「クリニック開業を検討しているものの成功するのか不安」「開業数は増えているのか知りたい」
このように考えたことはありませんか?
クリニック開業には、自身にとって理想の医療を追求できるようになったり、柔軟な働き方ができたりといったメリットがあります。その一方で、収入が安定しなかったり経営と診療の両立が大変に感じたりする場合もあるでしょう。
自身にとってクリニック開業が適しているかどうかを判断するために、その魅力や開業数の推移などについて確認しておくことが大切です。
本記事では、クリニック開業の実態をテーマに、開業数の推移や開業の魅力から成功のポイントまで詳しくご紹介します。
1.クリニック開業の実態
クリニックは診療所のことですが、病院の開設数も参考になるでしょう。
医療施設数および開設者別の施設数の推移について詳しくご紹介します。
1.1医療施設数の推移
厚生労働省によると、2021年10月1日時点における医療施設数は182,800施設で、そのうち休止および1年以上の休診を除いた施設数は180,396施設でした(前年から1,672施設増)。
病院は8,205施設(前年から33施設減)、一般診療所は104,292施設(前年から1,680施設増)、歯科診療所は67,899施設(前年から25施設増)と、一般診療所のみ大きく増加しています。
また、一般診療所の中でも「有床」が6,169施設(前年から134施設減)で、「無床」は98,123施設(前年から1,814施設増)です。このように、医療施設全体では無床の一般診療所のみが大きく増加しています。また、一般診療所(無床)の施設数は、1999年以降少しずつ増え続けています。
出典:厚生労働省「令和3(2021)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
1.2開設者別の施設数
開設者別の施設数は、病院で最も多いのが「医療法人」の5,681施設(全体の69.2%)、次いで「公的医療機関」の1,194施設(全体の14.6%)となっています。一般診療所は「医療法人」の45,048施設(全体の43.2%)と最も多く、次いで「個人」の40,304施設(全体の38.6%)となっています。
歯科診療所で最も多いのは「個人」の51,650施設(全体の76.1%)です。
一般診療所は前年と比べて「医療法人」が829施設、「公的医療機関」が474施設増加しています。なお、1年間で「個人」から「医療法人」に変更した一般診療所は767施設です。個人よりも医療法人の方が節税効果に優れていることから、収益の増加とともに税負担も増加し、節税を目的に医療法人化したものと考えられます。これは、一般診療所の経営において成功している開業医が多いことを表しているでしょう。
出典:厚生労働省「令和3(2021)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
1.3診療科目別の施設数
クリニックを開業する際は、診療科についても決める必要があります。参考に令和2年度の一般診療所における診療科目別の施設数を紹介します。施設数が多い順にリストアップしました。
- 内科…… 64,143施設
- 小児科……18,798施設
- 消化器内科……17,731施設
- 循環器内科……12,807施設
- 整形外科……12,439施設
- 皮膚科……12,410施設
- 外科……12,405施設
- リハビリテーション科……11,458施設
- アレルギー科……7,724施設
内科が圧倒的に多い理由は、医療の窓口としての機能を果たしているためと考えられます。
一般的に、発熱や腹痛、咳、鼻水、痰などの症状がある場合は内科を受診します。そこで必要に応じて他の診療科へ紹介する流れができていることから、多くの病院に内科が設けられています。同様の理由で小児科も多いものと考えられます。
リハビリテーション科や整形外科は、加齢の影響で身体機能に問題が生じた高齢者だけではなく、さまざまな術後の後遺症のケアを目的として治療を行うことから、需要が高い診療科です。
出典:厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」
1-4.クリニックの倒産率
倒産とは、債務超過によって経営を継続できなくなり、法律のもとで解散の手続きを行うことです。
一方、休廃業・解散は借入金や買掛金などの負債がない状況において事業を終了させることです。
クリニックの経営面について知る場合は、倒産率に注目しましょう。
帝国データバンクの資料によると、2021年の医療機関の休廃業・解散は567件で、内訳は「病院」が12件、 「診療所」が471件、「歯科医院」が84件です。これは、同年における倒産件数の17.2倍(診療所は21.4倍)を示します。
医療機関の経営は景気に左右されにくいうえに公共要素が強いため、経営が安定しやすい業種です。
出典:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」
2.クリニック開業の魅力
日本医師会が実施したアンケート調査では、新規開業における開業動機で最も多かったのが「自らの理想の医療を追求するため(42.4%)」でした。次いで、「勤務医または研究者時代の精神的ストレスに疲弊したため(21.0%)」、「勤務医または研究者時代に過重労働に疲弊したため(18.6%)」となっています。
このように、クリニック開業は自らの理想の医療を追求できるとともに、精神的なストレスを抑えることができると認識されていることがわかりました。
アンケート結果をもとに、クリニック開業の魅力について詳しく見ていきましょう。
出典:日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」
2.1収入増加が期待できる
開業医の年収は、勤務医と比べて高いとされています。厚生労働省の資料によると、令和4年度の企業規模計10人以上の職場に勤務する医師の平均年収は約1,428万8,900円です。
健康保険組合連合の資料によると、医療法人の院長の平均年収は平成30年度が2,745万円です。平成23年度が2,763万円、平成26年度が2,825万円と、ほぼ変動していないことがわかります。このように、収入増加が期待できる点は開業の大きな魅力と言えるでしょう。
出典:健康保険組合連合「第22回医療経済実態調査結果報告に関する分析」
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
2.2自身にとって理想の医療を目指せる
クリニック開業によって、自身が理想とする医療を目指すことが可能になります。
クリニックの診療方針から治療法の選定、提案方法まで、法律を遵守したうえで自由に定めることができます。
勤務医の場合、勤務先の医療機関の方針に従う必要があるため、ときには自身の考え方とは大きく異なることもあるでしょう。クリニックを開業すれば、最新の治療法の提供や患者が来院しやすい雰囲気作りなども可能です。
2.3働き方の自由度が高い
開業医は、自身のライフスタイルや育児、介護など、さまざまな事情に合わせて診療時間やスケジュールを自分で決めることができます。たとえば、家庭と仕事を両立するために特定の時間帯を予約制にする、週2回の休診日を設けるなど、働き方の自由度が高いことが大きな魅力です。
3.クリニック開業の注意点
クリニック開業は収入面や働き方の自由度などにおいて大きな魅力がある一方で、いくつかの注意点もあります。
3.1収入が必ずしも安定するとは限らない
クリニックを開業する際には、収入が必ずしも安定するわけではないことを理解しておく必要があります。
新規開設したクリニックは、患者数や収益が増えるまでに時間がかかるものです。特に、周辺地域に競合となるクリニックが多い場合は、かかりつけ医としてのポジションの獲得は難しいでしょう。
また、クリニックの新規参入による競争の激化や地域の医療需要の変動など、さまざまな要因で収益が変動します。
3.2経営と診療の両立が必要
医師として優れている人物が開業医として成功するとは限りません。
クリニックを開業すると、医療の専門性だけでなく、経営のスキルや知識も必要になります。収入と支出のバランスを踏まえた将来設計、スタッフの採用、設備の維持、マーケティングなど、さまざまな業務を行います。
診療に専念するためには、スタッフの適切な配置やタスクの分担、効率的なプロセスの確立などが必要です。
3.3集客のノウハウが必要
クリニック経営には、一定数集客ノウハウが必要です。現状は、Webマーケティングに強い病院が露出されやすく、対策していない医院は、集患に悩まれるケースは少なくありません。
ホームページ制作をしSEO対策を行い、「疾患名+地域名」などでGoogle検索で上位表示化させる、MEO対策、予約システムなど様々な対策が必要となります。
クリニックの集客方法は多岐に渡りますので、クリニックに特化した集客ノウハウを学ぶことが大切です。
4.クリニック開業のスケジュール
クリニックの開業にはさまざまな準備が必要なため、開業を検討する際は大体の流れを確認しておくことをおすすめします。特に、物件探しや銀行融資などはイレギュラーによって時間がかかりがちなため、できれば早めに行動を始めた方がよいでしょう。また、求人募集は早すぎると辞退されるリスクが高いうえに求人広告費も増加するため、4ヶ月ほど前から始めることが大切です。各種手続きは開業の2ヶ月ほど前から進めていくものの、早めに提出書類について確認し、期限までに提出できるように準備しましょう。
5.クリニック開業を成功させるためのポイント
クリニック開業を成功させるためには、収益を増やしつつコストを抑える、安定的に集患できる仕組みを作るなどの対応が必要です。次のポイントを押さえましょう。
5-1.専門外来を設ける
一般内科の診療は多岐にわたるため、一定の患者数が見込めるでしょう。しかし、自身の専門性を活かしつつ独自性を高めるためには、専門外来を設けることが必要です。
専門外来では、特定の疾患や診療分野に特化して診療を行います。自身の専門知識や経験を活かし、高度な医療ケアを提供することで、患者からの信頼を獲得しやすくなるでしょう。その結果、多くの患者が定期的に来院するようになり経営の安定化につながります。
5-2.固定費を抑える
クリニックを維持するために必要な固定費をなるべく抑えることで、純利益を高める方法があります。例えば、スタッフの配置の最適化、業務効率化、ITシステムの活用、過剰な広告費の削減、適切な在庫管理などによってコストを削減できます。
5-3.患者にとって魅力的な対応やシステムを導入する
患者の満足度を高め、クリニックの評判を向上させるために、患者にとって魅力的な対応やシステムを導入することが大切です。例えば、忙しい平日でも受診しやすくするために、週末や夜間に診療を行う方法があります。
急な症状やトラブルにも迅速に対応できるため、困ったときはこのクリニックに行けばよいという考えが生まれ、地域の評判も良くなるでしょう。
また、オンライン診療を導入するのも1つの方法です。患者の通院回数を減らし、通院の手間と時間を削減できます。
オンライン診療・遠隔医療対応でキャリアアップ・年収アップを!始め方を解説
オンライン診療の現状とは?医師が知っておきたい実務の流れと注意点
おすすめの電子カルテ24選!病院の規模や診療科目別にメーカーや機能を比較
5-4.経営に役立つ資格を取得する
経営に役立つ資格を取得することで、結果的に経営の知識やスキルを習得できます。次のような資格の取得を検討しましょう。
資格名 | 目的と特徴 |
医療経営コンサルタント | ・医療・介護施設向けの経営コンサルタント資格 |
病院経営管理士 | ・医療関連全職種が対象 |
医療経営士 | ・医療機関の経営者育成が目的 |
5-5.経営に必要なスキルを習得する
経営に必要なスキルを取得することは、クリニックの成功に不可欠です。次のようなスキルの習得を目指しましょう。
経営に必要なスキル | 説明 |
スタッフマネジメント | ・スタッフを適切に管理・指導し、効率的な業務運営を図るスキル ・スタッフのモチベーション管理やトラブル解決など |
コミュニケーション | ・患者とのコミュニケーション能力 ・患者の要望や不安を聞き出し、適切な情報提供や説明をできることが信頼関係の構築に繋がる |
マーケティング | ・クリニックの特長や治療内容を適切かつ魅力的に宣伝し、より多くの集患につなげるスキル ・外部の専門家に依頼する際もマーケティングの方針を持つことが大切 |
6.まとめ
クリニックの開設数は少しずつ増加しており、今後もその流れが代わることはないでしょう。ただし、開業医に不利な条件の法律や制度が制定されると、開設数は減少すると考えられます。クリニックを開業する場合は、経営の知識やスキルを習得したり、専門外来を設けたりすることを検討する必要があります。
本記事では、クリニック開業の魅力やスケジュール、成功のポイントなどについてご紹介させていただきました。
クリニック開業は自身が理想とする医療や自由度が高い働き方などを実現できる一方で、経営と診療の両立や経営の安定化にスキルが必要であるなど、メリット・デメリットがあります。今回、解説した内容によってクリニック開業に関する疑問や不安を解消できれば幸いです。