有床診療所とは?病院との違いや求められる理由・課題・解決策を解説

病院 有床診療所

有床診療所は、地域医療の根幹を担う重要な医療施設です。今後さらに高齢者人口の増加が予測される中、その役割はますます重要になることが予想されています。
しかし、有床診療所の数は年々減少しており、国や日本医師会が増大する需要に確実に対応するための提供体制を整えるべく尽力しています。

本記事では、有床診療所の定義や現状、課題と解決策について詳しく解説します。

1.有床診療所とは?

有床診療所とは、ベッドが19床以下で、通院治療および必要に応じて入院治療を行える小規模な医療施設のことです。有床診療所が担う役割は診療所毎に多様ですが、主に地域住民にとって身近な外来機能と、慢性疾患の治療や専門性が高い治療を行うための入院機能をあわせ持ちます。

有床診療所と病院・無床診療所との違いや病床機能について詳しく見ていきましょう。

1-1.病院・無床診療所との違い

有床診療所と病院、無床診療所は、病床の有無と数によって明確に分けられます。また、各々の担う役割も異なってきます。

病院は20床以上のベッドを有する大規模な医療施設で、専門的かつ高度な医療を提供します。重症患者の治療、複雑な手術、生命に関わる疾患や外傷の緊急対応などを行います。例えば、心臓手術やがん治療など高度な医療が必要な場合、病院に入院することが一般的です。

一方、無床診療所は入院設備を持たない医療施設です。外来患者に対して一般的な診察や軽症例の治療などを行い、入院治療には対応していません。例えば、風邪やインフルエンザの診察、簡単な外来手術(皮膚の切開・縫合など)を行います。

参照:厚生労働省医療施設の分類

1-2.有床診療所の5つの病床機能

有床診療所には、5つの病床機能があります。各機能について詳しく見ていきましょう。

病院からの早期退院患者の在宅・介護施設への受け渡しとしての機能

病院には国が定めた医療制度があり、病院の機能を維持し、限りあるベッドを適切に運用していかなければなりません。そのため、可能な範囲で早期退院を促していく必要があり、患者は2週間での退院が推奨されています。

しかし、早期退院後の療養環境が整っていない場合や、在宅での療養や介護が困難なケースが少なくありません。例えば、一人暮らしの高齢者や親族が近くにいない患者、リハビリ中で通院が難しい患者などが該当します。

こうした場合、有床診療所が主な受け入れ先となります。有床診療所では、短期間の入院治療やリハビリテーションを行い、患者が自宅や介護施設に戻る準備を整えることができます。

専門医療を担って病院の役割を補完する機能

有床診療所は、専門的な医療を提供することで、地域の病院の役割の補完を行う立場でもあります。病院からの受け入れのみの機能を果たしているわけではなく、大学病院にも引けを取らない専門医療を提供している有床診療所も少なくありません。例えば、分娩の場合は全国の46.4%を有床診療所で実施しています。

その他、外科、整形外科、耳鼻科、眼科などの診療科で高度な専門医療を提供し、患者が必要なケアを地域で受けられるようにすることで、地域医療のニーズに応えています。

緊急時に対応する医療機能

有床診療所は24時間体制で運営されており、いつでも患者を受け入れることが可能です。夜間や休日の急病や怪我で駆け込みがあったとしても、迅速に対応できます。

また、入院が必要なケースでは、病床に余裕がある限りは他の病院を紹介する必要がなく、そのまま入院治療を行えます。

在宅医療の拠点としての機能

有床診療所は、病状が急変した場合すみやかに医療が提供でき、ベッドの確保が可能です。特に地方やへき地では、大規模な病院が遠方にある場合、緊急時にすぐにアクセスできる医療施設が必要とされています。

このように、有床診療所が地域の緊急医療の中心として機能しています。

終末期医療を担う機能

終末期医療は緩和ケアとは異なり、残された生活の質を維持・向上させることが目的とされています。そのため、延命治療を行わないと決めたタイミングから実施される場合が多いです。

有床診療所は、日々変化する終末期の身体的ケアを入院医療で支えることで、患者が安らかに最期を迎えられるようサポートするとともに、家族が余裕を持って寄り添うことができる環境を整えています。

参照:社団法人日本産婦人科医会「産婦人科有床診療所の方向性について」
参照:厚生労働省「有床診療所の病床機能について」

2.有床診療所の役割

前述のとおり有床診療所に求められる機能は様々ありましたが、主に内科・外科では在宅医療の拠点となり、医療施設への受け渡しや終末医療など地域医療を担う割合が多いため、医療と介護を統合した包括的なケアを提供する役割を持っています。

一方、産婦人科や眼科、耳鼻科などでは、特定の疾患や医療ニーズに特化した専門的な医療としての役割が求められています。
有床診療所の現状と課題

そこで厚生労働省では、有床診療所の役割を分析し、地域包括ケアモデル(医療・介護併用モデル)と専門医療提供モデルの2つに大別しました。それぞれの違いは以下のとおりです。

地域包括ケアモデル

専門医療提供モデル

概要

主に地域医療を担う有床診療所

主に専門医療を担う有床診療所

提供するサービス

医療+介護

専門的な医療

利用者の年齢

相対的に高い

相対的に若い

主な入院診療報酬

入院料等

手術料

病床稼働率

高い

必ずしも高くはない

代表的な診療科

内科・外科

眼科・産科・耳鼻科

参考:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第 508 回) 議事次第」

地域包括ケアモデルの有床診療所では、入院料が主な入院診療報酬となるため、提供するサービスに介護を加えることで病床稼働率を上げ、安定的した収益確保を行うことが必要とされています。また、専門医療提供モデルでは、入院診療報酬を占める割合は、手術費が高くなっています。そのため、専門的な医療のニーズが高い地域で、少人数の精鋭されたスタッフで専門医療を効率的に行うことが重要です。

3.有床診療所の現状

包括的な医療を提供するために欠かすことのできない有床診療所ですが、現状での施設数はどのようになっているのでしょうか。ここでは、有床診療所のニーズも含め解説していきます。

3-1.有床診療所の数は年々減少している

有床診療所は、日本の地域医療において重要な役割を果たしてきました。しかし、近年その数は著しく減少しています。1975 年から1980年頃のピーク時には、約3万施設、28万床を有していた有床診療所ですが、1999年から2016年の17年間で半分以下に減少しました。そして、2024年1月時点では、約5,600施設、約7万5000床にまで激減しています。

有床診療所は、日本の医療の最前線で地域医療を支える重要な医療機関です。しかし、医療関係者の間でも「有床診療所」という用語の認知度が低くなってきており、その役割や機能が十分に理解されていない現状があります。特に、「入院ベッドを備えた診療所」としての重要性を再認識することが求められています。

参照:日本医師会「令和4・5年度 有床診療所委員会 最終答申」
参照:厚生労働省「医療施設動態調査(令和6年2月末概数)」
参照:厚生労働省「4.有床診療所の現状と課題」

3-2.有床診療所の減少に対しニーズは高まっている

地方都市では人口減少が顕著である一方、東京都の人口は2030年頃まで増加すると予測されています。人口増加に伴い、都市部では医療サービスの需要が高まり、有床診療所の役割が一層重要になります。

また、65歳以上の高齢世帯が増加しています。特に65歳以上の単独世帯は、2020年の92万世帯から2050年には126万世帯まで増加し、2065年には115万世帯と大幅に増える見込みです。

さらに、75歳以上の後期高齢者単独世帯も増加し、2020年の52万世帯から2055年には77万世帯に達し、単独世帯の20.2%を占めるとされています。

65歳以上の単独世帯と世帯主年齢が65歳以上の夫婦のみの世帯を合わせた世帯数は、2020年の150万世帯から2065年には179万世帯に増加し、全世帯(668万世帯)の約3割を占める見込みです。このように高齢者の一人暮らしや二人暮らしが増えることで、外来診療だけでは対応しきれない医療ニーズが急増することが予想されます。

高齢者の増加に伴い、認知症を有する独居高齢者も増加するでしょう。このような状況では、日常的な医療ニーズだけでなく、急な体調変化や緊急時の対応が求められます。外来主体の診療では対応が難しくなるため、有床診療所の重要性が一層高まります。

出典:日本医師会「令和4・5年度 有床診療所委員会 最終答申

4.有床診療所の課題と解決策

今後の医療に求められているのは、救急医療や専門医療だけではありません。包括的にどのような状況や治療段階の患者に対しても医療が提供できることが重要です。また、その後も治療を継続することができ、いつでも受けることができる総合的な医療を作り上げることが必要とされています。

しかし、有床診療所のニーズが高まっていることに対し、有床診療所の数は年々減少している現状があります。

ここでは、有床診療所の課題を明確にし、総合的な医療を目指すための解決策を詳しくみていきましょう。

4-1.有床診療所の経営改善

有床診療所の数が減少し続けている大きな理由は、その経営の困難さにあります。診療報酬の低さや運営コストの高さが経営を圧迫しており、多くの施設が持続可能な運営を続けるのが難しくなっています。特に地方やへき地において顕著であり、地域医療の空洞化を引き起こしています。

また、看護職員、特に夜勤看護職員の確保が困難な状態が続いていることも、減少要因の1つです。看護職員を増やす方法の1つとして、給与水準を引き上げることが挙げられますが、現在の入院基本料では十分な給与を提供できないという課題があります。

また、欠員が発生した場合に依頼する紹介事業所に関しても問題があります。政府は悪質な事業所を排除し、適切かつ良心的な運営を行う事業所の指導を強化するために、日本医師会の協力のもとで「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」を創設しました。

この制度により、信頼できる人材紹介事業所を利用することで、有床診療所の人材確保が改善されることが期待されています。

出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和5年1月末概数)
出典:日本医師会「令和4・5年度 有床診療所委員会 最終答申

4-2. 地域のニーズへの適切な対応

有床診療所が包括的な医療を提供するための体制が必要とされており、介護医療ニーズへの対応を目的に「地域包括ケア病床」が創設されました。地域包括ケア病床は、入院治療後に病状が安定した患者に対して、リハビリや退院支援などを行い、効率的かつ質の高い医療を提供するための病床です。国の厳しい基準を満たして許可を受けたものであり、患者の在宅復帰を支援することを目的としています。地域包括ケア病床の創設により、介護医療ニーズへの対応は改善されましたが、現場レベルではまだ十分ではありません。

療養病床の廃止に伴い、介護医療の現場は依然として厳しい状況です。具体的には、病院から在宅療養への転換が進んでおらず、介護力の小さい家庭では在宅療養や短期入所の組み合わせが多く利用されていますが、医療ニーズの高い療養者にとっては十分な対応が難しいことが多いのが現状です。

地域のニーズに応じた多機能な有床診療所を創設し、包括的な医療を提供する体制を整える必要があります。それにより、慢性疾患を抱える高齢者の急な体調変化に対応することも可能になります。

4-3. アウトリーチ機能の充実

地域医療の重要性が高まる中、アウトリーチ機能が不足している現状があります。アウトリーチ機能とは、医師が患者の元に出向き、医療サービスを提供することです。

高齢者や移動が困難な患者に対して定期的に訪問診療や健康チェックを行うことで、患者の健康状態を維持し、早期発見・早期治療を可能にします。訪問診療や健康教育プログラム、移動診療車の導入などを通じて、地域全体にアクセスしやすい医療を提供することが求められます。

4-4.自宅と施設の充実

現代社会では、家族介護が困難な環境が増えつつあり、生活の場として「施設」の充実が求められています。特に高齢者や慢性疾患患者向けの適切な医療・介護施設の不足が大きな課題となっています。

地域密着型介護施設の増設、在宅介護支援サービスの強化、短期入所施設の利用促進などを通じて、自宅と施設を組み合わせた継続的なケアを提供することで、患者と家族の負担を軽減し、安心して生活できる環境を整えることが求められます。

4-5.医療と介護・福祉の連携

患者や家族のニーズに合わせて医療・介護・福祉の水平連携を強化する必要があります。医療、介護、福祉の各分野は、それぞれ異なる専門知識とスキルを持っています。

これらの分野が水平連携することで、患者や家族に対するケアが一貫性を持ち、より効果的になります。例えば、医療面での治療と介護面での日常生活支援が統合されることで、患者の生活の質が向上し、家族の負担も軽減されます。

4-6.他の診療所との連携

現代の医療環境において、有床診療所が地域に密着した医療を提供するためには、単に病院との連携だけでなく、他の診療所との連携も不可欠です。

無床診療所に通っていた患者が入院を必要とする場合、有床診療所で受け入れることが求められます。さらに、別の診療所であるものの同一の医師から診察を受けることができれば、治療の一貫性が保たれます。こうしたシステムを実現するためには、開業医同士が連携し、地域全体で患者を診るという姿勢が必要です。また、自院のベッドを地域のベッドと考え、共有・活用する視点も求められます。

4-7.認知度の向上

有床診療所は、日本の地域医療において重要な役割を果たしていますが、年々その数が減少しており、認知度も低下しつつあります。特に、周辺の病院や介護施設からの認知度が低く、有床診療所の存在を意識していない、あるいは「有床診療所」という施設類型自体を知らない病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)やケアマネジャーも少なくありません。

この状況を改善するためには、専門職のみならず地域住民にも有床診療所の役割と利便性を広く知ってもらうことが必要です。いざというときに入院が可能な医療機関として、多くの人々に知ってもらうことで、地域医療の中で有床診療所が果たす役割を強化できます。

参照:東京都立精神保健福祉センター「アウトリーチ支援事業
参照:日本医師会「令和4・5年度 有床診療所委員会 最終答申

5.まとめ

有床診療所は今後の日本においてますます重要性が高まることから、医療機関や介護施設との連携や認知度アップのための広報活動などを積極的に行うことが求められています。

本記事では、有床診療所における役割や重要性、課題・解決策などについて解説しました。

有床診療所は地域医療の要になることや、地方の医師不足を鑑みると、地方の有床診療所で働くことには大きなやりがいを感じられる可能性があります。

自身にとって最適なキャリアプランを考える際に、今回解説した有床診療所の内容を参考にしてください。