医師の転職動向 求人数の変化や診療科による転職事情を解説

Doctor Job change

医師として勤務するうちに、労働環境や給料に満足できなくなり、転職が頭をよぎることもあるのではないでしょうか。
転職したいと思っていても、日々の業務に追われてなかなか行動に移せない人もいるかもしれません。

「転職したいけど、医師の転職市場について動向をよく知らない」
「診療科や転職を考えている地域によって、事情は違うのだろうか」

と考えている医師向けに、今回は統計からみた医師の求人数の変化・都市部と地方・診療科による転職事情の違いについて解説します。

1.全体的な医師転職求人数の市場動向

医師の転職求人数は新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)で一時的に影響を受けましたが、行動制限や新型コロナの扱い変更によって回復傾向となっています。ここでは、具体的な転職市場の動向について紹介します。

1-1コロナ禍前と現在の比較

2020年から世界中で流行した新型コロナによって、地域の基幹病院や大学病院では新型コロナの中等症・重症者となった入院患者を受け入れるため、入院や手術の延期・外来診療の制限・一時的な休診を行いました。
開業医でも内科や耳鼻咽喉科を中心に、PCR検査を求める患者や、ワクチン接種を希望する人が殺到して大混乱が発生したニュースは記憶に新しいところです。

こうした混乱や、患者による病院の受診を控える動きが起こったことで、求人を出す余裕がなくなり、一時的に減少する動きが見られました。
しかし、2023年5月8日以降は新型コロナが第5類に移行し、行動制限も完全に解除されたことを受け、今後は受診者の増加とともに求人数も回復していくことが予測されます。

1-2厚生労働省の資料から見る医師求人数の動向

医師の転職動向
※厚生労働省の資料を参考に弊社にて作成いたしました

厚生労働省は毎年「職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」を発表しています。
これは、職業紹介事業者(転職エージェントなど)から年度毎に「職業紹介事業報告」が厚生労働大臣に提出されており、上記の表は医師の求人数を抜粋してまとめたものです。

常勤の医師の求人数を表す常用求人数(有料)は令和元年から一貫して増加していますが、特に令和2年から令和3年にかけて大幅に増えています。
これは、新型コロナに対して病院側の対応がある程度落ち着いたこと、受診控えが落ち着いたことが影響していると考えられます。

また、アルバイトや非常勤医師の求人数を表す臨時日雇求人延数(有料)・臨時日雇就職延数(有料)も年を追うごとに増えており、常勤・非常勤を問わず医師の求人数は増加傾向にあることが分かります。

出典:厚生労働省「令和2年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」
出典:厚生労働省「令和3年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)

1-3医師の人数に対して求人数は多い

厚生労働省が発表した「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和2年度に何らかの医療機関で勤務している医師の人数は339,623人です
常用求人数(有料)は令和3年度で442,299件であることから考えても、医師の求人数は勤務している人よりもはるかに多いことが読み取れます。

もちろん、諸事情でいったん退職してから転職する人もいるので一概には言えませんが、求人数の増加もあり、勤務している医師以上の求人があることは間違いないでしょう。

出典:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」

2. 地域別に見る求人数とニーズ

2-1都市部と地方の比較

転職動向の地方比較

ニッセイ基礎研究所の「都道府県ごとの医師偏在指標(確定値)」によると、東京や近畿圏・福岡などの九州地方や西日本の一部地方に多くの医師が集まっていることが分かります。
逆に埼玉・千葉といった一部の都市圏や、東北・中部地方など東日本に医師が少ない傾向が見て取れます。

これは、人口に対して医師の数を割り出したデータなので一部都市圏でも医師が少ないという結果になっています。
一般的には、都市部に医師が集まる傾向があり、地方は医師不足に悩む地域が多い傾向があると言えるでしょう。

出典:ニッセイ基礎研究所「医師の需給バランス 2022-医師偏在是正のためにどのような手立てが講じられているか?」より「都道府県ごとの医師偏在指標(確定値)」

2-2地方の求人に注目が集まる傾向

人口の多い首都圏・関西圏・名古屋圏などの都市部は病院数も多いため、求人も増え、志望者も多く集まります。
志望者が多く集まると、求人に対する競争率も高まり、持っているスキルや経験値によっては、なかなか内定を得られないという現象も起こっています。

一方、地方ではそもそも医師の数が足りない病院が多く、求人数が志望者を上回る状況が続いています。
地方の病院は医師が集まらない状況をカバーするため、都市部の求人に匹敵するくらいの好条件を準備していることがあります。

特に地方の県庁所在地など地域医療の中心となる病院では、できるだけ優秀な医師を採用するために好条件を提示して採用したいと考えているのです。
それでも都市部ほど志望者が集まることは少ないので倍率が低く、内定を得やすいというメリットもあります。

ただし、注意したいのは生活環境や勤務環境が合わなかった場合、辞めたいと思っても地域の医療体制に大きな影響が出るため簡単に退職できないリスクもあります。
転職する際は、どんな条件を優先したいのかをしっかり見極めてから応募することをおすすめします。

3. 診療科別のニーズ動向

医師の転職動向は、診療科によっても左右されます。ここでは、主な診療科の転職ニーズについて紹介します。

3-1内科

内科は、患者がどの診療科を受診していいか分からない場合に、最初の受け皿となる診療科でもあります。
総合病院では必ずある診療科である反面、開業医が多い診療科です。逆に勤務医は不足気味であること、受診者も多いことから全国にまんべんなく求人が存在します。
分野に特化した場合一番多いのは、循環器内科、次いで消化器内科です。

ただし、内科でも血液内科や呼吸器内科など、特化したスキルを持っている場合は、専門医を置いている病院は大学病院など一部となり、逆に求人数が少なくなる傾向もあります。
その病院がどんな分野の患者を重点的に受け入れているのか、治療成績はどうなっているのかを確認してみることをおすすめします。

3-2外科

外科も、総合病院にほぼ設置されている診療科です。その中でも、一般外科・整形外科が多く求人も全国で広く募集されています。
近年、需要が高まっているのが脳神経外科や消化器外科・心臓血管外科といった特定分野に強い医師です。
高齢化により、脳疾患や心疾患、消化器系のがん患者は増加傾向にあります。

消化器外科であれば内視鏡手術や内科業務までカバーできる人材、脳神経外科や心臓血管外科であれば手術の経験を積んだ医師が重宝されます。
病院の診療科構成によって、求められるスキルなどが少しずつ違いますので、じっくり求人内容を確認してみるといいでしょう。

3-3眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科

眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科については、ワークライフバランスを重視する女性医師が多く存在しています。
総合病院で診療科として設置している場合でも、定員は内科や外科と比較しても少なく、募集してもすぐに締め切られることが多いようです。
専門病院やクリニックはあまり多くないので、根気強く求人を探していく必要があるかもしれません。

皮膚科の場合は、美容に特化した美容皮膚科としてクリニックや美容外科で働くことも可能です。
手術はそこまで多くない診療科ですが、逆に手術の経験値が多い場合はピンポイントで求人が見つかることもあります。

3-4精神科(心療内科)

ストレスが多い現代氏社会において、メンタルヘルスについて企業でも重視されるようになったことから、患者数が増加しています。
開業医も増えていますが、総合病院・専門病院・クリニックなど幅広い施設で求人が出ているので、転職しやすい診療科だと言えそうです。
時には、患者と粘り強くコミュニケーションを取ることも求められますので、対話力を持っているかどうかを重視されることもあります。

3-5リハビリテーション科

損傷した身体機能を回復・向上させたり、退院後に患者がよりよい生活を送れるように支援したりするのがリハビリテーション科です。
基本的に外来として対応することはあまりなく、当直や夜勤も少ないのでワークライフバランスが取りやすい診療科です。

リハビリテーション専門の経験より、脳疾患を扱う脳神経外科、ケガの治療をする整形外科などの経験を併せ持った医師を求めるケースが増えています。
今後、ますます高齢化社会となり、リハビリが必要となる場面は増えることからニーズは増加傾向にあると言えるでしょう。

3-6小児科

小児科は、少子化により総合病院でも設置しているところが減少傾向ですが反面、人材が多いとは言えず常に求人が出ている診療科です。
外来対応のみを行う病院・クリニックと、三次救急まで対応する総合病院や基幹病院があり、手術まで含めたスキルを持つ経験豊富な医師はかなり少ないため、重宝されています。

若者を呼び込んでいる自治体では、小児科を新たに設置したり、増員したりするケースもありますので、「子育て支援」をキーワードに調べてみると意外な求人が出てくる可能性もあります。

3-7産婦人科

産婦人科医は少子化で年々減っている反面、不妊治療や更年期治療など以前よりもニーズが拡大しています。
特に産科が全国的に減っており、総合病院や地域の中核病院では産婦人科医を募集するもなかなか採用できないケースも発生しています。

さらに高齢出産の増加などで出産時に緊急手術が必要となることもあり、高い技術と経験を持った産婦人科医は非常にニーズが高いです。
また、産婦人科は女性患者が相手ということもあって、施設によっては女性医師を希望するケースもあります。

3-8美容外科

近年、美容外科は飛躍的に伸びている分野です。
美に対する意識の高まり、再生医療の進化から都市部を中心に美容クリニックが多くなっており、求人も比例して増えています。

施術実績と経験があり、医師個人の知名度が上がれば給与もかなりアップします。
女性の美への思いや希望をしっかり聞き取り、対話するコミュニケーション能力も重視される診療科です。

3-9救命救急

24時間365日対応しなければならない救命救急は、非常にニーズが高い反面負担が大きいことから、なり手が少ないという現状があります。
体力的・精神的にもハードですが、以前に比べて休日・休息をしっかり取れる医療機関も増えてきました。

総合病院や地域の中核病院などに求人が多く、瞬時の判断と的確な応急処置ができる高い技術が求められています。

3-10産業医

医療機関と異なり、企業内で社員のメンタルケアや健康相談・簡単な応急措置を担当します。
嘱託として働くか、企業に社員として雇われるかによって待遇は変わりますが、医療機関のように当直や夜勤がほとんどなく、勤務時間・休日も企業に準じているので、ワークライフバランスが取りやすいと人気です。
応募するためには、産業医資格を持っていることが前提となります。

3-11人間ドッグや健康診断

健康診断を専門に行うクリニックや医療機関に勤めるか、一般病院で内科などの外来業務と兼任するのが一般的です。
健康診断を専門に行っている施設の求人は企業の事業所が集中する都市部に多く、人気も高い診療科となります。

その中でも、胃カメラやCT・MRI・マンモグラフィ検査の技能を持っている医師は重宝されるケースもあるようです。
婦人科の検査では患者が女性医師を要望することが多く、加えて産業医資格を持った医師を希望するケースもあるので、産業医資格を持っておくといいのではないでしょうか。

3-12その他

病理診断科・臨床検査科については、ある程度規模の大きな病院に設置されていることが多く、求人自体もそこまで多くはありませんが根強いニーズはあります。
放射線科は、画像診断がメインとなりますが、一部侵襲性の少ないがん治療も担当することがあります。

今後、高齢化によってがんなどの患者増加が見込まれるのと同時に、求人も増えていくのではないでしょうか。
麻酔科については、手術に欠かせない診療科です。
元々数がそこまで多くない上に、求人もそこまで出ていませんが必要不可欠なので非常勤として複数病院を受け持っている医師もいます。

4. 医師転職で持っておきたい資格

医師が転職を考える際、医師資格以外にも持っておくと技量や経験を証明することができる資格があります。都市部の求人では志望者も多くなるため、こうした資格を持っていないと書類選考で不利になることもあります。

ここでは、認定医・専門医・指導医・産業医について紹介します。

認定医認定医は1990年に制定されました。
医師資格を取得した後、2年の研修医期間を経たうえでその診療科で3年程度の勤務経験などが求められます。
自身の診療科の学会に所属したうえで、学会や講演会への所属をはじめ、出席歴や診療経験年数、治療実績や研究発表の内容・筆記試験などをクリアした医師が得られる資格です。
診療科によって認定基準が違いますので、詳細は所属学会のホームページなどで確認しましょう。
年代としては30代前半~半ばくらいからの取得が目安です。
専門医専門医は、2006年に新設された資格です。
認定医を取得した後さらに診療経験・学会発表などを積み重ね、学会が実施する認定試験に合格した医師が得られる資格です。
こちらも診療科によって学会で定められる基準がありますので、確認しておくことをおすすめします。
また、2018年に「一般社団法人日本専門医機構」が設立され、こちらにも専門医の認定制度があります。学会で得られる専門医とは違いますので、日本専門医機構の研修制度や専門医についても、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
30代後半~40歳過ぎの取得が多いようです。
指導医指導医は、認定医・専門医よりもさらに上位の資格です。
豊富な診療経験をはじめ、学会発表履歴・治療実績など高度な経験と技能を持っていると学会が認めた医師に与えられる資格となります。
40代半ば以降の取得が多くなりますが、所属する学会によって認定基準が違いますので、将来的な取得を検討している場合は、確認しておくことをおすすめします。
産業医

産業医の資格は、決められた研修・講習会を受けて所定の単位数を取得することで得られます。
資格は5年毎の更新制となっています。
資格取得に必要な研修・講習会の実施情報については、日本医師会ホームページなどで確認することをおすすめします。
早い人では20代後半から取得を考えるケースもあり、認定医などよりも取得しやすい資格であることも人気の理由です。

    5.まとめ

    医師の近年の転職動向や、都市部と地方の求人実情、診療科別のニーズ、転職に際して持っていると有利になる資格まで解説しました。転職を考えるタイミングは、ライフステージや勤務環境などによって人それぞれです。

    自分らしく働くために、転職市場についてもアンテナを張っておくことで多様なキャリアを実現することができます、長期的な視点で、医師としてのキャリアアップを考える一助となれば幸いです。