医師が加入できる年金は?老後の生活のために必要な準備についても解説

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「医師はどんな年金に加入できるのか」「年金だけで老後は暮らしていけるのか」

このように、年金について考えたことがあるという方は多いのではないでしょうか。

世間一般では、いずれ受け取れる年金額が少なくなると予想されるため、しっかりと老後資金を準備する必要があるとの認識が広まりつつあります。国民健康保険と厚生年金の他にも加入できる年金についても理解し、ご自身にとって必要な年金制度を利用することが大切です。

本記事では、医師が加入できる年金の種類や老後の生活のために必要な準備などについて詳しくご紹介します。

1.日本の年金は3階建て構造

日本の年金は、次のように3階建て構造になっています。

 

国民年金

厚生年金

企業年金や国民年金基金など

階層

1階部分

2階部分

3階部分

対象

日本在住の20歳~60歳未満の人全員

企業、医療法人、5人以上の従業員を常時雇用している個人の診療所や病院に勤めている人

任意加入

国民年金は全ての国民が加入しており、それに上乗せする形で厚生年金、企業年金や国民年金基金に加入します。国民年金の保険料と支給額は一律ですが、厚生年金は保険料、企業年金や国民年金基金は掛け金などによって支給額が異なります。

厚生年金保険料は収入によって決まるため、高収入であればあるほどに保険料と支給額が高くなる仕組みです。

2.医師が加入できる年金

それでは、医師が加入できる年金について、詳しく見ていきましょう。

2-1.加入が必須な年金

2-1-1.勤務医は「厚生年金」

厚生年金は、企業や医療法人などに勤務している人が加入するため、医師においては勤務医が加入する年金制度です。支給開始年齢は段階的に引き上げられ、男性は2025年、女性は2030年から65歳になります。

〇保険料

厚生年金保険料の半分は勤務先が負担しています。勤務医が実際に支払う保険料は、以下で算出した金額の半分です。

給与(標準報酬月額)×保険料率(18.3%※20179月以降固定)

標準報酬月額とは、基本給に残業手当や通勤手当などを含めた給与を区分したもので、1等級(88,000円)~32等級(65万円)までに分かれています。

〇受給額

厚生年金の受給額は、加入期間と納めた保険料額で決まります。所得が高くなればなるほどに多くの保険料を支払っているため、それだけ受給額は増加します。ただし、所得が低い人との公平性を保つために、支払った保険料の一部は他の受給者に還元されています。

2-1-2.開業医・フリーランス(非常勤)は「国民年金」

国民年金(基礎年金)は、無職の人も含めて日本在住の20歳~60歳未満の人全員が加入する年金制度です。開業医・フリーランス(非常勤)は厚生年金に加入できないため、国民年金のみ、もしくは3階建て部分の年金の両方に加入します。

〇保険料

国民年金の保険料は定額で、2023年度は16,520円です。勤務医は毎月支払っている厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれています。

〇受給額

国民年金の受給開始年齢は65歳ですが、6070歳までの間で繰り上げ・繰り下げ受給が可能です。納付期間と受給開始年齢によって受給額が異なります。

例えば、20歳~60歳まで保険料を全額納付する場合の受給額は、月額約66,000円です。勤務医の場合は、これに厚生年金の受給額が上乗せされます。

2-2.任意で加入できる年金

2-2-1.医師年金

医師年金は、日本医師会会員が加入できる3階建て部分に属する私的年金です。国民年金・厚生年金と同じく、存命の限り年金を受け取り続けることができます。

公的年金は、就業形態に応じて国民年金、厚生年金に加入する仕組みであり、勤務医から開業医となった場合は厚生年金から脱退する必要があります。一方、医師年金は就業形態が変化しても加入し続けることが可能です。勤務医から開業医となり、その後に法人化したとしても脱退する必要はありません。すなわち医師年金は、公的年金を補完することで医師の老後生活の基盤としての役割を発揮します。

保険料

保険料は、加入者全員が満65歳まで払い込む「基本年金保険料」と、任意で払い込む「加算年金保険料」で決まります。

基本年金保険料は月額12,000円、年払138,000円です。一括払いでは、払い込み時の年齢に応じて金額が異なります。

加算年金保険料は、月額16,000円もしくは110万円で金額の上限はありません。

〇受給額

医師年金の受給開始は原則満65歳ですが、現役で働いている方や年金額をさらに増やしたい方は満75歳まで延長できます。

医師年金のホームページには、受給額のシミュレーションが用意されています。一例として、35歳の医師が満65歳から毎月約20万円を受給したい場合は、基本年金に加えて加算年金を毎月17102,000円を支払います(総額4,0356,000円)。

2-2-2.保険医年金

保険医年金は、全国保険医団体連合会会員が加入できる拠出型企業年金保険です。国内の生命保険会社6社が共同受託しており、生命保険会社が破綻した際に原則90%の補償を受けることができるセーフティネットの対象です。そのため、保険料を支払ったのに年金が支払われないといったトラブルの心配はほとんどありません。

〇保険料

保険医年金の保険料は、110,000円で月額30口まで払い込むことができます。また、150万円を40口まで一時払いすることも可能です。

〇受給額

80歳を満期として、加入後5年以降から受給開始できます。受取方法は10年、15年、20年、一括の4種類です。払込保険料に利率が上乗せされるため、実際の払込保険料よりも多くの金額を受給できます。202321日時点における予定利率(最低保証)は1.170%です。

2-2-3.個人年金保険

個人年金保険は、3階建て部分に属する私的年金です。契約時に払込期間や受給開始年齢を定めます。

〇保険料

生命保険文化センターの調査によると、2021年度における個人年金保険の年間払込保険料の総額は、平均で20.6万円です。2015年以降は増加傾向にあることから、老後への備えに対する意識が高まりつつあると考えられます。

出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査

〇受給額

生命保険文化センターの調査によると、個人年金保険の年間の受給額平均は、97.1万円(月々約80,000円)です。生活水準によりますが、毎月80,000円も公的年金とは別に受け取ることができれば、老後の生活に余裕が出るでしょう。

出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査

3.医師が老後に悠々自適に暮らすための準備

ここまで医師が加入できる年金について解説してきましたが、そもそも年金を理解すべき理由は老後生活の計画を立てるためです。どれだけ年金額が多くとも、イレギュラーが起きることで老後資金の準備計画が破たんする恐れがあります。

医師が老後に悠々自適に暮らすためには、次のポイントを押さえる必要があります。

  • 必要な老後資金を明確にする
  • 資産を減らさないための対策を講じる
  • 資産をどれだけのペースで増やせばよいかを明確にする
  • 資産運用で資産を効率的に増やす

それぞれ詳しく見ていきましょう。

3-1.まずは必要な貯蓄額を知ることが先決

医師が悠々自適な老後生活を実現するためには、必要な貯蓄額について明確にすることが先決です。必要な貯蓄額は、子供の人数や医師になってほしいかどうかや老後の生活費などで異なります。

まずは、年収に対する貯蓄額の平均や、医師の年齢別の年収について確認しましょう。そのうえで、必要な貯蓄額を知る際のポイントについてチェックすることが大切です。

3-1-1.年収に対する貯蓄額

金融広報中央委員会によると、令和2年における2人以上世帯の年収と貯蓄割合の関係は以下のとおりです。

年収

貯蓄額(平均)

貯蓄額(中央値)

300~500万円未満

1,322万円

650万円

500~750万円未満

1,475万円

850万円

750~1,000万円未満

2,142万円

1,350万円

1,000~1,200万円未満

2,486万円

1,650万円

1,200万円以上

4,866万円

2,940万円

出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和2年)

年収が高い人は老後の生活レベルも高くなる傾向があるため、上記の貯蓄額を超えているからといって老後に自身が満足できる生活ができるとは限りません。

3-1-2.医師の年齢別の平均年収

続いて、医師の年齢別の平均年収も見ていきましょう。

 

男性

女性

20~24歳

554万8,300円

365万8,400円

25~29歳

727万5,800円

634万7,700円

30~34歳

1,008万1,600円

883万6,800円

35~39歳

1,444万6,900円

1,354万5,100円

40~44歳

1,570万800円

1,218万8,000円

45~49歳

2,087万1,100円

1,602万2,400円

50~54歳

1,870万1,900円

1,603万300円

55~59歳

1,896万6,300円

1,771万7,600円

60~64歳

1,844万5,500円

1,655万7,500円

65~69歳

1,896万6,300円

1,768万8,100円

70歳~

1,594万6,800円

1,358万4,000円

出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」職種(特掲)、性、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)

それでは、必要な貯蓄額を知るうえで押さえておきたいポイントを確認していきましょう。

3-1-3.教育費のイメージをたてる!子供も医師にしたい場合は?

住友生命によると、子供1人にかかる教育費は、幼稚園から高校までが公立で塾などの習い事に通う場合は約561万円、全て私立の場合は約1,851万円です。それに加えて大学の費用が実家からの通学で国公立が約282万円、私立(文系)が約448万円、私立(理系)が約595万円です。

これが私立(医系)になると約1,674万円に跳ね上がります。子供が1人暮らしする場合は私立(医系)で約2,058万円とさらに多くの費用がかかります※1

このように、子供1人を医師にするためには、幼少期から塾に通いかつ大学で1人暮らしをする場合は約4,000万円かかります。子供2人を医師にしたい場合は、約8,000万円です。

老後資金を貯めるために毎月の貯蓄額を算出する際は、このように多額の支出を考慮しなければなりません。

1 出典:住友生命「教育費の平均は?幼稚園~大学の教育費を解説!【4パターン】

3-1-4.老後資金は“リタイア時期と希望する生活水準”から考える

必要な老後資金は、退職から亡くなるまでの期間と生活水準で異なります。平均年収1,000万円の医師が国民年金と厚生年金に40年加入した場合、65歳以降に受け取れる年金額は月額約25万円です(※東洋経済Plusシミュレーションを利用)。

厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、男性の平均寿命は81.47歳、女性は87.57歳です。長く見積もって90歳まで生きると過程して、必要な老後資金について解説します。

年収1,000万円の手取りは700780万円のため、月々約58万~65万円の収入です。毎月45万円を支出して約1320万円を貯蓄していたとしましょう。

この場合、老後も同じ生活水準を維持するためには毎月約20万円が不足します(年金月額約25万円の場合)。90歳まで生きる場合の不足額の合計は6,000万円です。

65歳でリタイアする場合において老後までに6,000万円を貯蓄するには、20歳から65歳までの間に月々平均で約11万円の貯蓄が必要です。毎月、順調に貯蓄できていれば6,000万円は難なくクリアできるでしょう。

しかし、病気で医療費や介護費などがかかることを考慮すると、より多くの貯蓄が必要です。また、子供2人を医師にしたい場合はさらに支出が多くなり、6,000万円を老後までに貯めることは難しいかもしれません。

3-2.貯蓄を減らさないための対策を講じる

必要な貯蓄額が明確になり順調に貯蓄していたとしても、病気や怪我、死亡などによって遺族が経済的に困窮する恐れがあります。また、医療事故(医療過誤)による訴訟によって莫大な損害賠償金を支払うことになる可能性もあるでしょう。貯蓄を効率的に増やすとともに、減らさないための次のような対策も必要です。

3-2-1.死亡時の遺された家族の生活に備える

老後を迎える前に死亡した場合、子供や配偶者が経済的に困窮する恐れがあります。子供に医師になってほしいと思っていても、資産状況や配偶者の収入によっては諦めざるを得ません。経済的困窮への対策だけではなく、子供に医師を諦めてほしくない場合は1人4,000万円程度の保険金が下りる保険への加入を検討しましょう。ただし、保険料が多額になると貯蓄額が減少するため、バランスが重要です。

また、病気や怪我に備える場合は、傷病手当金だけでは不足するかどうかの確認が先決です。不足する場合は、病気や怪我で入院や通院、手術をした際に保険金が支払われる保険への加入を検討しましょう。

3-2-2.医療事故や訴訟のリスクへの備え

医療技術の進化により、治療法や手術の複雑性が増し、その分リスクも高まっています。また、医療は人間の手によって行われるため、ヒューマンエラーの可能性が常に存在します。繁忙期や疲労、コミュニケーション不足などが原因となって不適切な治療が発生することもあるでしょう。

このようにして起きた医療事故では、患者から多額の損害賠償請求を受ける恐れがあります。資産を減らさないためにも、医師向けの賠償責任保険に加入しておくことも大切です。

3-3.資産運用で効率的に資産を増やす

資産を効率的に増やすために、次のような資産運用を始めましょう。

  • 投資信託
  • 株式投資
  • 不動産投資

iDeCoやNISAといった投資で得た利益が非課税になる制度を利用し、少しでも多くの資産を手元に残すことが大切です。

医師の資産運用の方法については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

→関連記事:医師は資産運用した方がよい?資産を増やすための基礎知識と必要性|ONE DOCTOR

4.まとめ

医師が加入できる年金制度は、国民年金や厚生年金などです。それに加えて、保険医年金のように医師だけが加入できる年金もあるため、老後資金をしっかりと貯めたい方は加入を検討しましょう。

また、年金だけで老後に悠々自適な生活ができるかどうかは、リタイア時期と生活水準で異なります。

本記事では、医師が加入できる年金の種類や老後の暮らしに向けた準備などについてご紹介させていただきました。医師の年収は他の職種と比べて高い分、生活水準も高くなりがちなため、年金を含め老後資金の準備について知識を習得することが大切です。今回、解説した内容が医師の年金に関する疑問や不安の解消の一助となれば幸いです。