医師の労働環境については、昔から長時間労働が常態化しているなど、過重労働について問題視されてきました。過重労働の結果、医師のメンタルヘルス面、研修医の自死などが社会問題となり、2024年4月からいよいよ医師の働き方改革が施行されます。
患者の病気や怪我を治療し、健康へと導く責務を担う医師ですが、仕事とは裏腹に日々の業務に忙殺され、自分自身の健康管理にまで気を配ることが難しいという声も上がっています。
そこで本記事では、医師たちの健康管理や意識について様々な角度から分析し、解説します。
長く健康的に働くために、ご自身の健康確保や生活改善など日頃の生活について向き合い、今後の働き方や健康について改めて考えてみましょう。
目次
1.自身の健康状態や病気を不安視している医師が多い
医師は日々の長時間労働に追われ、その結果として自身の健康に対する不安が広がっています。
日経メディカルの記事によると1000名に調査した結果、医師が「最も不安に思うライフイベント」の第1位は「自分の病気」であるという結果が出ています。
また、日本医師会が調査した勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書でも、「他の医師への健康相談あり」と回答をした医師の割合は6割近くに上りました。
この結果からは、自身の健康に何らかの不安を抱えつつも、診察や治療に費やす時間が取れず、応急処置として他の医師に相談していることが推測されます。
さらにメンタル面でも問題を抱えている医師が一定数います。
「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」「抑うつ症状尺度QIDS中等度以上」「抑うつ症状尺度QIDS重度以上」と回答した医師も一定数おり、身体面のみならず精神面でも問題を抱えている様子がうかがえる結果となっています。同時に「半年以内に不当なクレームを経験」と回答をした医師の割合も調査を重ねるごとに増加傾向にあり、強いストレスにさらされている現状を示唆しています。
患者の健康を治療する中で、医師自身も健康への不安を抱えながら自己ケアができていない現状があります。
参照:日経メディカル「医師4288人に聞いた「最も不安に思うライフイベントは?」」
参照:日本医師会 医師の働き方検討委員会「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」(令和4年6月)
2.医師の健康管理の実態
医師は、健康管理をどのように行っているのでしょうか。
2-1. 健康診断や人間ドッグを受けていない医師が一定数存在
医師に限らず常時雇用されている労働者は、労働安全衛生法に基づいて、毎年健康診断を受けることが義務付けられています。勤務医の場合は、職場の総務部門から毎年健康診断の案内を受けているのではないでしょうか。
また、開業医で国民健康保険の場合も居住している市町村から健康診断の案内が郵送で届いているでしょう。
勤務医の場合は、健康診断が未受診の従業員を放置することは法律に違反するため、受診するように何度も促され、未受診の状態はある程度回避されます。
しかし、開業医など雇用者ではない場合は健康診断の受診は自己責任になります。そのため、医師だけではなく他の職種同様、仕事の多忙さを理由に受診していない方の割合が多くなる傾向があります。
少し前の調査になりますが、医師・医療従事者向け情報サービスサイトを運営する株式会社ケアネットが2013年に行った“自身の健康管理”に対する意識調査では、下記のような結果となりました。
【結果概要】
◆約7割が健康診断・人間ドックを『必ず受ける』、一方で『毎回受けない』医師が1割以上存在
全体の68.7%が『毎回必ず受けている』と回答。『受けないことがある』医師は19.3%、『毎回受けない』医師は12.0%存在。世代間で大きな差は見られなかったものの、『毎回受けない』とした人の比率は年代が上がると共に漸増し、30代以下で10.6%のところ、60代以上では13.8%となった。
健康診断を受けない理由は、「時間がない」という忙しくて受けられない人と、「受けないと決めている」という元から受けるつもりのない人がいることもわかりました。
参照:株式会社ケアネット「“自身の健康管理”に対する意識調査」
2-2.食事内容に気を付けている医師も多数
日々の食事内容に気を付けている医師も多くおられます。「日経BPメディカル研究所」の調査では、65.8%の医師が食事内容に気を使っていました。
勤務の関係上、規則正しい時間に食事がとりにくいことや、適切な時間をかけて食べる余裕がないことが多い中、せめて食べるものに気を使いたいと考えている医師が多いことが伺えます。
特に、健康のために摂取している食品は、豆腐や青魚、納豆、ヨーグルトなど大豆製品や発酵食品が多いことが分かります。注目している食品においても、大豆製品と発酵食品が入っており、他に日本茶にも注目していることが分かりました。
参照:日経メディカル「医師が健康のために摂取している食品は?」
2-3.運動習慣がある医師は一定数存在
忙しい中でも、週に1回以上運動習慣がある医師は約6割います。運動内容はウォーキング、ランニング、ストレッチと通勤時間や隙間時間に取り入れられるものを選択する割合が多く見られました。
他には、ゴルフを選択した人が7.2%、ランク外では水泳やテニスといった回答もありました。
参照:日経メディカル「医師2561人に聞きました 約2割の医師が「ほぼ毎日」運動している」
3.日常生活で不摂生となりやすいポイント
日常生活の中で、医師が不摂生になりやすいポイントについて解説します。
3-1. 食事
勤務に追われて決まった時間に食事を摂ること自体が難しいという方が多いのが現状です。特に、勤務中の食事はスピード勝負となり、いかに短時間で食べ終えるかに重点を置き、早食いになっているという方も多いのではないでしょうか。
また、業務の状況によっては食事ができず、抜いてしまう場合もあります。長時間空腹が続くと、次に食事をした際に過食になりやすく、脂肪等の蓄積が進む恐れもあります。
3-2. 睡眠不足
当直やオンコールによって、規則正しい睡眠がとりにくく、睡眠時間自体も短くなる傾向にあります。
実際に当直時の平均仮眠時間は、全体の43.9%が4時間未満でした。
勤務状況によっては、仮眠自体が取れないこともあり、睡眠不足が重なることで集中力や生産性の低下、場合によっては重大なミスにつながるインシデントが起こりやすくなります。
3-3. 過重労働、激務
診療科により異なりますが、残業時間や当直・オンコールによって過重労働になりやすい医師も一定数います。「直近1ヶ月間の自宅待機、on-call 日数【全体・性別】」調査によると、直近1ヶ月間の自宅待機、オンコールがなかったと回答した医師が全体の55.9%を占めた反面、月の半数以上という回答も15%程度と一定数いることが分かります。
また、こうした過重労働は睡眠不足などを生み、心身に重大な影響を及ぼします。医師自身が患者やその家族から受けるクレームなどによってメンタルヘルスの問題を抱える割合も上昇しており、医療の質に影響がある可能性もあります。
参照:日本医師会 医師の働き方検討委員会「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」(令和4年6月)・
参照:東洋経済「週60時間勤務は当然?「医者の不養生」の実態」
4.医師の働き方改革によって変わると考えられる点
2019年4月に一般労働者には既に導入されていますが、勤務医にも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されます。また、勤務医の健康を確保するためのルールが導入されますが、この導入によって、医師の働き方にどのような影響があると考えられるのでしょうか。
4₋1. 残業時間の抑制
まず、残業時間を抑制するためのルールが導入されます。主な内容は次の通りです。
・特別条項つきの36協定を締結した場合は、月100時間・年間960時間まで認められます。
・ただし、都道府県の指定を受けた特定労務管理対象機関に限り、時間外労働の上限が年間1860時間・月100時間未満とする設計になる。
このルール導入によって、一定程度の時間外労働が抑制されると期待されています。ただし、すぐに時間外労働が抑制されるかは不透明であること、残業時間が一般労働者より多い設計になっているため、効果は未知数だと考えられます。
また、1か月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる場合は、産業医などによる面接指導を行う必要があります。
4₋2.勤務間インターバルの導入
医師が十分な睡眠を取らずに連続した勤務を続け、労働時間が長くなると、疲労蓄積によって注意力の低下などによる医療ミスのリスクや、医師自身の健康に悪影響が及びます。
医師が確実に休息を取ることができるようにするため、退勤してから翌日の出勤までの時間を原則9時間空けるルール(勤務間インターバル制度)が設けられました。
このように医師の働き方改革によるルールが導入されることで、多忙が理由で難しかった自身の健康管理にも目を向けることが可能になるのではないでしょうか。
5.働き方改革によって生まれる時間の使い方のアイデア
では、働き方改革によって得られる時間を有意義に活用するためのアイデアを紹介します。
5₋1.バランスのとれた食事を摂取する
バランスの取れた食事を摂ることも、健康維持に欠かせません。3食できるだけ決まった時間に摂り、ゆっくりと味わうゆとりを持つことで食事に対する意識を高め、患者に対する食事指導にも活かせるでしょう。また、ゆっくりと味わうことで食事を楽しむことにつながるのではないでしょうか。
5₋2.睡眠時間の確保
健康および、仕事の生産性を高めるため、一定の睡眠時間を確保することを考えることが基本になります。睡眠時間は、疲労回復だけでなくメンタル面にも大きな影響を及ぼします。
心身の健康を確保することは、生き生きと働くためにも欠かせないのではないでしょうか。
5₋3.運動習慣を取り入れる
運動習慣を取り入れ、リフレッシュすることも有効です。ジムに通ったり、ランニングやウォーキングを取り入れたりなど、生活に無理のない範囲でやり続けることは長く働くための礎となるでしょう。
5₋4.家族、友人との時間を取る
今まで不規則な勤務や過重労働で家族との時間が取れなかった方は、ぜひ家族、友人との時間を取ってみてはいかがでしょうか。家族や友人と話すことは、脳への良い刺激となり、充実感を得たり、ストレスを緩和してくれたりします。また、会話をすることで幸せホルモンといわれるオキシトシンが分泌される幸福感も与えてくれます。友人との近況報告など、子どもがいる方は、成長過程を知ることで絆を深めることにもつながります。学校行事などに参加し、今しか見られない成長の瞬間を共有することは、豊かな人生のためにも必要だと言えます。
6.まとめ
この記事では、医師の健康管理の実態と今後導入される働き方改革による影響、働き方改革などによって生まれる時間の活かし方について解説しました。
超高齢化社会が到来する中、自分らしく長く働くためには健康が欠かせません。健康は体力面だけでなく、メンタル面も含めたケアが必要です。
この記事が、自身の健康を見つめ直し、より生き生きと働くための一助となれば幸いです。