従来の医師の進路といえば、初期臨床研修修了後に大学医局に所属する、もしくは専門医を目指すという選択肢が一般的です。
2018年4月に「新専門医制度」が始まってから、新しく「専攻医」という3年以上の研修期間が設置されました。これにより、臨床研修医が専門医になるまでの仕組みが複雑化しています。
そこで今回は、新専門医制度を踏まえて、臨床研修医が専攻医、そして専門医になるまでの流れについて詳しく解説していきます。今後、若手医師は専門的知識やスキルを向上するために、「新専門医制度」のポイントを押さえておきましょう。
目次
1. 2018年に始まった新専門医制度とは?
国民に幅広い診療領域と良質な医療を提供することを目的に、2018年4月「新専門医制度」が導入されました。一般社団法人「日本専門医機構」が代表となり、中立的な立場で専門医の認定や育成をする新しい認定制度です。従来も「専門医制度」自体は存在しましたが、専門医の認定は各学会が定めた独自の査定基準に委ねられていました。
そのため、専門医によって各学会によりばらつきが生じ、地域格差も目立ってくるなど、様々な問題点があったのも事実です。厚生労働省は国民に幅広い診療範囲における均一で良質な医療を提供するために、制度の改新に向けて、議論を重ねました。
結果、「新専門医制度」が導入され、日本専門医機構が中立的な第三者機関として、専門医取得に対して、一定基準を設定しました。
現在、研修医の方は専門医資格を取得するために、日本専門医機構による専門医の認定が必要です。日本専門医機構は、専門医の認定、更新基準と研修施設の基準を作成、専門医資格取得のためのプログラム制作などを担っています。
「新専門医制度」は医師が診療科の専門的知識と高度なスキルを取得できる仕組みとなっており、医療品質の改善を目指しています。患者側のメリットだけでなく、専門性の高い医師のキャリア育成を支援している点が特徴です。
・現代医療を意識した医療環境の改善を目指している
・患者は地域に関わらず、専門医から均一で質の高い医療を受けることができる
・医師は専門医になるまでに複雑な流れになった
2. 新専門医制度が導入された背景にある3つの問題点
従来の「専門医制度」は各学会が独自に専門医制度を設定していたため、以下のような様々な問題点がありました。
2.1 医師の質を決める認定基準が各学会により異なる
各学会が決めた専門医の認定基準によって資格の難易度が異なり、医師によって専門性、質、技術に差が生まれていました。
「新専門医制度」導入後は、各診療領域において専門医の認定基準が統一され、安定した医療を提供しています。
2.2 一般的な専門医の認識に誤解が生じた
2002年以降、専門医資格の種類が増えて、難易度がそれほど高くない場合でも、医療広告に「専門医」と名乗るケースが増加したのです。
患者が診療後にイメージと違う、と誤解が生まれるケースも少なくありませんでした。「新専門医制度」によって、より専門的で高品質な医療を提供できるように改善されています。
2.3 医師数と診療科は地域差があった
都市部の医療機関では医師数が飽和状態になっており、診療科の範囲も幅広く揃っています。
一方で、地方・過疎化エリアにおいては深刻な医師不足が続き、一人あたりの負担が大きくなっており、診療科は限定的という問題がありました。
「新専門医制度」による医師の地域偏在と診療科偏在を解決するため、2020年度から採用数の上限を設定する「シーリング制度」を導入しています。
「シーリング制度」とは、必要医師数を満たしている都道府県(主に都市部)と診療科が対象となり、約5%の専攻医が人手不足が見られる地域や診療科へ派遣され、研修を行う制度です。
内科、小児科、泌尿器科、脳神経外科、整形外科、形成外科、耳鼻咽喉科、放射線科、皮膚科、精神科、麻酔科、眼科、リハビリテーション科
参照:厚生労働省「2023年度専攻医シーリングについて」
3. 新専門医制度によって新しく生まれた専攻医とは?
今までは、「初期研修医」と「後期研修医」はどちらも同様に「研修医」と呼ばれていました。新専門医制度導入後、日本専門医機構は「初期研修医」のみを「研修医」と呼んでいます。
「後期研修医」はなくなり、専門医取得のために専門研修プログラムを受ける医師は「専攻医」と区別されて呼ばれるようになりました。初期臨床研修を終えた医師は19領域(内科や外科など)の「基本領域」の専攻医となります。
分かりやすくいえば、専攻医は専門研修を受けている医師である、といえるでしょう。専攻医は基幹病院として認定された医療機関にて約3年間の経験を積み重ねていきます。
専門医になるには?医師転職やキャリアアップに有利な資格のポイント
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眼科専門医の将来性とキャリアパス|社会変化に伴う新しいニーズとは?
4. 専攻医は専門医と何が違うの?
基本領域の専攻医資格を取得した医師は、今度はより高度な「専門医」の資格取得を目指します。より専門性の高い23領域の「サブスペシャルティ領域」の研修を受けることになります。
専門医資格を取得する必要がない場合、必ずしも専門研修プログラムを受ける必要はありません。実際に多くの専攻医は、自身のスキルと専門知識を高めるために、専門医を目指しています。
専門医の育成・認定を行う日本専門医機構は「専門医」を以下のように定めています。
「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに、先端的な医療を理解し情報を 提供できる医師」
5. 新専門医制度の専門医資格は二段階
ここからは、新専門医制度の専門医資格について詳しく見ていきましょう。
新専門医制度の専門医資格は以下の二段階制となっています。
・「基本領域専門医」
19の診療科で構成されている
・「サブスペシャルティ領域専門医」
24の診療科で構成されている
※令和4年4月1日現在の認定領域
専攻医は初めに19の基本領域から専門医資格の取得を目指し、次にサブスペシャリティ領域を選んでより高度な専門医資格取得を目指します。
▽各都道府県の基幹病院、研修プログラム、研修施設一覧はコチラをチェック(内科領域_令和5年度)
プログラム名 | 基幹施設 | 内容 |
JR札幌病院内科研修プログラム | JR札幌病院 | |
市立函館病院内科研修プログラム | 市立函館病院 | |
十和田市立中央病院内科研修プログラム | 十和田市立中央病院 | |
牛久愛和総合病院内科研修プログラム | 医療法人社団 常仁会 牛久愛和総合病院 | |
さいたま市民医療センター内科研修プログラム | さいたま市民医療センター | |
春日部中央総合病院内科研修プログラム | 医療法人財団明理会 春日部中央総合病院 | |
汐田総合病院内科研修プログラム | 汐田総合病院 | |
川崎協同病院 内科研修プログラム | 川崎医療生活協同組合 川崎協同病院 | |
下越病院内科研修プログラム | 下越病院 | |
新潟県立燕労災病院内科研修プログラム | 新潟県立燕労災病院 | |
新潟県立十日町病院内科研修プログラム | 新潟県立十日町病院 | |
柏崎総合医療センター内科研修プログラム | 柏崎総合医療センター | |
静岡医療センター 内科研修プログラム | 国立病院機構 静岡医療センター | |
西淀病院内科研修プログラム | 西淀病院 | |
神戸掖済会病院内科研修プログラム | 神戸掖済会病院 | |
西宮市立中央病院 内科研修プログラム | 西宮市立中央病院 | |
川西市立総合医療センター 内科研修プログラム | 川西市立総合医療センター | |
福岡和白病院内科研修プログラム | 社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院 | |
製鉄記念八幡病院内科研修プログラム | 製鉄記念八幡病院内科 | |
福岡大学西新病院内科研修プログラム | 福岡大学西新病院 | |
宮崎市郡医師会病院内科専門医研修プログラム | 宮崎市郡医師会病院 |
参照:日本内科学会「研修プログラム、研修施設一覧(内科領域‣都道府県別‣令和5年度)」
参照:日本専門医機構「研修プログラム申請について」
5.1 基本領域専門医
基本領域の診療科19のいずれかの専攻医として、日本専門医機構が指定した医療機関にて3年以上の研修を受ける必要があります。
<基本領域の診療科19>
1)内科 2)小児科 3)皮膚科 4)精神科 5)外科 6)整形外科 7)産婦人科 8)眼科
9)耳鼻咽喉科10)泌尿器科11)脳神経外科 12)放射線科 13)麻酔科 14)病理
15)臨床検査 16)救急科 17)形成外科 18)リハビリテーション科 19)総合診療科
従来の専門医制度で定められた18の基本診療領域に総合診療が1つ追加されました。
総合診療は診療科にとらわれない総合的な診察スキルが求められています。
参照:日本専門医機構「基本領域およびサブスペシャルティ領域一覧」
5.2 サブスペシャリティ領域専門医
基本領域の専門医を取得した後は、より専門性の高い24領域のサブスペシャリティ領域の専門医を取得を目指します。
<サブスペシャルティ領域>
1)消化器 2)循環器 3)呼吸器 4)血液 5)内分泌代謝・糖尿病 6)脳神経 7)腎臓 8)リウマチ
9)消化器外科 10)呼吸器外科11)心臓血管外科 12)小児外科 13)乳腺外科 14)放射線診断
15)放射線診療 16)アレルギー 17)感染症 18)老年科 19)腫瘍内科 20)内分泌外科
21)肝臓内科 22)消化器内視鏡 23)内分泌外科 24)糖尿病内科
一部の領域では、基本領域で経験症例に重複がある場合、研修の年数を短縮できる連動研修が認められています。
参照:一般社団法人 日本専門医機構「サブスペシャルティ領域について」
6. 研修医から専攻医になるまでの資格取得の流れ
ここからは、研修医から専攻医になるまでの全体の流れを見ていきましょう。
①医師国家試験に合格
↓
②研修医として2年間の初期臨床研修を終える
↓
③基本領域の診療について、医療機関で3年以上の研修を受ける
↓
④専攻医取得(従来の後期研修医)
※専門医試験の受験資格を得られる
↓
⑤日本専門医機構が各学会と連携した医療機関で 3~5年間の専門研修プログラムを受ける
※基本領域とサブスペシャルティ領域の2段階構成
↓
⑥所定の試験に合格、専門医の資格取得
※資格取得後は各学会の規定により、約5年ごとに専門医資格を更新する 基盤領域専門医として、外科や脳神経外科など2つ目の外科専門医の資格を取得することを「ダブル・ボード(ダブル・スペシャルティー)」といいます。
日本専門医機構は救急科領域の専門研修を修了後、ダブルボードとして2つの外科専門医の取得を目指す「外科領域専門研修カリキュラム制整備基準」を公開しています。
参照:外科領域 専門研修カリキュラム整備基準(2022年12月7日時点)
ダブルボードに関する専門研修制度、専攻医の応募スケジュールは以下のサイトで最新情報を確認しておきましょう。
7. 新専門医制度が医師キャリアに及ぼす3つの課題
新専門医制度は、医師キャリアを築く若手の医師にとって、3つのハードルが指摘されています。
7.1 専門医になるまでに約6年かかる
新専門医制度が導入後は、専門医になるまで約6年〜11年かかることになります。 従来は後期研修医として医療機関に勤務しながら診療科をじっくりと選ぶ時間がありました。 今後は初期臨床研修が修了した段階で将来の方向性を見据えて、早めの準備が求められます。
7.2 大学病院や都市部に限られている
基本領域の研修プログラムは都市部の基幹病院と連携病院に集中しており、地方との差が生じています。新しく設置された「総合診療専門医」は過疎地域や離島での勤務が一定期間義務付けられました。
一定の地域や診療科に医師が集中するのを防ぐために「シーリング」が導入されましたが、今後も対策が必要です。
7.3 遠方の施設で研修がある可能性
「新専門医制度」では、基幹施設と連携施設を行き来する「循環型研修」が採用されました。研修施設によっては、生活拠点を何度も変えなければならない可能性があります。 結婚やライフスタイルの変化によって、仕事とのバランスを取る必要性があるでしょう。
8. 医師のキャリアは新専門医制度を見据えたプランを
一般的に、新専門医制度は医師一人ひとりが一定以上のスキルを身に付け、良質な医療を国民へ提供することを目的とした制度です。
医師キャリアの視点からみると、実際には「専門医」になるための難易度は変わっていませんが、今までよりも専門医になるまでのハードルが高くなるのも事実です。
今後は制度の改正点を抑えながら、専門性の高い知識やスキルを積み上げていくことが大切です。
まとめ
今回は2018年に始まった新専門医制度について、新しい専攻医と専門医との違いをみていきました。
従来の不均一な専門医制度とは異なり、医師の技術、質に統一性が求められることで、質の高い医療を提供できる環境が整いつつあります。
医師にとっては、初期臨床研修修了後、基本領域のいずれかを選択して専攻医となり、専門医に向けて、さらなる研修を受けなければなりません。
現在、研修医として勤務されている方は、希望する診療科を早めに決定し、研修に望む必要がありそうです。