第18話 偶然からの大発見 【part3】

DeWall—Lillheiの気泡型肺

 交差循環法で好成績をあげたLilleheiらは、1954年から本格的な気泡型肺の研究を始めた。(気泡型とはピーカーの中に血液や牛乳を入れ、細いカラス管をその中に立て、そこに酸素か空気に圧力をかけて送り込むとブクブクと泡ができるのを想像して頂けば良い)。

 気泡型肺の難点は微小気泡の除去が難しいことであった。この微小気泡が人工心肺の装置内に残り、さらに患者の血管に流れて行くと患者の体内でガス栓塞を起こす。彼らは除胞に苦心した。そして最初に作った人工肺は、1)気泡発生装置。 2)患者からの血液と酸素ガスをミキシングする混合チューブ。3)チューブを螺旋状にし、酸素化血が螺旋状チューブを下から上に昇って行く間に酸素ガスを取り除く除胞チューブ。4)貯血層の4つの部分からできている。そこらの町工場でも出来る簡単な装置である。これにいくつかの改良を加えた後、1955年5月に臨床に応用した。最初の7例は全て成功し、その後も良好な成績であった。この装置はDeWall−Lilleheiの気泡型肺と呼ばれ、小型で使い易く、安価、組み立てと点検が容易などの利点が多く、急速に世界に広まり、その後の直視下心臓手術の発展に大きく貢献した。

 1956年、大阪大学の最初の症例も、東京大学の初期の人工心肺も、このDeWall−Lillhei型人工肺である。同年、東京女子医大で臨床例に成功したイルリガートル式気泡型肺もLillhei型とは異なるが、気泡型人工心肺である。

 

この簡単な人工心肺が世界中に広まり、心臓外科の発展に大きく貢献した。これはpart1で述べたように、英国のAndreasonらが、本来ならV.Azygos(奇静脈)より中枢の上大静脈を右心房の接合部で結紮すべきであったのに、誤って奇静脈より末梢の上大静脈を結紮してしまった。この動物実験の誤りから、通常の血液循環量の10分の1の血液量で、 ”30分間なら生存する” ことを発見した。これは実験の誤りからの大発見であるということが出来る。

図2:右側の人工肺とあるのが気泡型肺で、イルリガートルの中に血液を入れ、この血液の中にビニール管に接続したガラス棒を入れ、酸素ガスを送り込むと血液がブクブクと泡立って酸素化(動脈化)される。

 

(了)