眼科専門医の将来性とキャリアパス|社会変化に伴う新しいニーズとは?

眼科専門医

眼科専門医は、眼科領域における高度な診断、治療、手術を行うための専門知識と技術を習得した医師です。近年、ドライアイや花粉症、コンタクトレンズの使用率の増加や高齢化社会での白内障手術などにより、眼科医の需要は増加傾向にあり、将来的にも安定した需要とワーク・ライフ・バランスの取れた働きやすいキャリアアップが出来ると注目されています。

本記事では、眼科専門医を目指す方に向けて、魅力ややりがい、働き方や将来性などについて詳しく紹介します。

1. 眼科専門医とその魅力とは?

眼科専門医は、眼科に関連する幅広い知識や優れた経験を持ち、日本眼科学会が実施する筆記試験や実技試験をクリアすることで取得できます。眼科専門医になるための専門研修プログラムでは、高度な知識や技術のみではなく、眼科領域において診断から治療までの全ての段階に対してのマネージメント能力や高い倫理性を習得することが目標とされています。

ここでは、眼科専門医の魅力を紹介していきます。

1.1 専門性の高い医療を提供できる

眼科専門医は、専門性や難易度の高い眼科診療ができます。白内障や緑内障などの一般的な眼科疾患はもちろん、網膜剥離や眼外傷など、より専門性の高い治療にも対応可能です。

また、眼科は神経内科の一面をあわせもつ神経眼科、形成外科や美容外科でもある眼形成、小児科の側面を持つ小児眼科など、広い領域と関りのある分野です。眼科専門医を取得後、自身の適性に合わせた分野を選択することで、専門的な医療を提供できるスペシャリストを目指すことができます。

さらに、専門医を目指したり、資格を維持したりする過程で、自然に臨床能力が高まり、継続的にスキルアップを行うことも可能です。身に着けた能力は自信にもつながり、医師のモチベーションを保つことにもつながります。

1.2 将来的に安定した需要が見込まれる

高齢化社会の進展や、パソコン・スマートフォンなどの普及により、眼科疾患の患者数は増加傾向にあります。コンタクトの処方やドライアイ、花粉症やハウスダストによるアレルギー疾患などが代表例です。そして、加齢によって発症率が上昇する白内障や緑内障、生活習慣病に起因する糖尿病網膜症など合併症患者数の増加も見込まれており、眼科専門医の需要は安定的に高いと考えられます。

1.3 働き方・活躍の場所の選択肢が豊富

眼科専門医は、病院、クリニック、開業医など、様々な場所で活躍することができます。高度な眼科治療に携わる大学病院や眼科専門病院をはじめ、眼科クリニック勤務が一般的です。臨床医として活躍するだけでなく、大学や研究所における研究・教育の道に進むこともできます。

また、眼科専門医の資格を取得することで、質の高い医療を提供できるとともに、最先端医療を理解し、情報を提供できるため患者からの信頼も高くなります。キャリアパスで開業医を選択する際は、眼科専門医の資格を取得しておくことで集患でのアピール度を高められるため、一般の眼科医に比べ経営的に有利と言えるでしょう。

2. 眼科専門医の将来性・ニーズ

眼科医の需要は、将来的にも安定した需要が見込まれています。

具体的な理由を下記4つ視点で紹介します。

2.1 高齢化による目の病気の増加

日本は世界トップレベルの高齢化社会を迎えており、2025年には団塊ジュニア世代が75歳を迎える後期高齢者となるため、加齢と共に罹患率が高まる白内障や緑内障などの患者数は今後も増加していくことが予想されます。

例えば、厚生労働省「第6回NDBオープンデータ」によると、白内障の手術件数は年間約160万件です。また、年齢別患者数が最も多い70代の患者数は男性321,884人、女性377,915人、合計約70万人に上ります。

高齢者特有の眼科疾患の診療のため、豊富な専門知識と高度な手術スキルのある眼科専門医がより多く必要となるでしょう。

参照:第6回NDBオープンデータ|厚生労働省

2.2 IT眼症

パソコンやスマートフォンなどのIT機器の普及により、長時間のIT機器の使用により眼精疲労やドライアイなどの「IT眼症」患者が急増しています。IT眼症は「VDT症候群」や「テクノストレス眼症」とも呼ばれており、目の疲れや痛み、視力低下、ドライアイなど様々な症状を引き起こし、生活の質 (QOL) を低下させる恐れがあります。

ドライアイの場合、国内の患者数は2,200万人と言われ、年々増加傾向が見られます。また、眼科医のアンケート調査によると、眼科患者の約2割がドライアイでした。

エアコン設備が整った環境でパソコンやスマートフォン、テレビなど、画面から強い光の刺激を浴び続けると、さらにまばたきが減少して涙が乾きやすくなります。また、コンタクトレンズの普及やライフスタイルの変化などにより、今後もドライアイをはじめとするIT眼症の患者数は増えると予測されます。

参照:ドライアイとは – ドライアイ研究会

2.3 コンタクトレンズの需要増大

CL/ケア用品の市場

近年、コンタクトレンズの需要は年々増加しており、日本コンタクトレンズ協会の調査によると2023年の市場規模は約3300億円でした。コンタクトレンズは国民の約1割、全国で1,500万人から1,800万人の使用者がいると言われています。

コンタクトレンズにはハードとソフトの2種類がありますが、コンタクトレンズの使用者の約7割がソフトコンタクトレンズを使っています。ソフトコンタクトレンズは薄く装着感が良いため、コンタクトレンズ障害が起こっていることに気づきにくく、眼痛や充血・異物感が発生した時には症状が進行している場合あります。コンタクトレンズ障害によっておこる病気としては、角膜感染症や巨大乳頭結膜炎、角膜潰瘍などがあり、入院による治療が必要となることもあります。

コンタクトレンズを医師の処方なしで手に入れることも可能になっており、視力が悪くなくともおしゃれで装着する人も増えています。コンタクトレンズの使用状況を確認すると使用期限や定期検査を正しく守れておらず、コンタクト障害が発症している症例もみられるようです。このような状況よりコンタクトレンズ障害やそれに伴う疾患患者の増加が想定されており、治療や正しいコンタクトレンズの使用やレンズケアの指導など、眼科医のニーズは高まっています。

参照:コンタクトレンズによる眼障害について – 消費者庁
参照:マーケットサイズ _ 協会概要 _ 一般社団法人 日本コンタクトレンズ協会

2.4 再生医療やロボット手術などの新しい治療法の開発

眼科領域においても、再生医療やロボット手術などの新しい治療法が開発されています。これらの新しい治療法を導入・運用できる高度な知識と技術を持つ眼科専門医は、ますます求められる存在になるでしょう。

具体例として、iPS細胞を用いた網膜再生医療や、人工網膜、遺伝子治療などを通して、より安全で精度の高い手術による治療が期待されていますので、詳細について紹介します。

iPS細胞を用いた網膜再生医療
これまで、中枢神経系に属する網膜や視神経の細胞は一度失われると再生は不可能と考えられていました。しかし、iPS細胞技術の進歩により網膜細胞が再生可能な時代を迎えており、加齢黄斑変性や網膜色素変性症に対しての視細胞移植など、再生医療に大きな期待が寄せられています。

人工網膜
網膜色素変性により視力が失われた患者に人工網膜を埋め込むことで、視覚機能の回復を目指すアプローチが研究中です。人工網膜の開発により、進行性の網膜疾患による失明治療が飛躍的に進展すると予測されています。

・遺伝子治療
遺伝子治療を用いた眼科疾患の治療法が開発され始めています。例えば、遺伝子異常によって発症する網膜色素変性など、現在有効な治療法が確立されていない眼科疾患の治療に効果が期待されています。

新しい治療法を臨床に導入していくためには、高度な知識と技術を持つ眼科専門医の存在が不可欠です。眼科専門医には、患者の視力を守るという崇高な使命感や、革新的な医療技術を駆使して治療を行うというやりがいなど、魅力にあふれています。

参照:眼科医療におけるイノベーション ―シリーズ「眼科医療の現在・未来」 _ Santen(参天製薬)グローバルサイト
参照:日本眼科学会:視細胞移植

3. 眼科専門医になるには

眼科専門医になるには、下記のステップを踏む必要があります。

眼科専門医になるには

3.1 眼科専門医の受験資格  

専門医認定試験の受験資格は、日本眼科学会および日本眼科医会の会員であり、所定の研修と臨床経験を終了することが条件です。

ただし、受験資格について、平成15年度以前と平成16年度以降の医師国家試験合格者で若干条件が異なります。

平成16年度以降の医師免許取得者の場合は、2年間の臨床研修修了後、眼科専門医制度研修施設で4年以上の研修が求められます。

一方で、平成15年以前の医師免許取得者は、日本眼科学会会員4年以上、受験時に日本学会会員の上、5年以上の所定の眼科臨床研修を行う必要があります。

受験資格は医師国家試験の合格年や眼科臨床研修を開始したタイミングなどにより複数のパターンがありますので、詳細・最新情報につきましては日本眼科学会公式ホームページをご参照ください。

3.2 眼科専門医試験の合格率

眼科専門医試験の合格率
日本眼科学会の資料を参考に弊社にて編集加工をしております

最新の眼科専門医試験である2023年度の場合、受験者数345名に対して94.5%という高い合格率を記録しました。近年、眼科専門医試験の合格率は上昇傾向にあり、過去3年間の推移を見ると、2021年までは合格率が60%台と比較的低い年度もありましたが、2022年以降は90%を超える高い合格率を維持しています。

合格率が上昇した理由として、良問が中心の出題傾向となったことが挙げられます。以前は難解な問題も多く出題されていましたが、試験委員会で専門外の試験委員も含め全員で問題レベルを検討し、実際に問題を解いて難易度の調整を行うようになりました。その結果、受験生が取り組み安い「良問」が増え、受験生が得点しやすくなっています。

参照:『談話室:第35回日本眼科学会専門医認定試験・第2回日本専門医機構眼科専門医認定試験を終えて』|日本眼科学会

4. 眼科専門医取得後のキャリアパス

眼科専門医取得後は、下記のようなキャリアパスが代表的です。

4.1 病院やクリニックで勤務医として働く

眼科専門医取得後、多くの医師は病院やクリニックで勤務医として働きます。大学病院や基幹病院では多様な眼科疾患を診療し、網膜硝子体手術など難易度の高い手術を執刀するなどしながら指導医や教員として後進の指導に携わることも可能です。

また、クリニックでは幅広い年齢層の患者を診療し、地域に根差した医療に応えつつ幅広い臨床経験を深めることができます。勤務医として働く場合、安定した収入が見込めます。

4.2 開業医として独立する

開業医として独立すれば、自分の診療スタイルや経営理念に基づいて医業を行えます。また、地域医療に貢献できる点でやりがいの大きいキャリアパスです。

ただし、安定的な経営のため集患やスタッフ管理を行ったり、運営に関わる様々な事務作業をこなさなければならないなど、医師としての業務以外にも多くの仕事に取り組む必要があります。特に、経営スキルやマネジメントスキルが求められるため、収益や経営状況により収入が大きく左右します。

4.3 研究や教育の道に進む

大学や研究機関で研究者として、眼科領域の新たな治療法や診断法の開発に携わることができます。また、大学医学部などで教員として、後進の指導・育成も眼科専門医に求められるキャリア像です。

研究者や教育者として活躍するためには基礎研究や臨床研究を続けながら、高度な専門知識と指導力を培う必要があります。

5.眼科専門医のキャリアパス具体例

4章で代表的なキャリアパスを記載しましたが、ここでは3名の眼科専門医の具体的なキャリアパスを紹介します。

具体例1:医療研究施設で小児科医として活躍する医師Aさん

医療研究施設で小児眼科医として勤務しているA医師の場合、学生時代から小児医療に携わりたいという強い思いを持っていました。初期研修医として様々な診療科を経験する中で、小児眼科医として子供たちの視覚を守り、成長を見守りたいという気持ちがさらに強くなりました。

初期研修後に現在の勤務先で小児眼科診療を開始。先天性白内障や緑内障など、小児特有の眼科疾患に対する専門的な診療と手術に日々取り組んでいます。

A医師にとって最もやりがいを感じるのは、手術によって視力を獲得し、明るく元気になった子供たちの笑顔を見ることです。また、長期的な視点で子供たちの成長を見守り、目の健康をサポートできることも小児眼科の魅力だと考えています。

具体例2:基幹病院の専門外来で眼形成に携わる医師Bさん 

B医師は、大学病院で眼科専門医を取得した後、眼形成を志しました。眼科の中でも特に専門性の高く、眼瞼、眼窩、涙道などの眼付属器の疾患を扱う分野です。

B医師は、さらに高度な技術を習得するため、国内でも数少ない眼形成専門施設で研修を受けました。研修では、眼瞼下垂や眼窩腫瘍の手術など、様々な症例を経験し、豊富な知識と技術を習得しています。

現在は地元の基幹病院で専門外来を開設し、地域の患者に質の高い眼形成医療を提供しています。全国的に眼形成医は少ないため、患者にとって最後の砦であるという責任感を持って日々診療に取り組んでいます。

B医師にとって、希少価値の高い眼形成のスキルを通じ、患者のQOL向上に貢献できることに大きなやりがいを感じています。

具体例3:開業医として硝子体手術を専門に行う医師Cさん

大学院で眼科研究に携わる中で、硝子体手術の奥深さに魅了されたC医師は、大学院卒業後、基幹病院で眼科医として勤務し、硝子体手術を専門として経験を積み重ねました。硝子体手術は、眼球内部の硝子体と呼ばれる透明な組織に直接アプローチする、高度な技術を要する手術です。

その後、出身地の公立病院で硝子体手術チームを立ち上げ、地域の眼科医療に貢献しました。

現在は開業医としてクリニックで硝子体手術を行い、入院が必要な症例は前職の病院と連携して治療を行っています。C医師にとって硝子体手術の魅力は、失明の危機に瀕した患者の視力を回復できる可能性があることです。

手術によって患者の視力が回復し、再び希望を持って生活できるようになる術後を目指して真摯に取り組んでいます。

参照:公益財団法人日本眼科学会「眼科専門医取得後の進路

6. まとめ

加速する高齢化社会やIT機器の普及により、今後も眼科疾患は増加が予測されます。 こうした状況下において、高度な知識と技術を持つ眼科専門医は将来的にも安定した需要が見込まれています。

眼科専門医になるには、医師免許取得後の研修期間を含め7年以上の道のりが必要です。 しかし、眼科医よりもさらに専門知識とスキルを駆使し、目の疾患に苦しむ患者の視覚回復に取り組み、QOL向上に貢献できるという大きなやりがいを感じられる仕事です。白内障や緑内障、網膜剥離の治療や手術、糖尿病網膜症の予防など高齢化社会や眼を酷使する現代人のニーズに応じ、幅広い分野で活躍することができます。また、眼科医療の研究や後進の教育にも携わることで、更なる専門性を高めることも可能です。

眼科に興味がある方は、眼科医の知識と経験を基に眼科専門医を目指すキャリアパスを検討してみてはいかがでしょうか?