がつかなかった。周囲につけられていた裸電球の光は湖まで届かないようになっていた。聞こえて来る音楽は、砂の上に敷かれた線路の上を、楽団員の乗ったトロッコが、人に押されて進んで来るのかと思うほど静かで、音もなくゆっくり進んで来た。私も妻も広い地底湖があることに全く気づかなかった)))

妻の手記を続けよう。
美しい光のラインがキラキラと走って来る。なんと幻想的な世界だろうか。夢か幻か?この世のものとは思えない。神秘的な音の流れがようやく聞き取れるようになって来る。今、幻が現れようとしている。息を呑む。光の正体が、何と!なんと!船らしい。その船からメロディが流れてくるようだ。暗黒の中を目を凝らして見る。ここで初めて舞台は地底湖であることに気づいた。ようやく船を漕いでいる人の姿がおぼろげに見えた。バイオリン、チェロ、チェンバロ(ハープシコード)が演奏されていた。
また別の方向から音楽が聞こえて来る。「あれエ?」と探るように目を見張る。左右から光のイルミネーションが交差する。やがてエメラルドグリーンの湖が浮かび上がる。その上を三艘の船が静かに滑るように行き交いながら、ショパンの愛の調べや赤いサフラン等を演奏。まるで水の流れのように滑らかにメロディが洞窟の中をこだまして行く。チェンバロの高いトーンが鍾乳洞に当たって反響する。その“ぞくぞく”するような凄さに私は圧倒された。まさしく小松左京の世界!
演奏もクライマックスが終ると、音も次第に小さくなって、一隻ずつ、一点の光となって姿を消す。そして、また、まっくら闇の静寂に戻る。人々の溜息が感じられた。次の瞬間パッと灯りが着いた。割れんばかり拍手。
「まあ、なんという演出」
興奮冷めやらぬ私である。
先程の船が空船で岸に来る。観客を向こう岸へ見送るサービス。でも、それに乗れば、先程見たものは夢でなくなる。私は夢に酔いしれながら、出口に向かって一歩一歩あるいた。』

ショーの行なわれた、洞内の巨大なマルテル地底湖は全長2キロメートルにも及び4つの地底湖がある。ヨーロッパ最大とも世界最大とも言われる地底湖で、1896年に探検家マルテル氏の探索により発見された。鍾乳洞の中に広がる音のシャワーは世界でここでしか体験できないという。

3.郷土料理
この日の夕食は郷土料理にすることになり、Mさんにレストランの予約と美味しい郷土料理の品目を5つくらい書いてもらった。彼は「今夜は柔道の練習日なので私は案内できません。タクシーを頼んで、8時ころ着くように行って下さい。この地方の夕食は遅いので8時ころが良いでしょう。メニューの料理は何料理であるかお教えしません。食べてからのお楽しみにしましょう」と言って、レストランの名前と5、6品の料理のメニューをスペイン語で書いて私たちに渡してくれた。
レストランは小高い丘の上にあり、3メートルくらいの大きな看板に1羽のウサギが左の耳をピンと伸ばし、右耳は半分直角に曲げている可愛いうさぎの看板があった。
レストランはほぼ満員で楽しげな声が溢れていた。
私たちは個室に通された。店員が注文を取りに来たのでMさんの書いたメニューを渡し、マジョルカ産のワインを注文した。
しばらくすると、次々に品物が運ばれてきた。評判の良い・生ハム、具沢山のスープ、シーフッドの盛り合わせなど、など、大体食材も分かり、いずれもおいしかった。最後に大きい皿にのったメイン・デッシュが一人一人に出された。アジや秋刀魚の“ひらき”のように、身が開かれている。魚のひらきは背骨が片側に着いているが、この皿の上の“ひらき”は中央に背骨があり、そこから左右に肋骨が出ている。肉の厚さは1.5センチ・メートルくらい。全体としてほぼ長方形で、革は剥がされている。肉は脂身ではなく、淡白で鳥の肉に近い。
何の動物だろうと、食べられそうな動物を4人で考えた。豚にしては小さ過ぎる。イヌやネコは食べさせないだろう。4人とも結局動物の名前は分からなかった。
丁度その時、店員がデザートの注文を取りに来た。聞くと“rabbit” (ウサギ)” だと言う。これで難問が氷解した。そういえば、大きな看板は “うさぎ”であった。ウサギの肉の専門店だったのだ。それほど美味しい食材ではなかったが、ウサギが出たお陰で、忘れられない夕食となった。

註:江戸時代4脚の動物を食べることは禁止されていたが、兎だけは食べることが出来た。
  そのため、四脚の兎を1頭、2頭と数えず、1羽、2羽と数えた。

参考文献
1.うっとりするほど美しいマヨルカ島(スペイン)絶景5選
2.新井瑛子  心の音 アデオス!(今日は)マジョルカ、51〜54頁2018年5月発行