医師の診断書作成負担の現状は?働き方改革と書類業務の課題と将来

医師 診断書

患者のケアに専念する一方で、医師にとって書類作成業務は、日常の大きな負担の一つです。

医師が極めて厳しい労働環境に置かれている中、診断書作成に要する時間と労力を削減する必要性が以前から指摘されていますが、改善が進んでいないのが現状です。

この記事では、診断書発行が医師の負担となっている現状を確認した上で、書類作成の法的な側面や20244月より本格化する医師の働き方改革において、知っておきたいポイント、医師事務作業補助者などを紹介していきます。

1. 診断書発行は医師の大きな負担

医師の日常業務である書類作成業務の中で、診断書の作成は特に重い負担になっています。
ここでは、診断書作成業務がどの程度医師の負担になっているのが具体的に見ていきましょう。

1.1. 診断書発行の業務負担と過重労働

医師 診療書

2020年に厚生労働省から発表された資料によれば「診断書、診療記録及び処方箋の記載」の負担が大きい・負担が非常に大きいと感じている医師は、合計45.9%でした。

当直や長時間労働に並び、診断書を含む書類作成業務の負担は医師の疲労感を高める大きな原因の一つであることは明らかです。

現在では、20244月より医師の働き方改革が本格化をはじめ、医療のIT化も進展しています。

今後の医師の書類業務の負担軽減のための取り組みが、どの程度進んでいくのかが重要になってきます。

参照:「令和2年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(令和2年度調査)の報告案について」|厚生労働省

1.2. 診断書発行の義務とは

診断書作成業務が医師の大きな負担となっている背景には、医師法で診断書発行が義務付けられていることが考えられます。

医師が診断書を発行する際は、法的義務と責任が伴います。

医師法には、下記のように記載されています。

医師は診察や治療を求められた際に、正当な理由がなければこれを拒むことはできません。同様に、診察後に診断書の交付を求められた場合も、正当な理由がない限り拒否は許されていません。(医師法19条)

虚偽の記載を含む診断書を発行することは法的に罰せられる可能性があるため、医師は慎重に行動しなければなりません。(刑法160条)

また、医師が国公立病院等に勤務する公務員の場合は虚偽公文書作成罪が適用され、より重い罪に問われます。(刑法156条)

ただ、虚偽の記載をするよう求められた場合や、患者や第三者への情報漏洩の恐れがある場合など、一定の条件下では診断書の発行を拒むことが可能です。

診断書は重要な法的文書であり、その作成には細心の注意が必要です。

参照:診断書交付の義務 | 今日の臨床サポート

1.3. 文書作成業務と医師の負担

実際に医師はどのくらいの診断書を作成しているのでしょうか。

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日医総研のリサーチによると、2017年度において年間約947万枚(約1,000万枚)の診断書が発行されており、これに要する時間は推計約497万時間(約500万時間)にも上ります。

ただ、このデータでは臨床経験豊富な複数の医師への聞き取りにより、損害保険の診断書は1通あたり45分、自賠責保険は1通あたり20分、生命保険に関しては、死亡保険金の診断書は1通あたり10分、手術給付金(および入院給付金)の診断書は45分として計算しています。

診断書作成ソフトによる時間短縮効果は考慮されていないとはいえ、診断書作成が医師にとっていかに時間を要する作業か明らかです。

このように、診断書作成業務は、心身面だけでなく時間的にも医師にとって大きな課題となっています。

参照:「日医総研リサーチエッセイ No.69「民間保険会社の診断書作成にかかる医師の負担の実態」|日本医師会総合政策研究機構

2.医師の診断書発行の実務

 医師の診断書発行の実務について、診断書の種類や作成方法などを具体的に紹介します。

2.1.医師が発行する診断書の種類

医師が発行する診断書は幅広く、提出先も多岐にわたります。

公的な文書だけでも50種類以上が存在し、以下はその一部の具体例です。

  • 傷病手当
  • 障害年金
  • 身体障害者手帳
  • 公的介護保険

また、民間の手続きでは、生命保険会社や損害保険会社に提出する診断書が一般的です。

  • 医療保険
  • 死亡保険
  • 傷害保険
  • 民間の介護保険

保険会社によって書式が異なるため、医師にとっては複雑で時間を要する作業となっています。

参照:「診断書等料金表」|国立国際医療研究センター病院

2.2.診断書の作成方法

診断書の作成には、病院独自の様式である自院様式のほか、保険会社様式や公的機関指定の様式などがあります。

診断書の費用は通常患者の自己負担で、作成・発行には数日から数週間かかると説明するケースが一般的です。

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今回紹介した3つの様式のうち、自院様式を使用する場合、作成にかかる時間や手間が少ないことが多いです。

保険会社様式や公的機関特定様式は個別の対応が必要で作業負担がかさむケースがあります。

例えば、診断書が必要な理由が交通事故の場合、治療や補償のためには、特定の自賠責保険専用の様式での診断書作成を求められることがあります。

参照:2012 医療文書作成業務・文書料金実態調査(訂正版)」|産労総合研究所附属医療経営情報研究所

2.3.医師が診断書発行を拒否できるケース

医師は医師法に基づき、患者からの診断書交付要請には通常応じなければならない義務があります。

しかし、診断書が恐喝や詐欺など不正に使用される恐れがある場合や、がん不告知のように病名がわかることが患者にとって好ましくない場合など、一定の条件で診断書の発行を拒否することが可能です。

また、患者のプライバシー保護のために、患者本人または承諾権者以外からの作成申請についても拒否が許されています。

参照:勤務医のページ/診断書発行の義務と勤務医の過重労働/栃木県医師会勤務医部会長 福田  健

3. 医師の診断書作成は代行できる?

本来医師が責任を負うべき診断書作成の代行は許されているのでしょうか。

3.1.働き方改革と医師業務代行の関係性

2008年度(平成20年度)の診療報酬改定により医師事務作業補助体制加算が新設されました。

この加算は、医師の日常業務を圧迫する診断書作成の負担軽減のため、診断書等の代行入力を医師事務作業補助者が行えるというものです。

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そして、働き方改革の一環として、厚生労働省により医師の長時間労働を是正するための措置を講じる流れが加速しており、医師の労働時間の削減に医師事務作業補助者の導入が大いに期待されています。

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参照:勤務医のページ/診断書発行の義務と勤務医の過重労働/栃木県医師会勤務医部会長 福田  健|日本医師会
参照:第7回医師の働き方改革に関する検討会「(資料2)医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(案)」|厚生労働省

3.2.診断書作成を代行できる「医師事務作業補助者」とは?

医師事務作業補助者は、2000年代初頭に医師の過重労働を軽減するために導入された職種です。

導入当初は、診断書の代行作成などの事務作業補助からスタートしました。

やがて、2008年の診療報酬改定で「医師事務作業補助体制加算」が新設され、医師が事務作業補助者と連携することで、医療の効率性向上が図られました。

この背景には、タスクシフトシェアの概念が取り入れられています。

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参照:医師事務作業補助者とは | 日本医師事務作業補助者協会

3.2.1.医師事務作業補助者が代行できる業務

①医療関連の各種書類作成:診断書、主治医意見書、紹介状、診療報酬の算定に関わる書類等
※医師が最終的に確認または署名・電子署名をすることが条件

②診療録の代行業務:電子カルテなどの医療記録の代行業務、臨床写真の取り込みや手術記録等

③診察前の問診代行:医療機関の定めた定形問診票を用いて、診察前に患者の病歴や症状などを聴取する業務

④検査説明や同意書の受領:日常的に行われる18検査についての定型的な説明等を行い、同意書を受領する

⑤入院時オリエンテーション:医師などから入院に関する医学的な説明を終えた後、療養上の規則等の入院時オリエンテーションを行い、同意書を受領する

⑥院内での患者移送や誘導

⑦症例実績や各種臨床データの整理:治療に関するデータの収集や整理、カンファレンスの準備、当直表の作成など

医師事務作業補助者は、特に資格を必要としませんが、検定試験や技能試験がありますので、資格を保持しているかを確認してみるのも良いかもしれません。

参照:「働き方改革の推進について(その2)|厚生労働省

3.2.2.  医師事務作業補助者が代行できない業務

医師事務作業補助者は、医師以外から指示された業務や医師の仕事ではない業務を行うことはできません。具体的には下記のようなものになります。

① 医師以外から指示された業務:医師事務作業補助者は「医師事務作業補助体制加算」に規定された職員であり、医師以外に指示された業務は受けてはならないよう定められています。

② 医師の仕事ではない業務:受付や窓口業務(医療事務)、レセプト業務(医事課)、医療機関の運営や運営のためのデータ収集、看護業務の補助(看護助手)など医師のサポートでも医師が担当する業務ではないものは除外されます。

参照:「医師事務作業補助体制加算について|厚生労働省」

3.3.医師事務作業補助者により負担は軽減している

医師事務作業補助者により医師の業務負担は実際に軽減しています。

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厚生労働省の調査結果によると、「医師事務作業補助者の外来への配置」が医師の負担軽減策の中で最も効果的であると42.6%が回答しました。

また、2位「医師の増員」(32.9%)、3位「当直翌日の業務内容の軽減(当直翌日の休日を含む)」が(15.6%)と比べて医師事務作業補助者が医師の負担軽減に大きな役割を果たしていることがわかります。

このような結果より、医師事務作業補助者を導入することは、2024年4月に開始する医師の働き方改革においても、医師の診断書作成業務の時間を削減できる可能性が期待できます。

参照:「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進に係る評価等に関する実施状況調査報告書」|厚生労働省

4. 診断書発行の負担軽減策

診断書発行を負担軽減するには、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が不可欠です。
下記で具体的な対策例を3つ紹介します。

4.1. 医療文書作成システムで効率化

第一に、医療文章作成システムの導入が効果的です。

具体例として、北陸コンピュータ・サービス株式会社が提供する医療文書作成システム導入により、精神科病院での文書作成時間が半分に削減され、業務効率が大幅に向上したケースがあります。

入力ミスの軽減はもちろん、報告書の提出期限を自動表示する機能により作成漏れが大幅に減少しました。

また、医師や職員は文書作成の負担が減り、患者や家族とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになったことも大きなメリットです。

全職員が簡単に操作できるシステムであるため、情報の院内共有もスムーズになり、病院全体のサービス質の向上に貢献しています。

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参照:医療文書作成システム導入で、精神科病院における業務効率化と医療サービスの質向上を実現した事例|導入事例|北陸コンピュータ・サービス株式会社

4.2. 電子化・ペーパーレス化と負担軽減

第二に、医療現場の電子化やペーパーレス化による負担軽減も重要です。

医療現場では、電子カルテの導入によるデジタル化が進んでおり、情報管理の時間を大幅に削減しています。
特に、紙のカルテに比べて情報を抽出する時間が一気に短縮されました。

また、問診票のデータ連携による情報共有がリアルタイム化し、患者の待ち時間短縮や感染リスクの低減にも効果的です。

ペーパーレス化は院内情報管理を効率化し、チーム医療の実践にも役立っています。

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特に、診断書作成の電子化に重要な役割を担うものが、診断書の機械印字化を促進する認定ソフトです。

現在、1,000ヶ所を超える医療機関が認定ソフトを活用しており、生命保険会社の様式に対応した診断書作成業務の医師負担軽減につながっています。

以前は補助金が支給されていた時期もあり、保険業界でも日本医師会と連携しながら医療現場の効率化を目指しています。

参照:診断書の機械印字化 | 協会の取組み | 生命保険協会

4.3. 医療のICT化と診断書発行の今後

医療のICT化により医師の診断書発行は今後どのように変化するのでしょうか。

電子カルテ管理による診断書作成の簡略化とオンライン診療の普及がより一段と加速すると考えられます。

特に、医療ICT化が推進されることで医師や患者間のコミュニケーションがスムーズとなり、業務効率化や医療の質が向上するでしょう。

例えば、電子カルテへの導入により文書作成時間を短縮し、オンライン診療の普及で離島や山間部など患者の通院が難しい遠隔地にも質の高い医療が提供できます。

ただし、ICT化でより高度なセキュリティやシステムエラーへの対策が必要です。

現在、現場で電子カルテの普及が進み、コロナ禍を契機としてオンライン診療が一般的な医療サービスへと変わりつつあり、地域医療連携ネットワークの進展が期待されます。

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参照:「第2章 医療分野におけるICTの利活用の在り方」|総務省
参照:オンライン診療について|診療支援|診療支援|医師のみなさまへ|日本医師会
参照:「平成28年度第2次補正予算「クラウド型EHR高度化事業」の運用状況」|総務省

  5.まとめ

医師の過重労働を代表する診断書作成の負担を軽減するため、電子カルテの導入やオンライン診療、医師事務作業補助者の活用が進められています。

結果として、診断書作成作業がシンプルになり、医師の作業負担も実際に減少してきました。

今後はセキュリティ強化やシステム対策を含めた医療ICT化の進展を通して、更なる業務効率化と医療の質の向上が求められます。