介護休暇・介護休業を活用しよう!仕事と介護の両立を支える制度ガイド

介護休暇 介護休業

日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進み、家族の介護に直面する人が急増しています。特に、働きながら介護を担う「ビジネスケアラー」の存在が注目され、仕事と介護の両立に悩む人が増えています。

こうした背景の中、国は「介護休暇」「介護休業」などの制度を整備し、企業にも支援体制の構築を求めています。

本記事では、介護と仕事を両立するために知っておきたい制度の内容や給付金の仕組み、実際の活用方法までをわかりやすく解説します。介護に備えるすべての方に役立つ情報をお届けします。

目次

1.  高齢化社会と仕事と介護の両立の現状

日本が超高齢社会を迎える中で、家族の介護に携わる人は急速に増えています。働きながら介護をする人がどれほどいるのか、そして両立に伴う不安や課題がどのように広がっているのか、最新の調査データをもとに現状を整理します。

1-1. 介護者の半数以上が働いているという現実

日本では急速な高齢化が進行しており、2022年時点で介護者は629万人にのぼります。さらに、そのうち365万人が就業者であるため、およそ半数以上が「仕事と介護を両立している」ことが明らかになっています。これは総務省の令和4年「就業構造基本調査」によって分かったことです。

特に男性と女性ともに「50~54歳」の世代で有業率が最も高く、男性は88.5%、女性は71.8%となっています。この年代はキャリアの中核であると同時に、親の介護問題が本格化する時期でもあります。

参照:総務省統計局 「令和4年就業構造基本調査結果」

1-2. 介護による就業不安と制度活用の必要性

近年、介護を理由とする「就業への不安」が高まる傾向があります。パーソル総合研究所が2024年に発表した調査によれば、介護のために今後の仕事の継続に不安を感じる人が年々増えています。業務に支障が出るのではないかや、職場への負担が生じるのではないかという心配、また昇進や昇格への影響への不安など、多くの悩みが寄せられています。

今の職場で親の介護が必要になった場合の介護不安

仕事と介護の板挟みの状況は、精神的に大きなストレスとなり、ときにライフプランや健康面に深刻な影響が出ることがあります。最終的に介護離職という選択を迫られるケースも年々増加しています。

2.  ビジネスケアラーとは?増加の背景と企業への影響

介護と仕事の両立は個人だけでなく、社会や企業にも大きな影響を及ぼしています。ここでは「ビジネスケアラー」という新しい概念が生まれている背景と、その増加が企業にもたらす課題について解説します。

2-1. ビジネスケアラーの定義と社会的背景

「ビジネスケアラー」とは、家族や親族の介護を担いながら、日常的に就業している人のことを指します。かつては専業主婦世帯で親の介護を担うケースが多かった一方、現代では共働き世帯や独身者が増加しており、働きながら介護を行う人が急速に増えています。

未婚化や核家族化も進んでいるため、介護をする際に頼れる親戚が身近にいない場合も増えています。超高齢社会特有の新しい社会的課題が生じている状況です。

2-2. ビジネスケアラーが抱える課題と悩み

ビジネスケアラーは、毎日の業務と介護の責任を両方こなしながら生活しているという状態です。例えば、現役世代の働き盛りに、親が急に介護を必要とするようになった場合、以下のような悩みが生じやすくなります。

ビジネスケアラーの悩み

• 仕事の業務時間と介護のスケジュールを両立させることが困難であること
• 本人の健康や精神面に大きな負担がかかること
• 介護費用が家計に影響を及ぼすこと
• 職場の理解が得られず、将来的なキャリアについて不安が残ること
• 介護休業や休暇制度が使いにくい(制度の周知不足や職場の風土などが障壁となること)

周囲の支援や理解が得られない場合には、介護離職を選ばざるを得なくなる状況もあります。しかしながら、介護離職は本人や家族だけでなく、企業にとっても大きな損失につながります。

2-3. 介護離職が企業にもたらす損失と対策

社員が介護を理由に離職することで、企業は人材確保や教育コストの増加、生産力の低下など、さまざまな負担を受けることになります。経済産業省の試算によれば、2030年時点でビジネスケアラー関連による経済損失額は約9兆円に達する見込みです。

企業は介護に直面した従業員を「個人の問題」として捉えるのではなく、経営面でも「仕事と介護の両立支援」の重要性を認識する必要があります。人手不足やベテラン人材の流出リスクを回避するためにも、両立支援に積極的に取り組む姿勢が求められています。

参照:経済産業省 「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」

3. 仕事と介護の両立を支える国の取り組み

介護と仕事の両立をサポートするため、国では法律や制度の整備が進んでいます。ここでは、国がどのような制度を用意し、企業や働く人々にどのような支援を行っているのかを紹介します。

3-1. 「育児・介護休業法」による両立支援制度

国は介護離職を防ぐため、「育児・介護休業法」を整備し、企業に対して「仕事と介護の両立支援制度」の導入を義務付けています。
この制度により、従業員が介護に直面した場合でも、仕事を続けながら必要な支援を受けられる仕組みが整っています。

3-2. 法改正と施行時期について

令和6年5月には、「育児・介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法」が改正されました。
この改正は、令和7年4月1日から段階的に施行され、制度の対象範囲や企業の義務が拡充される予定です。
より柔軟な働き方や両立支援が求められる中、企業と従業員双方にとって重要な制度となっています。

3-3. 両立支援のための4つの制度

育児・介護休業法に基づき、企業は以下の4つの制度を導入・案内する義務があります。

育児・介護休業法4つの制度

  1. 育児休業:1歳未満の子どもの育児をする場合に取得できる休業
  2. 子の看護休暇:子どもが病気などの場合に取得できる休暇
  3. 介護休業:要介護状態となった家族の世話のため、2週間以上の長期休業を取得できる制度
  4. 介護休暇:要介護状態の家族の世話のため、必要な日に休暇を取得できる制度

このうち、「介護休業」「介護休暇」は、介護と仕事の両立に特に関係する制度です。
次章では、それぞれの制度について詳しく解説します。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」

4. 「介護休暇」とは?短期的な介護に対応する制度

介護と仕事を両立させるうえで、多くの人がまず利用を検討するのが「介護休暇」です。この章では、介護休暇制度の内容や取得条件、実際にどのような場面で活用できるのかについて、わかりやすく解説します。

4-1. 介護休暇制度の内容と目的

「介護休暇」は、要介護状態にある家族を世話したり、付き添いをしたり、医療機関への同行や食事・排せつの援助、安否確認などの日常的なケアが必要な場合に利用できる制度です。これは、通院や急な体調不良など、短時間の世話に対応できるため、介護と仕事の両立に役立ちます。

4-2. 制度のポイントと取得条件

介護休暇は、要介護状態にある家族の世話をするために、1日または半日単位で取得できる休暇制度です。短時間の介護や付き添い、手続きなどに対応できるため、仕事と介護の両立に役立ちます。

Family members eligible for caregiving leave

対象となる家族

⦁ 配偶者(事実婚含む)
⦁ 父母
⦁ 配偶者の父母
⦁ 子
⦁ 祖父母
⦁ 兄弟姉妹
⦁ 孫
⦁ その他、労働者が同居し、かつ扶養している親族

※同居していなくても対象となる場合があります。

項目内容
利用条件・要介護状態にある家族がいること
・雇用形態に関係なく、正社員・契約社員・パートタイム労働者も対象
(一定の勤務期間が必要)
・取得は1人につき年5日まで
(複数人を介護する場合は最大10日)
・取得方法は、1日単位または半日単位での取得が可能
・事前に会社へ申請を行う必要があります
給与の扱い・企業に給与支払いの義務はなし
・原則として無給
・企業によっては有給扱いとする場合もあるため、就業規則の確認が重要
主な活用シーン・家族の通院やデイサービスの送迎
・要介護者の体調変化に伴う病院への同行
・介護サービスや福祉制度に関する手続きの代行
・ショートステイや施設との打ち合わせ
・半日単位での取得が可能なため、細かな予定にも柔軟に対応可能

  

参考:厚生労働省「介護休暇について」

5. 「介護休業」とは?長期的な介護に対応する制度

短期の休みだけでは対応しきれない介護の場面も多くなってきました。そのような場合、より長期間仕事を休むことができる「介護休業」という制度が用意されています。この章では、介護休業の仕組みや取得の条件、具体的な活用シーン、注意すべきポイントについて説明します。

5-1. 介護休業制度の目的と仕組み

「介護休業」は、要介護状態となった家族の世話を集中的に行う必要がある場合に利用できる制度です。仕事を最大93日間まで休業することができ、たとえば介護開始時に自宅介護体制を整えたり、入院や退院対応などまとまった時間の確保が必要になるシーンで活用されます。

5-2. 制度のポイントと取得条件

介護休業制度の主なポイントと条件は以下の通りです。

対象となる家族

⦁ 配偶者(事実婚含む)
⦁ 父母
⦁ 配偶者の父母
⦁ 子
⦁ 祖父母
⦁ 兄弟姉妹
⦁ 孫
⦁ その他、労働者が同居し、かつ扶養している親族

※同居していなくても対象となる場合があります。

項目内容
利用条件⦁ 要介護状態にあること(介護認定が必要)
⦁ 雇用保険に加入していること
⦁ 雇用形態に関係なく、正社員・契約社員・パートタイム労働者も対象
⦁ 取得前の勤務期間が一定以上あること(※改正により一部緩和)
取得可能日数と方法⦁ 要介護者1人につき、通算93日まで取得可能
⦁ 最大3回まで分割して取得可能
⦁ 1回あたりの休業は2週間以上が原則
⦁ 事前申請と、医療機関による「要介護認定」などの証明が必要
給与の扱い⦁ 原則として無給
⦁ 企業によっては給与支給の規定が異なるため、就業規則を確認することが重要

5-3. 改正による取得要件の緩和(令和6年)

令和6年の法改正により、介護休業の取得要件が一部緩和されました。

介護休業の改正

これまで、労使協定により「継続雇用期間が6か月未満の労働者」は介護休業の対象外とすることが可能でしたが、この除外規定が撤廃され、雇用から6か月未満の労働者でも取得可能となりました。

これにより、より多くの人が制度を活用できるようになり、介護と仕事の両立支援が一層進められています。
※「週の所定労働日数が2日以下の労働者」については、引き続き労使協定により除外可能です。

参考:厚生労働省「介護休業について」
参考:厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイント」

6. 介護休業給付金とは?収入を補う支援制度

介護休暇や介護休業を取得する場合、特に気になる点が収入面です。休業中の経済的な不安を少しでも軽減できるよう、雇用保険から支給される「介護休業給付金」という仕組みがあります。この章では、介護休業給付金の内容や支給条件、受給金額の目安、手続き方法について詳しく解説します。

6-1. 介護休業中の収入と給付金について

介護休暇や介護休業は、基本的に「無給」での取得となります。そのため、休業期間中の収入が心配だという方も多くいらっしゃいます。しかし、一定の条件を満たすことで雇用保険から「介護休業給付金」が支給される制度が用意されています。

6-2. 給付金の受給条件

「介護休業給付金」の主な受給条件は以下の通りです。

・雇用保険に加入している
・介護休業開始前の2年間に、11日以上働いた月が12か月以上ある
・介護休業中に給与が支払われない、または一定額以下であること

6-3. 給付額の目安と計算例

給付金の額は「休業開始前直近6ヶ月間の平均賃金の67%」が支給されます(2024年現在の基準です)。

例えば、月給が30万円の場合には介護休業給付金は「月約20万1千円(30万円×0.67)」となります。支給は休業終了後、会社による申請の後に支給される流れです。

会社から一部給与が支払われる場合、その分給付額から差し引かれることがありますので、会社の人事担当や厚生労働省の最新情報を確認してください。

給付金の詳細については「厚生労働省Q&A」をご参照ください。

6-4. 介護休業給付金を受け取る為に必要な書類について

介護休業給付金を受給するための手続きの流れは下記の通りです。

介護休業給付金受給のSTEP

STEP1. 会社へ介護休業の申請を行います。
STEP2. 雇用保険被保険者証、介護休業等申出書、本人確認書類などの書類を用意します。
STEP3. 会社がハローワークへ申請手続きします。原則として従業員本人ではなく会社側が申請します。
STEP4. ハローワークにて審査があり、支給が決定されたのち本人に給付金が振り込まれます。

不安や疑問がある場合は、会社の人事窓口やハローワークに早めに相談しましょう。

7. 介護と仕事の両立を支えるこれからの社会と住まいの選択肢

介護と仕事の両立は、今後ますます多くの人にとって現実的な課題となっていきます。制度の整備や企業の取り組みが進む一方で、介護を支える「住まい」や「生活環境」の選択肢も重要な要素となっています。

この章では、今後の社会的な動向とともに、介護者・高齢者双方にとって安心できる暮らしのあり方について考えていきます。

7-1. 制度の普及と職場環境の改善がカギに

介護離職やビジネスケアラーの増加は、個人だけでなく企業や社会全体にとっても大きな課題です。今後は、介護制度のさらなる周知と、職場での柔軟な働き方の導入が求められます。

テレワークや時短勤務、フレックスタイム制度など、介護と両立しやすい就労環境の整備が進めば、介護者の精神的・身体的負担の軽減にもつながります。企業の理解と支援体制の強化が、介護離職の防止に直結するでしょう。

7-2. 介護を支える「住まい」の選択肢が広がる

介護と仕事を両立するうえで、もうひとつ重要なのが「住まい」の選択です。高齢者が安心して暮らせる環境が整っていれば、介護者の負担も大きく軽減されます。

近年では、介護付き住宅やサービス付き高齢者向け住宅、シェアハウス型の住まいなど、多様な選択肢が登場しています。これらの施設では、介護スタッフの常駐や医療機関との連携、食事・生活支援サービスなどが提供されており、家族が日常的に介護に関わらなくても安心できる体制が整っています。

7-3. 上質な暮らしと安心を両立する住環境のニーズ

特に、生活の質やプライバシーを重視する高齢者にとっては、単なる「介護施設」ではなく、自分らしく暮らせる空間が求められています。趣味や学びの機会がある、自然に囲まれた環境で過ごせる、同世代との交流がある——そうした要素が、介護を受けながらも前向きに暮らすための鍵となります。

こうした住まいは、介護者にとっても「安心して任せられる場所」となり、仕事との両立を支える大きな助けになります。今後は、介護サービスと生活の質を両立させた住環境の整備が、社会全体でますます求められていくでしょう。

8. 介護休暇・介護休業についてよくある質問(Q&A)

実際に「介護休暇」「介護休業」制度を利用検討されている方の疑問について、具体的なケースをもとに解説します。

Q1. 介護と仕事を両立するためには、どのような工夫が必要でしょうか。

まずは職場が提供している介護両立支援制度(介護休暇、介護休業、在宅勤務など)を把握して、早めに上司や人事担当者に相談する方法が有効です。

制度を活用するだけでなく、外部の介護サービスや自治体・地域包括支援センターの利用も検討したほうがいいです。また、家族内で協力体制を整えることで、負担を分散できます。

無理をしない範囲で計画を立てつつ、メンタルヘルスの維持にも注意してください。仕事との両立を諦めず、公的・民間サービスも積極的に活用してみてください。

参考:東京都産業労働所「介護と仕事の両立に関するよくあるお問合せ」

Q2. 会社に介護休業の申請をしたところ、「認められない」と言われました。どう対応すればよいですか。

会社が正当な理由なく介護休業の申請を拒否する場合、まずは自社の就業規則と「育児・介護休業法」の内容を確認することが重要です。

不当な却下であれば、労働基準監督署やハローワークで相談できる制度があります。社内のコンプライアンスや人事部への再確認も有効です。

さらに、解雇や降格などの不利益取り扱いがあった場合には、法律的な救済措置を利用することができます。会社との対話だけで解決が難しい場合は、労働局や弁護士など専門家への相談も検討しましょう。

Q3. 介護休業給付を受け取るには、どのような手続きが必要ですか。

介護休業給付の手続きに必要な準備として、まず雇用保険への加入が必須です。介護休業を取得する際には、勤務先に事前の申請を行い、雇用保険被保険者証、休業申出書、本人確認資料などを会社に提出する必要があります。

その後、会社がハローワークに必要書類を提出することで、審査が進みます。休業期間が終わったのちにも追加書類を提出することが求められる場合があり、支給決定後に給付金が本人へ振り込まれます。

手続き方法や必要資料は会社の人事部やハローワークで確認できます。期限や細かな取り扱いもあるため、早めに相談することが大切です。

参考:厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」

Q4. 介護休暇と介護休業との違いは何ですか。

介護休暇は、介護が必要な家族の「世話をする日」や「通院・付き添い」など短期的な必要性に応じて1日や半日単位で取得できる休暇制度です。

一方、介護休業は、要介護者の状態が重く長期間の看護や生活支援が必要となった場合に、最長93日まで分割して取得できる長期休業制度です。介護休業では雇用保険給付を受けられる可能性がある点も特徴です。状況に応じて使い分けることで、より無理なく仕事と介護を両立できます。

9. まとめ

日本では高齢化が進み、家族の介護と仕事を両立しなければならない人が増加しています。それに対応するため、国や企業は「介護休暇」や「介護休業」など、働く人向けの制度やサポートを充実させています。

これらの制度を知り、活用することで、介護による離職を防ぎながら仕事を続けることが可能になります。
一方で、制度の使い方が分からない、職場の協力が十分でないといった悩みや、手続きの煩雑さに戸惑う人も少なくありません。今後は制度のさらなる普及と利用しやすい環境作り、そして職場の理解促進がますます重要になります。

また、富裕層高齢者向けのシェアハウスや高品質な介護施設の選択肢も広がっており、家族や当事者が安心して暮らせる環境が増えています。
介護と仕事の両立には不安や負担もありますが、制度やサービスを上手に活用し、必要なときは専門家や相談窓口に頼ることで、自分らしい働き方や介護の形を選べます。社会全体でサポートする仕組みを活用しながら、本記事を参考に、ご自身の状況にあわせた選択肢や対策を検討してください。

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