医学の進歩、症例や治療の複雑化、患者の日常生活への支援の多様化が進む今日の医療現場では、多種多様な医療従事者が専門的知見を持って治療にあたる「チーム医療」が必須になっています。
「チーム医療とよく言われるけれど、あらためてその定義を知りたい」
「チーム医療で関わるメンバーには、どのような知見を持った人がいるのだろうか」
このように考えたことはありませんか?チーム医療の中心的存在となる医師向けに、今回はチーム医療の定義から実際に関わる人たち・必要なスキル・取り組みの現状について解説します。
目次
1.チーム医療とは
チーム医療は、厚生労働省の「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」では次のように定義されています。
「医療の質や安全性の向上及び高度化・複雑化に伴う業務の増大に対応するため、多種多様なスタッフが各々の高い専門性を前提とし、目的と情報を共有し、業務を分担するとともに、互いに連携・補完しあい、患者の状況に的確に対応した医療を提供する」
医師や看護師だけではなく、多くの専門的知見を持ったスタッフがそれぞれ持っている知識や経験などを生かし、患者に対してより高度で的確な治療を行うことを目的としています。
〇参照:厚生労働省「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」
2.チーム医療の必要性が高まっている理由
医療の研究や内容が高度化しており、以前は治療できなかった病気や疾患に対する新たな治療法の発見、合併症などによる治療の複雑化・長期化が医師の負担を増大させています。
また、高齢化による患者の増加も医師の業務量増加に拍車をかけており、現在の医療体制を維持するためには、今まで以上に様々な専門的知見を持ったチームで治療にあたり、効率的に対応することが求められます。
また、2024年4月からは医師にも働き方改革による時間外労働規制が適用されるようになる予定です。医師の長時間労働を減らすためにも、今後ますますチームとして患者の対応に当たる場面が増えることが考えられます。
〇参照:2024年4月に開始する「医師の働き方改革」とは?時間外労働の規制はどうなる?
3.チーム医療で関わるスタッフとは
チーム医療で関わるスタッフには、どのような専門性を持った人がいるのかを紹介します。
3⁻1.同じ診療科の医師や他診療科の医師
同じ診療科の医師だけでなく、手術のために感染症対策チームや術中管理チーム・呼吸器ケアチームなど、患者の治療法や方針にあわせたチームを編成して合同カンファレンスを調整する機会は多いのではないでしょうか。複雑な疾患や治療に当たる場合は特に多くの専門的知見を持つ専門職で協力しあうことが欠かせません。
3⁻2.看護師・看護助手
看護師は診療の補助や病棟業務を行う際に、患者とコミュニケーションを取ることが多く、多職種と比較して患者と関わる時間が長くなります。患者にとっても身近な存在となり、身体的や精神的な状態を収集しやすく、医師だけでは把握できなかった問題を知ることもできます。また、看護師の得た情報をチームに事前に共有することで、患者との関係をスムーズにし、チームの多職種との連携を深めることもできます。
看護師の中には、より高度な専門知識を持つ認定看護師や専門看護師もいます。これらの資格を持った看護師は、より高度化した医療に対応するために所定の講習を受けて認定され、5年ごとに更新を受けています。
〇参照:日本看護協会「資格認定制度」
3⁻3.薬剤師
薬剤師も、医師が最も多く関わる機会のある職種の一つです。
外来診療で患者に処方する薬剤の処方箋をはじめ、入院中の患者に対する点滴・投薬についてのオーダーを出すうえで欠かせない存在でしょう。
時には、薬の飲み合わせに関する効用・副作用の確認や、投与量について話し合うこともあるのではないでしょうか。
3⁻4.リハビリテーションスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など)
病気や事故などによる身体機能の低下・喪失などによる障害を回復・維持させるための役割を担うリハビリテーションスタッフとの連携も欠かせません。
運動療法や物理療法を行う理学療法士、発声や嚥下機能などの機能回復に関わる言語聴覚士、生活に関わる動作や心理的な面もフォローする作業療法士などがいます。
病院や施設によっては、数は少ないですが音楽療法士がいる場合もあります。
いずれにしても、入院や通院をしている患者のQOLや社会復帰に向けた方針などを話し合い、医師として関わることも多いでしょう。
3⁻5.管理栄養士
管理栄養士は、医師が患者の身体状態を把握し、病状にあった栄養摂取方法を指示する上で、高度な栄養や食生活に関する知識を基に必要である栄養や摂取方法を提案していく立場にあります。入院中の栄養量の算出や評価、退院後や通院中の調理法や水分管理等の助言を行い、栄養状態や病状の改善に努めます。
例えば、糖尿病や腎臓病患者に対する食事指導、食物アレルギーがある患者に対する食事のチェック、生活習慣病の観点からメタボリック症候群の食事アドバイスなどが挙げられるでしょう。食事を通じて、患者のQOLを改善し、より治療効果が出やすいように栄養と食の面からサポートします。
3-6.介護福祉士
患者が介助なしには日常生活を送れない場合に、関わってくるのが介護福祉士です。主に退院後の生活介助などの面で相談・連携することになるでしょう。
在宅医療を行う医師の場合は特に、生活面でのフォローや助言といった形で関わる機会が多くなると考えられます。
3-7.ソーシャルワーカー
一般的に、ソーシャルワーカーという資格はありません。生活相談員の総称で、福祉をはじめ介護、医療、教育などの業界で、何らかの問題や悩みを抱えている人の支援や援助を行います。
病院に常駐している場合、何らかの疾患や怪我などで退院後の日常生活に支障が出そうなときに相談に乗ったり、介護が受けられるように手続きをしたり、様々な形で支援するケースが多いでしょう。
チーム医療のスタッフ内でも在宅療養への移行や転院などの際に、家族や患者の負担を考慮した支援や解決策を提案することができます。
3⁻8.歯科医師
患者の疾患によっては、歯科医師との連携もあり得ます。
近年、歯周病と心疾患や糖尿病との関連が徐々に明らかになっており、時には歯科治療も含めた対応が必要になることもあります。
高齢者で長期療養をしている患者の虫歯や歯周病をはじめとする口腔内の健康・咀嚼の低下による誤嚥を防ぐ目的で、連携することもあります。
〇参照:令和4年度 厚生労働省科学研究費「成人期における口腔の健康と全身の健康の関係性の解明のための研究」
3⁻9.その他
他にも、医療関係職の人をはじめ多くの人とかかわる可能性があります。
医療・福祉関係なら保健師や精神保健福祉士、社会福祉主事などが考えられます。
また、患者が子どもであれば学校の教師や養護教諭などの教育関係者、患者に家族がいない場合は、行政関係者とも関わることがあるでしょう。
4.チーム医療が重要となっている主な現場
チーム医療は、様々な場面で重要となっていますが、特にチーム医療が多く機能する現場について紹介します。
4⁻1. 急性期・救急医療
手術や集中治療など特に患者の容体に注意深い対応を要求される治療では、迅速かつ正確な情報共有が必要になります。主治医となる医師を中心に、病棟看護師との連携や、手術では麻酔科の医師や薬剤師とのスムーズなチームワークが重要となるでしょう。
また、医師も診療科内で複数の医師とカンファレンスなどで話し合い、治療方針の決定・治療体制の確立などを話し合うことがあります。
4-2. 回復期・慢性期医療
患者が回復期・慢性期に入ると、褥瘡対策や継続的な栄養管理、感染症への対策といった課題が出てきます。これらに対応するためには、病棟看護師やリハビリテーションの現場で様々な専門職が関わるでしょう。
特に回復期リハビリテーション病棟では、診療報酬で定められた職員の配置基準よりも多い理学療法士、作業療法士、言語聴覚士や管理栄養士がいることも珍しくありません。
また、退院が見通せるようになれば、社会福祉士、ソーシャルワーカーと患者が日常生活を問題なく送れるよう、様々な支援について話し合うことになります。
〇参照:厚生労働省「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」
5.必要とされるスキル
チーム医療では、それぞれの専門的知見はもちろん必要ですがそれ以外にも、主にヒューマンスキルとして求められるスキルを紹介します。
5-1.コミュニケーションスキル
多くの専門職とかかわる中で、コミュニケーションスキルは特に大切です。
患者の症状・今後予測される状態などを分かりやすい言葉に置き換えて説明したり、それぞれの知見を持ったメンバーからの言葉に耳を傾けたりできるかが、円滑な治療を進めることにつながります。また、意見を受け入れてもらえるという雰囲気がチーム内ででき、情報共有がスムーズになることも期待されます。
5⁻2.マネジメント能力
チーム医療は、医師が中心となり、チーム全体へ適切な指示を出せるかが鍵になります。
多くの人が関わる中で、しっかりチームをマネジメントする能力も欠かせません。
患者の容態や治療について、一番よく知っているのは医師です。医師からの情報提供やアドバイスがなければ、知見を持ったチームメンバーも患者に対してより良い医療を提供することができません。
チームの連携がうまく進むよう、適切な管理ができるように心がけるといいのではないでしょうか。
5-3.協調性
協調性も求められます。
通常の治療以上に多くの専門家が関わるチーム医療では、メンバーを尊重して気持ちよく仕事ができるように気遣うことが大切です。
時には難しい対応が必要な局面もあると思いますが、日常的に笑顔で接したり、あいさつをするなど人間関係の基本的なことを大切にしていればスムーズに連携できるのではないでしょうか。
6.チーム医療の取り組みに関する現状
チーム医療については、様々な取り組みが行われており、より良い医療に向けた試行錯誤がされているのが現状です。その中の事例をいくつか紹介します。
6-1.医療機器管理・選定の実例
医師・薬剤師・看護師・臨床工学技士・臨床検査技師・診療放射線技師等、医療職種・事務職でチームを構成し、院内の医療機器の保守管理体制を強化し、効率の良い稼働につなげています。チームは、医療機器管理チームと医療機器選定チームに分け、効率的な運用を目指しました。
病院では、医療機器の選定・購入は重要事項ですが、計画に沿った新規購入やリースで実態に合った機器を選定します。チームを組んだことにより、稼働トラブルの減少で患者満足度と医療の質の両方を向上させることができました。
病院の経営・財政面でも、突発的な支出を抑えられて安定した経営基盤につなげています。現場の声と稼働状況、双方の観点から医療機器購入・保守運用を行うことができています。
6-2.抗菌薬適正使用の推進の実例
医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師でチームを結成し、抗MRSA薬使用症例、血液培養陽性症例を対象に病棟や病室内を見回り、抗菌薬の選択、投与量、投与期間、血中薬剤モニタリング(TDM)などの相談指導を行いました。
特に、抗菌薬の不適切な投与は耐性菌を生み出し、使うことができる抗菌薬がなくなる恐れもあるため、非常に重要です。
加えて感染対策や薬剤耐性菌監視等の院内感染対策活動も行い、感染症診断と治療、院内感染制御に貢献することにつなげました。
〇参照:AMR臨床リファレンスセンター「薬剤耐性菌について どのように耐性化するのか」
6-3.回復期リハビリテーション専門病院のチーム医療の実例
医師・看護師・介護福祉士・管理栄養士・薬剤師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・社会福祉士・歯科衛生士・歯科医師でチームを組みます。
脳卒中患者・肺炎による廃用症候群患者などの多くが高齢者です。高齢者は様々な慢性疾患や再発・合併症のリスクがあります。
障害のリハビリによる改善だけでなく、日常生活への復帰を支援するために多くの専門職の知見を合わせて取り組みを行います。特に、口腔内の健康維持は「3.チーム医療で関わるスタッフとは」でも説明しましたが、高齢者の健康には非常に重要です。
日常生活のみならず、介護が必要となる場合も含めて幅広い専門家でチームを結成することで患者により良い医療の提供が可能となります。
〇参照:厚生労働省「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」
7.まとめ
この記事ではチーム医療の定義から関わる専門職・求められるスキルや取り組み事例などを解説してきました。
チーム医療は、病院によっても方針や取り組み事例が千差万別です。だからこそ、他の医療機関で取り組んでいる事例を知ることが、ご自身の勤務先でより良い医療へとつなげる一歩となるのではないでしょうか。この記事が、チーム医療の参考となれば幸いです。