介護離職を防ぐには?仕事と介護を両立する制度・支援まとめ

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年間約10万人が介護を理由に離職している日本では、働き盛りの世代が親の介護に直面し、キャリアや生活に大きな影響を受けるケースが増えています。

この問題は個人だけの問題にとどまらず、企業にとっては人材流出や生産性低下、国にとっては労働力人口の減少という深刻な課題でもあります。こうした状況を受けて、国は育児・介護休業法の改正や助成金制度の整備を進め、企業には介護と仕事の両立を支える環境づくりが強く求められています。

本記事では、介護離職の現状と背景、企業が直面するリスク、そして制度の内容をわかりやすく解説し、働く人がより安心して介護と向き合える一歩を後押しします。

1.介護離職とは?高齢化社会で増える離職の背景

介護離職の問題を考えるうえで、まず押さえておきたいのが、日本社会の急速な高齢化です。介護が必要な高齢者の増加は、働き盛りの世代に直接影響を及ぼし、仕事と介護の両立という課題を浮き彫りにしています。

1-1. 団塊世代が後期高齢者に──2025年問題と介護の現実

日本は急速に高齢化が進んでおり、2025年にはすべての団塊の世代が75歳以上の「後期高齢者」となります。厚生労働省の推計によれば、75歳以上の人口は全体の約18%に達するとされており、介護を必要とする高齢者の増加が避けられない状況です。

このように高齢者の割合が増加するなかで、家族による介護の必要性も年々高まり、仕事と介護を両立しなければならない人々が増えています。

参照:厚生労働省 「我が国の人口について」

1-2. 働きながら介護する人は全国に365万人|介護と仕事の両立の難しさ

介護をしている就業者の割合

総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、介護をしている人は全国で約629万人となっています。そのうち365万人(約58%)は就業者であり、仕事と介護を両立していることがわかります。
特に注目すべきは、50~54歳の働き盛り世代です。

• 男性の有業率:88.5%
• 女性の有業率:71.8%

この世代は、キャリアの中核を担う一方で、親の介護に直面する可能性が高く、介護離職のリスクが最も高い層といえます。

1-3. 現実介護離職の実態|仕事を辞めざるを得ない理由とは

介護との両立が困難になった結果、離職を余儀なくされるケースも少なくありません。「介護離職」とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることを指し、本人にとっては経済的・精神的な負担が大きく、企業にとっても人材流出や生産性低下という深刻な課題となります。

2022年の総務省の調査では、過去1年間に介護や看護を理由に離職した人は10万6,000人に上ると報告されています。これは氷山の一角に過ぎず、今後さらに増加することが懸念されています。

参照:総務省統計局 「令和4年就業構造基本調査結果」

1-4. 介護離職による経済損失は9.2兆円|企業・社会への影響

介護支援体制が不十分なまま推移した場合、2030年には以下のような経済損失が発生するとされています。

2030年 介護離職による経済損失

2030年における介護離職による経済損失の図

• マクロ経済損失額:約9.2兆円
• 大企業:年間約6億2,415万
        (製造業・従業員3,000人規模)
• 中小企業:年間約773万円
        (製造業・従業員100人規模)

参考:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
参考:経済産業省「新しい健康社会の実現」第 13 回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 資料3(2023 年3月 14 日)」

1-5. 両立支援で介護離職を防ぐ|損失削減の可能性

介護離職を防ぐための取り組みを行えば、経済損失を約4割削減できる可能性があります。

• マクロ経済損失額:約5.9兆円まで縮小
• 大企業1社あたりの損失額:年間約4.1億円まで抑制可能

このように、介護離職への対策は「コスト」ではなく「投資」と捉えるべき段階に来ています。職場の制度整備、マネジメント教育、テレワークや柔軟な勤務形態の導入など、実効性の高い施策を講じることが、今後の経営戦略における重要課題となっています。

参考:大和総研「大介護時代における企業の両立支援」

1-6. 介護離職を防ぐために必要な社会の支援

現状では、介護と就労の両立を支援する制度や仕組みが十分に整っているとは言えません。
そのため、以下のような取り組みが求められています。

• 企業による柔軟な働き方の導入(短時間勤務・テレワークなど)
• 行政による介護支援策の強化(制度の周知・助成金の活用)
• 社会全体での介護に対する理解と意識改革

介護離職は、個人の問題にとどまらず、社会全体の持続可能性に関わる課題です。医療従事者としても、制度の理解と情報提供が、患者やその家族の支えになる場面が増えていくでしょう。

2.介護離職を防ぐための制度・支援策まとめ

介護と仕事を両立するためには、国が定める法律や制度を理解し、積極的に活用することが重要です。ここでは「育児・介護休業法」に基づく4つの主要な支援制度について解説します。

2-1.介護休業制度とは?取得条件と期間

介護休業制度は、従業員が家庭内で継続的な介護を必要とする家族を支えるため、仕事を一時的に休んで介護に専念できるよう支援する制度です。企業には、従業員が制度を利用しやすいよう柔軟な運用が求められています。

介護休業制度

▼対象と条件
• 対象家族:配偶者、父母、配偶者の父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫
• 条件:2週間以上の「常時介護」が必要な状態(要介護認定は不要)

▼取得条件と期間
• 取得可能日数:対象家族1人につき通算93日まで、最大3回に分割可
• 対象労働者:日雇いを除くすべての労働者。有期契約者は条件あり
• 除外可能なケース:労使協定により、入社6ヶ月未満や週2日以下勤務者など

長期的な介護に備えるための制度であり、経済的支援(介護休業給付金)も受けられます。

参考:厚生労働省「介護休業制度」

2-2.介護休暇制度の内容と使い方

介護休暇制度は、要介護状態にある家族の世話や付き添い、手続きなどを行うために、短期間の休暇を取得できる制度です。年次有給休暇とは別枠で、柔軟に利用できる点が特徴です。

介護休暇制度

▼対象と条件
• 対象家族:配偶者(事実婚含む)、父母、子(養子含む)、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫
• 条件:2週間以上の「常時介護」が必要な状態

▼取得条件と期間
• 取得可能日数:対象家族1人→年5日、2人以上→年10日
• 取得単位:1日・半日・時間単位(2021年より時間単位取得が可能)
• 対象労働者:日雇いを除くすべての労働者
• 2025年改正:入社6ヶ月未満の労働者も対象に(除外要件の撤廃)

項目介護休業制度介護休暇制度
目的中長期的な介護短期的・突発的な介護
取得単位日単位(最大93日)時間・日単位(年5~10日)
給与無給(給付金あり)無給が一般的
分割取得可能(最大3回)不可

介護休暇制度は、通院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなど、短時間の介護にも対応できる制度です。

参考:厚生労働省「介護休暇制度」

2-3.介護のための短時間勤務等の制度|柔軟な働き方の選択肢

この制度は、要介護状態にある家族を介護する従業員が、勤務時間を柔軟に調整することで、仕事と介護を両立できるよう支援するものです。企業には、いずれかの措置を講じることが法律で義務付けられています。

介護のための短時間勤務等の制度

▼対象と条件
• 対象労働者:日雇いを除くすべての労働者(パートタイマー含む)
• 対象家族:配偶者(事実婚含む)、父母、子(養子含む)、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫

▼取得条件と期間
• 企業が講ずべき措置(いずれか1つ以上):
①短時間勤務制度
②フレックスタイム制度
③時差出勤制度
④介護費用助成等に準ずる制度
• 利用期間:対象家族1人につき、利用開始日から3年間のうちに2回以上の利用が可能
• 除外可能なケース:労使協定により、入社1年未満や週2日以下勤務者など

介護の時間確保と働き方の柔軟性を両立させるための制度です。

参考:厚生労働省「短時間勤務等の措置について」

2-4.残業免除制度(所定外労働の制限)で介護と仕事を両立

この制度は、要介護状態にある家族を介護する従業員が申請することで、企業が残業(所定外労働)を免除することを義務付けた制度です。育児・介護休業法により、企業には対応が求められます。

残業(所定外労働)免除の制度

▼対象と条件
• 対象家族:配偶者(事実婚含む)、父母、子(養子含む)、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫
• 条件:2週間以上の「常時介護」が必要な状態

▼取得条件と期間
• 対象労働者:日雇いを除くすべての労働者(パート・契約社員含む)
• 除外可能なケース:労使協定により、入社1年未満や週2日以下勤務者など
• 利用期間:1回あたり1ヶ月以上1年以内(回数制限なし)

他の制度と併用することで、より柔軟な介護体制の構築が可能になります。

参考:厚生労働省「所定外労働の制限について」
参考:厚生労働省「時間外労働の制限について」

関連する記事はこちら▼
介護休暇・介護休業を活用しよう!仕事と介護の両立を支える制度ガイド

3.よくある質問(Q&A)|介護離職と支援制度の疑問を解決

介護離職や仕事と介護の両立支援制度については、「実際にどれくらい利用されているのか」「どのような助成金があるのか」といった具体的な疑問を持つ方も多いでしょう。ここでは、厚生労働省などが公表している最新の調査データや制度概要をもとに、介護離職に関する質問に回答します。

Q.介護休業制度を利用している人はどれくらい?

令和6年度の厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、介護休業の取得者がいた事業所の割合はわずか1.9%にとどまっています。これは、制度が整備されていても、実際に利用されているケースが非常に少ないことを示しています。

また、介護休業を取得した労働者の割合は、全体の0.10%とさらに低く、育児休業と比べて利用が進んでいない現状が浮き彫りになっています。取得者の男女比は女性が69.7%、男性が30.3%となっており、依然として女性に偏っている傾向が見られます。

この背景には、制度の認知不足や職場の理解・支援体制の不十分さ、取得に対する心理的・実務的ハードルなどがあると考えられます。
介護離職を防ぐためには、制度の周知だけでなく、実際に使いやすい環境づくりが求められています。

Q.介護休暇制度を利用している人はどれくらい?

令和6年度の厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に介護休暇を取得した者がいた事業所の割合は3.6%でした。前年の2.7%からは増加傾向にあるものの、依然として利用率は低い水準にとどまっています。

また、介護休暇の取得日数については、女性労働者の77.9%、男性労働者の83.2%が「1~5日」以内の取得にとどまっており、短期間の利用が中心となっていることがわかります。

これは、介護の必要性が突発的・断続的であることや、長期休暇の取得に対する職場の理解や制度的なハードルが影響している可能性があります。
介護と仕事の両立を支える制度として、介護休暇のさらなる活用促進と柔軟な運用が求められています。

Q. 介護と仕事を両立するために、企業で使える助成金制度はありますか?

「両立支援等助成金」は、仕事と介護の両立を支援し、労働者の雇用安定を図るために中小企業が職場環境を整備した際に活用できる支援制度です。

このうち「介護離職防止支援コース」は、介護休業の取得・職場復帰や、介護と仕事の両立を可能にする制度の導入・活用を支援するもので、2025年4月の法改正に伴い内容が一部見直されました。
主な支援内容は以下の通りです。

支援内容条件・概要助成額
介護休業支援介護支援プラン作成+介護休業取得・復帰5日以上:40万円
15日以上:60万円
両立支援制度の導入・活用制度導入+対象者が制度を利用制度1つ・60日未満:20万円
制度1つ・60日以上:30万円
制度2つ以上・60日未満:25万円
制度2つ以上・60日以上:40万円
業務代替支援(新規雇用)介護休業中に代替要員を新規雇用15日未満:20万円
15日以上:30万円
業務代替支援(社内対応)代替業務を担った社員に手当支給15日未満:5万円
15日以上:10万円
短時間勤務中の手当支給短時間勤務制度利用者に手当支給15日以上:3万円
雇用環境整備加算以下4項目すべて実施:
・制度研修
・相談窓口設置
・事例収集・提供
・社内周知
一律10万円加算

2025年4月の法改正により、企業は介護に直面した従業員に制度を説明し、利用意向を確認することが義務化されました 。

これに加え、社内研修や相談窓口の設置など、職場環境の整備も助成金の評価対象となり、より実効性のある支援が求められています。

また、助成金制度も見直され、複数制度の導入や長期利用に対して支給額が増えるなど、企業の取り組みに応じた支援が強化されています。

詳細な申請要件や金額は、厚生労働省の公式資料をご覧ください。

参考:厚生労働省「2025(令和7)年度  両立支援等助成金のご案内」

Q介護と仕事の両立が難しいと感じたとき、どこに相談すればよいですか?

介護と仕事の両立に不安を感じたときは、まずは地域包括支援センターに相談することをおすすめします。地域包括支援センターは、全国すべての市町村に設置されている介護に関する総合相談窓口で、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーなどの専門職が常駐しています。

ここでは、介護保険制度の説明や、ケアマネジャーの紹介、介護サービスの利用方法など、状況に応じた支援を受けることができます。相談は無料で、事前予約なしでも対応してくれる場合が多いため、気軽に足を運ぶことができます。

また、勤務先での制度利用に関する悩みがある場合は、都道府県労働局や職場の人事部門にも相談してみましょう。厚生労働省の特設サイトでは、介護休業制度や両立支援制度についても詳しく紹介されています。

4.まとめ

介護離職は、誰もが直面し得る現実的な課題です。高齢化が進むなか、介護と仕事の両立が難しくなれば、個人の生活不安だけでなく、企業の生産性や経済全体にも大きな影響を及ぼします。

しかし、介護休業や介護休暇、短時間勤務、残業免除といった制度や助成金を正しく理解し、活用することで、介護離職を防ぎながら働き続けられる環境を整えることは十分に可能です。

これからの大介護時代に向けて、個人は制度への理解を深め、企業は両立支援に取り組むことで、誰もが安心して働き続けられる社会を築いていきましょう。

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