オンライン診療は、新型コロナウイルスの流行を機に活用が広がり、医療業界に新たな変化をもたらしました。
ただ、患者と直接対面できない環境での正確な診断、コミュニケーションにおける制約、技術的な課題など、医師として悩みや不安を感じることが多いかもしれません。
このような課題に対して、どのように対応すべきでしょうか、また、実務において効果的なオンライン診療を提供するにはどのように進めるべきでしょうか?
そこでこの記事では、医師の視点からオンライン診療の導入における注意点と、効果的な運用方法を紹介します。
診療報酬改定による変化や技術的な側面、患者とのコミュニケーションのコツまで、オンライン診療を取り巻く重要なポイントをまとめていますので、ご一読ください。
目次
1.オンライン診療の現状
現代の医療現場で重要なフェーズを見せるオンライン診療の現状を、普及の背景にスポットを当てて紹介します。
1.1. コロナ禍をきっかけに本格的なオンライン診療時代へ
2020年4月、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するため、厚生労働省は一時的な緊急措置としてオンラインでの遠隔診療を解禁する通達を発出しました。
オンライン診療の急速な普及を契機に、オンライン診療を導入する医療機関の数は大幅に増加し、従来の診療体系に新たな変化をもたらしています。
オンライン診療とは、患者が病院やクリニックに直接通院することなく、自宅や外出先から医師の診察や診断、処方などを受けられる医療形態を指します。
スマートフォンやパソコンを利用して予約や受付を行い、クレジットカード決済を利用すれば、すべての受診プロセスがオンラインのみで可能です。
また、処方箋は自宅に郵送され、近所の薬局で薬を受け取ることができます。
医療機関によっては病院から直接薬局へ処方箋が送信され、必要に応じて薬が自宅に宅配されるケースもあり、柔軟なサービスが魅力です。
患者にとって利便性が向上することに加え、特にパンデミック下での通院による感染リスクを減少させる有効な手段として注目されています。
1.2. オンライン診療の普及状況
2020年4月時点で、電話やオンライン診療に対応する医療機関は10,812機関(普及率9.1%)から、2022年12月には18,273機関(普及率16.1%)にまで増加しています。
月ごとの普及率の推移は増えており、医療機関がコロナ禍の特例を含めたオンライン診療に登録している状況です。
ただし、コロナ禍による一時的な緊急措置に応じて電話診療のみのケースも含まれているため、オンライン診療システムだけの普及率は今後の厚生労働省の発表が待たれます。
参照:「令和4年10月~12月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」|厚生労働省
1.3. オンライン医療のニーズ
LINEリサーチによると、オンライン診療の認知率は全体の約86%に上ります。
しかし、実際にオンライン診療を利用したことがある人は全体のわずか4%程度に過ぎません。
今後の利用意向については、調査結果によれば、オンライン診療を「ぜひ利用してみたい」と思う人や「機会があれば利用してみたい」と考えている人の合計は全体の50%に達しています。
また、自宅に居ながら薬剤師からの服薬指導を受けることができるサービスでは、花粉症・鼻炎、風邪・新型コロナ・インフルエンザ、皮膚・ニキビなどの薬のニーズが高いことも明らかになっています。
このように、オンライン診療に対する認知度は高まっているものの、実際の利用経験はまだ少ないのが現状です。
ただし、今後の利用意向に関しては、肯定的な傾向が見られているため、欲しい薬剤の情報などを元にオンライン診療に求められるニーズを満たしていくことが必要です。
出典:「流行体感から読み解くサービス未来予測 流行予想シリーズ ~オンライン診療編 vol.2~」|LINEリサーチ
参照:高まる需要!患者ニーズに応えるオンライン診療│日本調剤
2.診療報酬改定によるオンライン診療の変化
診療報酬改定により、オンライン診療の診療点数が上がっていることも、オンライン診療普及に大きく影響を与えたと考えられます。
2.1. 今までのオンライン診療報酬との比較
オンライン診療の報酬体系は、過去数年間で大きく変化しています。
従来のオンライン診療は、診療報酬の点数が比較的低く設定されており、対面診療に比べて収益性が低いという課題がありました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2022年度(令和4年度)の診療報酬改定ではオンライン診療の点数が引き上げられるなど、診療報酬体系が大きく見直されました。
まず、2020年度の改定では、オンライン診療の初診料に関して時限的特例措置が実施され、再診料については71点(オンライン診療料)と73点(電話等再診)が設定されました。
また、医学管理料もオンライン診療で100点、電話等再診時で147点とされていました。
一方、2022年度の改定ではオンライン初診料が対面診療288点の87%に当たる251点まで引き上げられました。
再診料も対面診療と同等の73点に統一されています。医学管理料に関しても対面診療(87点〜1,681点)の約87%に設定されました。
加えて、その他の加算に関する規定も見直されています。
2020年度は200床未満の保険医療機関に限定されていた加算が、2022年度からは一部の200床以上の保険医療機関も対象となり、より広範な医療機関が利用できるようになりました。
このように、診療報酬の改定により、オンライン診療が医療機関の収益性を高める魅力的な方法の一つとなっています。
参照:「令和4年度診療報酬改定の概要. 個別改定事項Ⅱ」|厚生労働省
3. オンライン診療での注意点や課題
近年増加傾向にあるオンライン診療ですが、画面越しで診療を行うため、対面診療とは異なる点が多く存在します。
ここではオンライン診療での注意すべき点や課題を見ていきましょう。
3.1. 検査や処置ができない
オンライン診療の最大のデメリットは、物理的な検査や処置ができないことです。
例えば、尿検査、レントゲン検査、ケガの処置など、対面診療では一般的な検査や処置は、オンライン上では実施できません。
そのため、診断の精度や治療の範囲に影響を及ぼす恐れがあります。
3.2. 診察方法が限定される
オンライン診療では、診察方法にも大きな制約があります。
主に問診や視診に頼らざるを得ないため、触診などの診察は不可能です。
画面を通じてのコミュニケーションである以上、患者の心身状態を思うように把握しづらい課題を抱えています。
3.3.診察に適していない疾患がある
全ての疾患がオンライン診療に適しているわけではありません。
厚生労働省の「医師が医学的に可能と判断した範囲の適切性について」では、電話診療は基礎疾患の把握のある患者の診療の割合が多い傾向にありました。
また、オンライン診療では、基礎疾患の把握ありなしに関わらず診察を行っていました。
ただ、診察を行っている症候に関しては、上気道炎や発熱が多く、軽度の風邪症状や花粉症などを対応しているケースが大半です。
一方で、対面診療による精密検査や治療が必要な嘔吐下痢や重い頭痛や胸痛、呼吸困難のほか、外傷や出血など重篤な症状や外科的処置を必要とする疾患はオンライン診療には向いていません。
参照:「オンライン診療に適していない症状リスト」|厚生労働省
3.4.初診時の薬剤処方は特に注意が必要
初診時のオンライン診療では、薬剤の処方に特別な注意が必要です。
特に、多剤処方や薬の併用や患者の状態によっては副作用の恐れが高い薬剤の処方は慎重に行う必要があります。
日本医学会連合の「オンライン診療の初診に関する提言」によると、具体例として抗ウイルス薬、副腎ステロイド薬、抗不整脈薬や呼吸中枢刺激薬、副腎ステロイドの点眼薬や点鼻薬などが挙げられています。
3.5.オンライン診療サービスの導入・維持コストがかかる
オンライン診療サービスの導入には、オンライン診療アプリ、予約システム、クレジットカード決済システムなどの導入・維持コストがかかります。
特に小規模な医療機関にとっては負担となりやすいため、初期費用や月額利用料と診療報酬を比較しコストパフォーマンスを意識した導入検討が重要です。
参照:「令和3年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」|厚生労働省
参照:「オンライン診療の初診に関する提言(2022年11月24日版)」|日本医学会連合
4.オンライン診療を導入する方法
医療機関がオンライン診療を始める場合、システム導入までの流れは下記の通りです。
- オンライン診療導入システムの選定
- 実施環境の準備
- オンライン診療に関する研修受講
- 診療計画書と患者の合意文書の雛形作成
- 施設基準を行政へ届け出
下記でひとつずつ紹介します。
4.1. オンライン診療導入システムの選定
オンライン診療システム導入に当たっては、予算・費用の確保と適切なシステム選びが重要です。
診療所の場合は院長の判断によりますが、病院では事前に院内の経営会議において承認を受け、詳細な予算計画を立案の上、費用対効果を検証する必要があります。
また、選定するシステムは、自院の診療上必要な機能を備えており、情報セキュリティ対策が施されていることが求められます。
システム導入にはまとまったコストの発生が想定されますが、固定費用がなく診療実績に応じて支払い可能なシステムもあるため、様々なモデルを比較してシステムを検討することが重要です。
4.2. 実施環境の準備
オンライン診療の実施環境を整備するには、システムの推奨環境に応じたネットワーク設備とハードウェアの導入が必要です。
導入にあたり、医師、看護師、事務職員などが業務で使用しているコンピューターや通信機器がシステムの推奨環境に適応していなければ買い替えを検討したり、別途オンライン診療用のコンピューターを導入したりなど、実施環境の確認と準備が必要です。
4.3. オンライン診療の研修を受講する
オンライン診療を実施するためには、医師専用の研修を受講することが義務付けられています。
受講は厚生労働省が運営するホームページ「オンライン診療研修実施概要」から申し込めます。
研修の申し込みには、医籍登録番号と登録日付が必要です。
申し込みが完了すると、メールでログイン情報が送信され、指定されたWebサイトから研修を受講できます。
4.4. 診療計画書と患者の同意書類の雛形作成
オンライン診療では医師と患者間の明示的な合意が必要です。
医師は患者に対してオンライン診療のメリットやリスクを説明し、患者がオンライン診療を希望する旨を明確に確認する必要があるからです。
そのため、オンライン診療に先立ち医師は事前に用意した診療計画を提示し、同意書に署名を求めることが重要です。
4.5. 施設基準を行政へ届け出
オンライン診療を実施する際は、施設基準に準じた体制が整っていることが推奨されています。
現状で届けを出すことは強制されていませんが、地方厚生局へ提出する施設基準に関する届け出の有無により、オンライン診療における初診料の点数が異なっているので、適切に提出できるよう準備しましょう。
オンライン診療料を算定するためには、地方厚生局への施設基準に関する届け出が必要です。具体的には、以下の2種類の書類が必要となります。
- 別添7「基本診療料の施設基準等に係る届出書」
- 様式1「情報通信機器を用いた診療に係る届出書添付書類」
書類の雛形は各地域の厚生局のWebサイトでダウンロードできます。
参照:「遠隔医療モデル参考書」|総務省
参照:オンライン診療研修実施概要|厚生労働省
参照:基本診療料の届出一覧(令和4年度診療報酬改定)|厚生労働省関東信越厚生局
5. オンライン診療でよくある質問
オンライン診療でよくある質問を下記で5つ紹介します。
5.1. オンライン診療は自由診療が中心ですか?
オンライン診療は、保険適用の範囲内で行われることが一般的ですが、医療機関の状況や診療方針によっては自由診療にも適用されます。
5.2. 患者合意を「明示的」に確認するとはどういう意味ですか?
オンライン診療の利点や発生しうる不利益を記載した文書を使って医師が説明した内容を患者が理解し、オンライン診療を希望する旨の署名をもらうことです。
5.3. オンライン診療における初診の定義や注意点は?
初診とは、主に下記の3つのことを指します。
- その病院で初めて診察を受けた場合
- 以前にその病院で診察を受け、病気が治癒した後に、新たな症状などにより再来した場合
※ただし、既に診察を受けた疾患から予測される症状だった場合は除く - 通院が必要であったが、任意で治療を終了・中止し、3か月以上経過した後に再来した場合
オンライン診療で初診を行う場合は原則として、患者と信頼関係を築いているかかりつけの医師が行います。
例外として、医学的情報を十分に把握できる患者において、症状を確認し医師が診療可能と判断した場合はかかりつけではない患者へのオンライン診療が実施できます。ただし、初診からオンライン診療を行う場合は必ず診療前相談を行う必要があります。
参照:「資料1 初診からのオンライン診療の取扱いについて」|厚生労働省
5.4. 文字のみのチャットで診療できますか?
チャットなど文字のみによる診療は認められていません。
オンライン診療は、テレビ電話や音声電話といった「リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段」を採用し、対面診療に代わるツールを利用する必要があります。
5.5. 遠隔診療とオンライン診療の違いは何ですか?
オンライン診療と同じように使われることが多い遠隔診療ですが、より広い概念を指します。
オンライン診療はインターネットを使った診療範囲である一方で、遠隔診療はインターネットをはじめ電話やその他の通信ツールを利用した診療も含む場合が一般的です。
参照:「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関する Q&A」|厚生労働省
参照:オンライン診療入門 ~導入の手引き~ 【第 1 版】|日本医師会
6.オンライン診療の未来と医師のキャリア展望
テクノロジーの進歩と医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、オンライン診療は医療提供の新たなスタイルとして位置付けられています。特に、山間部や離島など遠隔地にいる患者の診療がしやすくなり、地理的な制約を超えた診療により患者集客にも貢献します。
また、オンライン診療はチーム医療との連携においても重要な役割を果たします。
オンライン診療の画面内に医師以外の看護師や他医療従事者が同時に入ることができたり、治療に関して主治医が遠隔地に住んでいる他領域の専門家などから助言を得たりなど、チーム医療連携をすることで最適な医療計画を提供できます。
このようなチーム医療連携を行うことが可能なプラットファームも構築されつつあります。
今後、患者とのコミュニケーションに大きな変化が生まれると共に、医師のキャリアパスはより多様化するでしょう。情報技術を駆使した診療や研究への参加など、新たな専門性を追求する道が開かれます。具体的には、オンライン診療を通じての慢性疾患管理や、後進医師への遠隔研修の提供、データ分析を生かした診断支援システムの開発などが挙げられます。
このように、オンライン診療の発展は医師のキャリアに新たな視点をもたらし、医療の質の向上に寄与するとともに医師自身の働き方やキャリア展望にも大きな変化をもたらしています。
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7. まとめ
コロナ禍を契機に普及したオンライン診療は、感染対策や医療機関の収益性を高めるためにもより一段と役割が大きくなると予測されます。
そして、医師にとってもオンライン診療のスキルは今後不可欠となり、キャリアの多様化に大きく影響するでしょう。
オンライン診療の可能性を最大限活用し、将来のキャリア形成においてより良い診療スキルの拡充が求められます。