医療分野で注目のフェムテックに医師はどう関わるべきか?

フェムテック 医療

近年、女性のあらゆる健康問題を科学技術で解決する「FemTec(フェムテック)」に関連した商品・サービス市場が活発化しています。

欧米では定番となっているフェムテック市場ですが、日本においては今後、医療機関との連携や医師が商品開発に携わる場面が多くなると予想されます。

そこで本記事では、FemTec(フェムテック)の基本概念を確認しながら、医師がどう向き合って行けば良いのか、医療分野での将来性や課題点を合わせて考察していきましょう。

1. FemTec(フェムテック)とは?

「FemTec(フェムテック)」という用語は「Female(女性)」と「Technology(技術)」の2つの単語を掛け合わせた造語です。

女性特有の悩み(婦人科疾患、メンタルヘルスなど)、生理、妊娠・出産、更年期といったライフイベントにおける体の悩みを「テクノロジーの力」で解決することを意味しています。

2016年にドイツで開発された月経管理アプリ「Clue」の創業者であるアイダ・ティン氏が市場拡大のために「フェムテック」という言葉を発表したことがキッカケです。

「Clue」は生理日や体温、体調、その日の気分や食欲など、自分が気になる項目を記録し、各個人に合わせた予測をしてくれる高機能なアプリです。

「フェムテック」は医療機関で治療する症状の枠を超えて、生まれつきの見た目や女性器の機能といった人に相談しにくい問題まで、幅広くカバーされているが特徴です。

1.1 FemTec(フェムテック)の主な分野(カテゴリー)

女性特有の体・心の悩みを最新のテクノロジーの力を取り入れた製品やサービスで解決し、健康管理の効率化によって、女性たちがより生きやすい世界を目指しています。

▽「FemTec(フェムテック)」の主な分野(カテゴリー)

①月経関連
・月経の管理
・月経前症候群(PMS)
・月経に伴う皮膚炎

②不妊・妊活・避妊関連
・不妊治療

③妊娠・出産・産後ケア関連
・妊娠・出産・授乳
・産後の女性器の変形、膣の緩み

④更年期関連
・婦人科疾患
・更年期障害
・尿もれ

⑤ウィメンズヘルスケア
・メンタルヘルス
・慢性疾患、ホルモン障害

⑥セクシュアルウェルネス
・生殖機能
・閉経後の性交痛
・陰部痛
・膣の痒み

2. 医療分野でFemTec(フェムテック)が注目されている理由

従来の女性の健康問題は主に男性主導のIT開発メーカーが携わっていたため、女性の健康のためのソリューションに繋がらず、もっとオープンな議論が求められる傾向にありました。

欧米ではSNSの#MeToo運動をキッカケに、男女平等の改善が論議された結果、新しい分野「フェムテック」が女性のQOLの向上に繋がるかもしれないと注目を浴びたのです。

それ以来、2016年から数年の間に「フェムテック」関連の製品・サービスは急速に増え続け、女性特有の健康問題に取り組む分野は「ヘルス IT 市場」として活発化しています。

現在の「フェムテック」は人工知能(AI)やデータ解析などのデジタル技術を活かして、女性の健康問題の管理、症状の診断、治療、セクシャルウェルネスまで幅広く対応しています。

女性たちはスマートフォンアプリやウェアラブル端末などのツールを活用して、月経、妊活、妊産婦の健康などを気軽に管理できるため、関連市場が急速に成長しているのです。

ただし、「フェムテック」はIT企業と美容業界が商品・サービスを提供しているビジネス的な側面が強く、医療分野で本格的に導入されるまでには、様々な課題が残されています。

3. FemTec(フェムテック)を取り入れた医療関連商品・サービスの事例

ここからは、実際に「フェムテック」関連の商品・サービスにはどんなものがあるのか見ていきましょう。

フェムテック製品に明確な定義はありませんが、主に以下の6種類に分類されます。

①消費者製品
②消費者サービス
③消費者アプリ
④医療機器
⑤ソフトウェア
⑥治療薬

<「フェムテック」関連の商品・サービス>

▽月経関連
・吸水性の高いショーツ
・高機能タイプの生理用品
・月経周期を記録するアプリ
・健康管理に役立つデバイス

▽不妊・妊活関連
・妊活アプリ(排卵予測、基礎体温に基づき、生殖能力の状態を判断する)
・不妊治療クリニックへオンライン相談
・凍結保存デバイス

▽妊娠・産後関連
・産婦人科向け電子カルテ
・卵巣年齢チェックツール
・胎児を監視するカメラアプリ
・母乳用搾乳器

▽更年期関連
・尿漏れをケアする製品
・認知行動療法アプリ
・オンライン漢方相談サービス

▽ウェルネス関連(女性特有疾患)
・女性医師にオンライン相談
・オンライン診療サービス
・簡易検査サービス(乳がんや子宮がんなどを早期発見する検査機器)
・遠隔診療

▽セクシャルウェルネス
・性生活のオンライン相談

特に、女性の健康、栄養管理、運動記録の追跡、メンタルヘルスの相談の分野で各社の競争が激しくなっており、数多くの女性専用のツールが市場に登場しています。

米国発の女性健康管理アプリ「ポリー(Pollie)」は子宮内膜症、卵巣嚢腫、原因不明の不妊症、子宮筋腫といった症状を持つ患者へオンライン医療を提供し、対処療法に繋げるサービスを手掛けています。

参照:「Pollie」Personalized care for complex female health issues

イギリスのIT企業「Elvie」は母乳育児をスムーズに導く「SmartRhythm™ 」を開発し、スマートフォンとウェアラブル搾乳器を繋げるという新しいアイデアが注目されています。

参照:「Elvie」Smarter technology for women

イスラエルのフェムテック企業「MobileODT」は医療機関で子宮頸がんのスクリーニング検査と治療を行い、人工知能(AI)を活かして追跡調査の損失を軽減することに成功しました。

参照:「MobileODT」The Smart Mobile Colposcope

4. 国内におけるFemTec(フェムテック)の市場規模

フェムテック市場の歴史はまだ浅く、月経管理アプリから始まりましたが、現在は更年期やがん治療など、女性の健康問題を幅広く対象とする大きな市場に成長しました。

欧米で盛り上がりを見せているフェムテック市場ですが、国内においては2020年の市場は前年比103.9%、2021年は前年比107.7%伸びを見せており、急成長しています。

2022年現在、国内のフェムテック市場規模は642億9,700万円と推計されており、将来は世界の市場とともに年々成長し、拡大していくと予測されます。

国内のフェムテック関連商品・サービスは既に100種類以上を超えており、経産省はこの流れを受けて、就業継続支援や補助金など、フェムテック分野を推進しています。

国内で厚労省に認可されたフェムテック関連商品・サービスはまだありませんが、自治体を通じた「女性向け医療オンライン相談サービス」が広まりつつあります。

医療業界でもフェムテック市場へ参入する企業が続々と増えており、医療従事者は医療ニーズに対応した様々な商品・サービスの市場動向について理解しておく必要があるでしょう。

参照:株式会社矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査」

参照:METI/経済産業省「フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援」

参照:METI/経済産業省 令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に係る補助事業者(執行団体)の公募について

4.1 海外と日本におけるFemTec(フェムテック)の浸透度の違い

ビジネス調査カンパニーによると、2023年の世界のフェムテック市場は373億9,000万ドル(3.8兆)となっており、年間平均成長率 (CAGR) 15.2%まで成長しました。

2025年までに500億ドル(約5.5兆円)まで拡大すると予想されており、国内市場は世界に比べるとかなり遅れている状況です。

日本と海外では市場規模が6倍以上もの差が開いている理由は、「産婦人科領域との関わり方」が関係しています。

欧米では女性が初潮を迎える10代で産婦人科のかかりつけ医を持ち、妊娠・出産・産後、閉経から更年期まで、生涯に渡って産婦人科に相談し、診療を受ける文化が浸透しています。

一方で、日本の場合は月経や不妊など女性特有の悩みを抱えていても産婦人科に診てもらうという発想になりにくく、国内の医療業界はフェムテック市場に慎重な構えです。

参照:Femtech Market Size, Trends and Global Forecast To 2032

5. FemTec(フェムテック)を医療に導入するハードル

国内の医療分野がフェムテックの導入に慎重になっている要因は、原則的にすべての国民が医療を受けることができる「国民皆保険制度」の存在が挙げられます。

フェムテックを取り入れた医療サービスが医療保険適用外の自由診療になると、経済的に余裕がある人だけが治療を受けることができるという格差問題が起こると予測されます。

米国では「国民皆保険」の義務がなく、国民一人ひとりの経済格差によって実際に健康の格差が起こっていますが、逆に医療分野がフェムテック市場に参入しやすい環境にあるのです。

その他にも、患者の診療や薬の処方といった医療行為は正しい知識を持った医師が正しく関わる必要があり、医療分野には多くの規制があるため、ハードルが高い状況にあるといえます。

日本は超少子高齢化社会により、今後すべての医療費を税金で賄うのは難しいと予想され、経産省はインフラを整えるため、職業支援や健康増進に補助金を出す工夫をしています。

フェムテック関連の商品・サービスは当初、20代〜30代の月経や妊活に関連したものがほとんどでしたが、現在は中高年女性の健康維持をサポートする流れに変わってきています。

今後、高齢女性向けのフェムテック関連商品・サービスのニーズが増えるにつれて、医療分野の参入が増えていくかもしれません。

6. 医療関係者が注目するフェムテックに医師はどう関わるべきか?

フェムテック市場は世界中で急速に成長しており、医療分野でも多方面において注目されているとお伝えしてきました。では、今後、医師としてどう関わっていけばよいでしょうか?

女性の人生は、月経・妊娠・出産、更年期といったライフステージごとに様々な健康問題を抱えながら、キャリア形成や子育てなどに取り組んでいる現状があります。

現代は社会で働く女性が増えているとはいえ、女性特有の健康問題によってキャリアや子育てを妥協せざるを得ない場面が多く、今こそ女性の健康問題を深める時期だといえるでしょう。

従来は、女性は声を上げにくかった女性特有の健康問題もフェムテックの認知が広がると共に男性にも理解されるようになり、社会全体の幸福度を向上させることにも繋がるのです。

医療分野では、既にフェムテックによる医療の補完が進み、AI(人工知能技術)、生体データ、5G通信、などの最新技術を取り入れた医療機器の導入が始まっています。

医療従事者は法規制を十分に理解したうえで、この機会に患者さんと社会全体の健康改善のために、どんな医療サービスが提供できるのか考える機会を持ってみてはいかがでしょうか。

7. 医師がFemTec(フェムテック)の商品開発・経営に携わるメリット

今後は、医師が監修した商品や大学の研究機関と企業が共同研究した商品がさらに増えていき、医師が商品開発の段階から経営に携わる場面も増えていくと予想されます。

フェムテック企業は商品・サービスを開発する段階から医師や研究者、専門家と協働して、医師には安全性や有効性を示すデータ検証やエビデンスを提示する役割が求められます。

フェムテック関連商品に医療の専門家としてエビデンスに基づいた意見を述べることは、商品・サービスの安全確保と品質の担保のためにも重要です。

医師一人ひとりがヘルステック分野の新規事業やヘルスケア市場に関する最新の知識を身につけていくことで、患者さんの満足度向上、リピート率の向上にも繋がるでしょう。

7.1 医師がFemTec(フェムテック)の商品開発・経営に参加する際の注意点

フェムテック市場はまだ成長中ですから、医師がフェムテック関連ビジネスに携わる上では医学コメントの信憑性には十分気をつける必要があります。

実際、国内では医療監修のフェムテック関連商品が増えていますが、エビデンスに基づいていない、医学的に効果が期待できない商品・サービスが存在するのも事実です。

医療監修の商品の場合、医師としては医学的に正しいエビデンスを明言できないため、本来は効果についてコメントは避けるべきですが、市場を意識して推奨するケースも見られます。

その場合は、医師の信頼性が疑われる要因となる可能性があることに、十分に注意をしなければなりません。

8. 医療分野でのFemTec(フェムテック)の将来性は?

医療分野でのフェムテックは新しい領域ですが、女性の健康問題を解決するヘルスケア、医療関連商品・サービスの需要は高く、今後の大きな成長が期待されます。

女性に何かしらの症状があった場合は、医療機関で診断を受けて、処方箋の処置を受けることが必要となります。

それ以前の悩みや不安についてはフェムテック製品やサービスでサポートが可能ではないかと考えられてきています。

医師としては、医学的根拠のある情報を分かりやすく伝え、症例によっては自己判断してもよいケースと医療が必要なケースをしっかり見極める判断力も求められます。

テクノロジーを活用した素晴らしい商品・サービスが増えて、女性のQOL向上や生活を便利にする快適さを実現できれば理想的といえるのではないでしょうか。

まとめ

従来、女性の健康問題や生殖能力についてはタブー視される傾向にあり、公の場であまり議論されてきませんでしたが、「フェムテック」がその流れを変えたキッカケとなりました。

世界中で女性向けデジタルヘルス関連商品は続々と増えており、今後、国内の医療分野でも成長すると見込まれています。

医師としては「女性がより社会で生きやすい環境を目指す」という目的を忘れずに、早い段階から市場の最新動向を掴み、フェムテックに向き合っていくことが大切だと言えるでしょう。